
レアアース:駆け引きの先にある難題
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トランプ米大統領とウクライナのゼレンスキー大統領との2月末の首脳会談決裂を受け、宙に浮いていた希少鉱物資源に関する協定調印問題など、米国・ウクライナ間の関係修復協議が進んでいる。
ウクライナの地下に眠る希少鉱物(レアアース)については、ゼレンスキー大統領が昨年10月に発表した「勝利計画」の中の1項目として、ウクライナの安全に対する欧米からの保証への「見返り」として、共同開発を提案していた。
これに対してトランプ氏は「レアアースでも何でも、米国が投じた資金に見合うものを求めていく」と「投資の回収」を主張し、希少鉱物など天然資源に留まらず、港湾インフラなどからの収益の50%を譲渡する協定締結を求めていた。
「見返り」か「投資回収」か、意味づけは異なるが、ウクライナの地下資源を「有効なカード」と見なす点では共通している。しかしトランプ氏が執着するほどに、ウクライナの希少鉱物は「おいしい話」なのだろうか?
ウクライナが世界の鉱物資源の5%を保有する資源の宝庫なのは間違いない。EU(欧州連合)が指定する重要鉱物34種のうち22種があるとされる。特にEV(電気自動車)やスマートフォンの電池に利用されるリチウムの埋蔵量は約50万トンと、欧州全体の3分の1を占める。航空機の機体に使われる軽金属チタンも、ロシアの侵攻前には世界の生産量の7%を占めていた。
問題はこの鉱床の多くがドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)、ザポリージャ州、ヘルソン州など、現状ではロシア占領下にある点だ。2200兆円以上といわれる希少鉱物資源の70%がロシア占領下にある、とフォーブス誌は推定している。
プーチン大統領はこれを踏まえ、2月24日になって「ロシアはこの種の資源を桁違いに大量に保有している」と発言。「新たな歴史的領土を含め、米国など外国のパートナーと協力する用意がある」と猛烈にアピールし始めた。この提案は欧米諸国にとって注意が必要だ。「新たな歴史的領土」、すなわち占領地における共同開発が現実になれば、ロシアの実効支配の国際的承認につながるとの、プーチン政権の思惑が見え隠れするからだ。
しかも採算に見合う鉱床を掘り当てたとしても、原料の分離・精製工程は採掘よりはるかに難しいとされる。世界の希少鉱物は、米国やオーストラリアで産出されるようになって寡占状態が解消されつつあるとはいえ、中国が圧倒的シェアを占める状態は揺らいでいない。中国が有利なのは、供給量で世界の60%を担い、さらに分離・精製能力では90%を占めている点だ。
オーストラリアのレアアース生産企業はマレーシアに処理プラントがあるが、分離・精製の際の放射性廃棄物への懸念から地元での反対運動に直面している。
ゼレンスキー大統領は米国の支援取り付けのため、最終的には「希少資源カード」を差し出さざるを得ず、トランプ氏は手に入れた希少資源で、中国による寡占状態に風穴を開けようと前のめりになっているように見える。しかし首尾よく採掘権を取得しても、トランプ政権が環境問題などを克服して製品化し、中国企業に対抗できるまでには、乗り越えねばならない課題が山積している。
バナー写真:サウジアラビア西部ジッダで開かれた米ウクライナの高官協議で、米国のルビオ国務長官(右)に弾薬箱に描かれた宗教画を見せるウクライナのシビハ外相=2025年3月11日、ウクライナ大統領府提供(AFP=時事)