イスラエルが負う「道徳」とは
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「ユダヤ民族国家イスラエル」。われわれメディアの常套句だ。
米国の歴代大統領は、国内の強力なユダヤ・ロビーに慮(おもんぱか)って、イスラエル支持を堅持してきた。ドイツ政府も、ナチス政権によるホロコーストへの贖罪(しょくざい)意識から、基本的にイスラエルを支持し続けている。
彼らの親イスラエル姿勢は、「イスラエル=ユダヤ民族国家」が大前提になる。確かに「建国宣言」は「ユダヤ人国家は全てのユダヤ人に広く門戸を開放し、(中略)国家の一員としての地位をユダヤ人に対して授ける」と謳(うた)っている。しかしイスラエルはユダヤ人国家なのだろうか?
イスラエル建国で、その地に住んでいたパレスチナ人70万人が故郷を追われ、ヨルダン、レバノンなどに逃れた。パレスチナ難民と呼ばれる人たちだ。この時、少数ながら自らの土地に留まることを選択したパレスチナ人がいた。イスラエル国籍を取得した彼らの子孫たち「アラブ系イスラエル人」は、アラビア語を話し、ほとんどがイスラム教徒で、ユダヤ人の下の二級市民として共存している。
私が中東特派員だった1980年代は、イスラエルが世界中からユダヤ人移民を迎え入れ、ユダヤ人国家の体裁を必死で維持しようとしていた時期に重なる。テルアビブ空港でエチオピアからの漆黒の肌のユダヤ人集団の到着に驚愕し、キオスクに並ぶロシアからのユダヤ移民向けのロシア語雑誌の数に目を見張った。
しかし、アラブ系家族の出生率は高く、その人口は1990年87万人、97年110万人、現在は約200万人。イスラエル中央統計局の一昨年5月の統計では、約950万国民のうちユダヤ人は74%、アラブ系は21%と、5人に1人はユダヤ人ではないのだ。
ネタニヤフ政権の一角を担う極右政党は、パレスチナは「神から与えられた土地」と言う。だからガザ地区でユダヤ人入植地建設を再開し、パレスチナ人を一掃すると主張し、停戦への障害になっている。
しかし、自国内に5人に1人のアラブ系国民を抱える今、ガザからパレスチナ人を追い出すことに何の意味があるのか? 「イスラエル=ユダヤ民族国家」は既に破綻している。
理論物理学者アインシュタインはユダヤ人国家建設に賛同し、イスラエル初代大統領にも擬せられたことで知られる。彼はパレスチナ住民との関係について、友人宛にこんな趣旨の書簡を書いている。「彼らに対してどんな態度をとるかが、民族としての私たちの道徳水準が試される試金石になる」
イスラエルがユダヤ人、アラブ人の混成国家との現実を謙虚に直視すれば、両民族が嫌々ながらも互いの存在を認め、共存することこそ本質的なことに思える。国際政治のカードでもなく、国内政争の具でもなく、人間として「道徳」のレベルが問われている。
バナー写真:「エルサレムの日」(1967年の第3次中東戦争でイスラエルが東エルサレムを占領した記念日)に、旧市街の「嘆きの壁」周辺に集まったイスラエルの民族主義者ら=2024年6月5日(AFP=時事)