
トランプ砲に翻弄される世界
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トランプ氏が米国大統領に就任して1カ月。この短期間で新大統領がすでに数多くの騒動を起こし、世界を混乱に陥れていることは説明するまでもない。
その一方でトランプ氏の大統領への返り咲きによって、世界は民主主義やグローバル化、移民社会などというこれまでの諸問題について改めて考えさせられることになった。その意味で、トランプ氏は反面教師の役割を果たしているとも言えそうだ。
77年以上もイスラエルの軍事占領下で苦しめられているパレスチナ。イスラエル軍による不法な弾圧や無差別攻撃によって、パレスチナ住民の生存は極限まで脅かされている。こうした中の2月4日、トランプ大統領はホワイトハウスで盟友のネタニヤフ・イスラエル首相との共同記者会見に臨み、イスラエルとパレスチナの紛争を終わらせる新たな和平案、いわゆる「ガザ地区開発案」を得意げに発表した。だが、世界を翻弄(ほんろう)し続けるトランプ氏らしく、歴史的経緯や国際法を無視した破滅的な内容だった。
パレスチナ暫定自治区のガザ地区からパレスチナ住民を追い出し、米国がガザを「所有」するというのが、その提案だ。トランプ氏はガザをリゾート開発するとまで発言した。「イスラエルを守るためにはパレスチナ人全員を他の国へ追い出してもいい」と言わんばかりのこの論理に対して、今の世界は、まさしく「国家の品格」ならぬ「人間社会の品格」が問われている状況に思えてならない。
トランプ流の「マッチョ論」は、詭弁に満ちあふれ、いかに非道なことでも力で押し通すことができれば「良し」とする。そして現在の米国にはなぜかそれを受け入れやすい土壌が生まれているように思える。たとえ、それが「民族とその領土の争奪」であっても、である。
しかし、歴史の知恵が指し示すのは「剣を取るものは剣によって滅ぶ(マタイの福音書)」ということだ。
イソップの寓話に「戦争と傲慢」という話がある。
「神々が結婚式を挙げ、それぞれ伴侶が決まったのだが、ポレモス(もめ事、戦争)は最後に遅れて到着した。一人だけ残っていたヒュブリス(傲慢、おごり)をめとることになる。もっとも、ポレモスはヒュブリスを熱愛していて、ヒュブリスの行くところにはどこにでもついて行くのであった。されば、傲慢が民衆に笑みを振りまきながら、諸国民諸都市を訪れることのないように。その後から、たちまち戦争がやって来るのだから」(「イソップ寓話集」岩波文庫・中務哲郎訳)
言葉の端々からおごりを放出しながら、もめ事を増やし続けるトランプ大統領は、ポレモスとヒュブリスが合体したように見える。
バナー写真:ホワイトハウスにイスラエルのネタニヤフ首相(左)を迎えるトランプ米大統領=2025年2月4日(AFP=時事)