旧統一教会とニッポン

安倍元首相襲撃事件と「政治の力」⁉  ジャーナリスト・有田芳生氏が語る自民党と教団との関係

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2022年7月の参院選期間中に安倍晋三元首相を襲撃・殺害した山上徹也被告(42)は、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の熱心な信者の息子だった。教団への恨みが犯行の原因で、安倍氏は、教団との関係が深かったことで標的とされた。旧統一教会の問題を40年にわたって取材してきたジャーナリストで前参院議員の有田芳生氏(71)は、宗教で崩壊した家庭に育った「宗教2世」の問題をこれまでも取材してきたが、なぜ、事件は防げなかったのか。有田氏に、教団と政治との関係について聞いた。

国会議事堂の西側には、衆参両国会議員の活動拠点となる地上12階建ての3棟のビルがある。有田氏が現職時代に使っていた北側の参院議員会館事務所からは、自民党本部が見渡せた。安倍元首相が銃撃された後の雨の日に事務所の窓から見た光景は、今でもはっきりと覚えている。

「自民党本部の敷地内に設けられた献花台に長い列ができ、母親に連れられた子どもたちも並んでいました。安倍さんも、まさか旧統一教会の問題で白昼に暗殺されるとは思ってもいなかったでしょう。不幸な亡くなり方をされたと思います」

故安倍晋三元首相に弔意を示すため、自民党本部に設けられた献花台で手を合わせる人たち=2022年7月15日午後、東京・永田町(時事)
故安倍晋三元首相に弔意を示すため、自民党本部に設けられた献花台で手を合わせる人たち=2022年7月15日午後、東京・永田町(時事)

裕福な家庭に生まれた山上被告を一変させた旧統一教会

複雑な思いもあった。ジャーナリストとして長年、宗教問題を取材し、旧統一教会の霊感商法や過剰な献金の問題を追及してきた。2010年に参院議員に当選してからも、国会の質疑で旧統一教会の被害者問題を取り上げてきた。それでも、国が抜本的な対策に動くことはなかった。

有田芳生氏
有田芳生氏

殺人などの罪で起訴された山上被告は、兄と妹を持つ3人きょうだいの次男として育った。もともとは裕福な家庭だったが、父親が亡くなった後に母親が旧統一教会の熱心な信者になり、生活が一変した。母親は家族の財産を次々に売却し、最後には家族が住んでいた自宅も売ってしまった。献金の総額は1億円を超えるという。多額の献金が原因で、02年には破産宣告を受けた。生活は困窮を極め、山上被告自身も大学進学を諦めた。

山上被告の兄は病を抱えていた。兄の医療費を工面するため、05年に死亡保険金の受取人を兄にして自殺未遂をしたこともある。その時は一命を取り留めたものの、自らの命を捨ててまで助けようとした兄は、15年に自殺した。

「山上被告の家庭は不幸でした。私は旧統一教会問題に関する講演を全国各地でしていますが、山上被告のことを話すと、泣きながら聞いている人もいます。だからでしょう。山上被告には、大事件を起こした犯人であるにもかかわらず、全国からたくさんの食料品や現金の差し入れが届いています」(有田氏)

尾行、脅迫、暴行… 取材中に受けた嫌がらせ

有田氏が旧統一教会を取材するようになったのは1980年代半ばからだ。後に、週刊誌「朝日ジャーナル」の旧統一教会霊感商法追及キャンペーンにつながる。

「もともと旧統一教会は、花、ハンカチ、靴下などを販売して教団の資金を稼いでいました。しかし、それでは大した額にはなりません。75年7月に文鮮明(ムン・ソンミョン)教祖から日本の組織に送金命令が出され、そこから霊感商法に移っていきました」

霊感商法に使われたのは壺、多宝塔、印鑑、ペンダント、指輪など。何ということもない商品が、原価の数十倍で販売されていた。記事が掲載され始めると、有田氏は嫌がらせを受けた。

「自宅への無言電話、尾行も受けました。地下鉄の階段で殴られて『俺の顔、覚えとけよ』と言われたこともありましたね。脅迫の手紙にはカッターナイフが仕掛けられていて、封を開けると指が切れる仕組みになっていました」

有田氏が統一教会を取材し始めたのは、日本経済がバブル景気に沸いていた時代だ。それも90年代初めに終焉し、その後に訪れた不景気は様々な社会問題を引き起こした。人々の心に不安が広がっていったころ、旧統一教会の問題がテレビで話題になり始めた。92年、人気歌手の桜田淳子さんがソウルで開かれた教団の合同結婚式に参加したことは、雑誌やテレビの芸能ニュースで繰り返し取り上げられた。93年には、新体操の元選手の教団脱会騒動も話題になった。

「私も、92〜94年の間に旧統一教会に関する記事を100本以上書きました。しかし、新聞やテレビニュースでは結局は芸能ネタ扱いでした。霊感商法が社会問題として取り上げられることは、ほとんどありませんでした」(有田氏)

オウム真理教事件で変化した報道

一時は世間を騒がせた旧統一教会も、次第に関心が失われていった。特に、95年にオウム真理教による地下鉄サリン事件が起きてからは顕著になった。14人が死亡、約6300人が被害に遭った世界初の化学兵器テロに、ニュースはオウム一色になった。旧統一教会の問題は話題にすらのぼらない。有田氏への仕事依頼も、オウム真理教に関するものがほとんどになる。「週刊誌に旧統一教会のネタを売り込んでも通らず、編集者からは『オウムに比べるとね…』と言われるばかりでした」。

しかし、教団はこの後からだんだんと、自民党議員との関係を深めていったとみられている。2022年9月に自民党が公表した調査結果によると、所属する国会議員379人の半数近くにあたる180人が旧統一教会と何らかの接点があった。21年の衆院選や22年の参院選でも、旧統一教会の友好団体は自民党の候補者と「政策協定」を結んでいたことが報道された。その内容は、憲法改正、安全保障の強化、家庭教育支援法などの制定、LGBT問題や同性婚合法化の慎重な取り扱いなどを求める内容だ。こういった政策への賛同を明記した「推薦確認書」に署名を求めていた。

自民党と旧統一教会の関係を、有田氏は歴史的にこうひもとく。

「1954年に韓国で設立された旧統一教会は、58年に密航してきた信者が日本で布教を始めました。米国でもそのころから布教を始めています。68年には、『国際勝共連合』を韓国と日本で設立しています。宗教団体として政治家に接近したら怪しまれるだけだから、『共産主義に勝つ』という目的を掲げることで接近していったのです。安倍さんの祖父である岸信介元首相とも、国際勝共連合を通じて関係を深めていきました」

安倍家と旧統一教会の深いつながり

安倍氏と旧統一教会の関係も、祖父の代から続くものだ。有田氏は、自民党の大臣経験者から「旧統一教会と自民党の関係は安倍さんの仕切りだった」と聞いたという。

教団も、安倍氏を重宝していた。安倍氏は2021年9月、韓国で開かれた旧統一教会の関連団体であるUPF(天宙平和連合)の集会に、約5分間のビデオメッセージを寄せた。山上被告は、この動画を見て犯行を決意したと言われている。その中で安倍氏は、このように語っていた。

〈こんにちに至るまで、UPFとともに、世界各地の紛争の解決、とりわけ、朝鮮半島の平和的統一に向けて、努力されてきた韓鶴子(ハン・ハクチャ)総裁をはじめ、みなさまに敬意を表します〉

韓鶴子氏は創始者である文鮮明氏の妻で、現在の旧統一教会の教祖である。教団側にとっても、首相退任後も自民党に強い影響力を持つ安倍氏は、重要な存在だった。

それでも有田氏は、安倍氏と教団の関係について不思議に思っていることもある。

「安倍さんが03〜04年に自民党の幹事長を務めていた時、私が『旧統一教会が近づいてくるでしょう?』と聞いたら、『しょっちゅう来ますよ』と言っていました。『お会いになるんですか?』と聞いたら、『会わないようにしています』と。そのころはまだ、自民党の政治家は教団と距離を置いていたんです。教団からすると、イベントに祝電ももらえない時期もありました。それが霊感商法を問題視する声が風化していったことで、安倍さんは自らビデオメッセージを出すほど安心して付き合うようになっていました」

有田氏はオウム真理教などの取材を通じて、警察幹部たちとも関係を持っていた。ある警察幹部から聞いたあるフレーズが、今でも耳に残っているという。

「オウム事件の捜査終了直後、警察幹部は『次は統一教会だ』と張り切っていました。しかしその後、何の動きもなく、10年ぐらいたった時に、この幹部に摘発できなかった理由を尋ねました。すると、『政治の力だよ』と言っていました」

政治の力⁉ 安倍氏の事件は、「政治の力」で抑えきれなかったものが、山上被告の犯行を生み出し、その標的が「政治の力」の象徴だった安倍氏になったということなのか。

いまだ解決までは遠い宗教2世問題

旧統一教会の「被害者救済法」は22年12月、国会で成立した。今後は教団の宗教法人格の取り消しに発展していくかが注目されている。一方、対策は不十分だとの声もある。

「宗教法人格が剥奪されると、税法上の優遇措置がある程度は失われます。それでも、任意団体としての旧統一教会は残ります。国境を超えて携帯電話で送金できる時代に、献金を止めることも難しい。教団内部では『これは宗教弾圧だ』と批判することで結束を固めるでしょう」

有田氏は23年4月、安倍氏の死去に伴い、実施された衆院山口4区の補欠選挙に出馬したが、落選。現在、教団からはテレビ番組での発言が名誉毀損にあたるとして訴訟を起こされている。訴えられた途端にテレビへの出演は一切、なくなった。有田氏は、5月に開かれた支援集会で、こう決意を語った。

「訴えられてなんぼのもんじゃという気持ちでやっていく。徹底的に戦う。生きてるうちは戦う」

取材・文:三方九、西岡千史、POWER NEWS編集部
写真:2022年11月03日「旧統一教会と自民党の闇」をテーマに講演する有田芳生氏=広島市の広島弁護士会館(共同)

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