旧統一教会とニッポン

霊感商法、偽装勧誘、合同結婚式…日本はなぜ狙われたのか? : 日本を貶める不可思議な教団に侵食された自民党

社会 政治・外交

安倍晋三元首相が2022年7月、参院選の遊説中に奈良市で銃撃されるというショッキングな事件をきっかけに、旧統一教会の実態、そして自民党への深い侵食が明らかになりつつある。殺人などの罪で起訴された山上徹也被告(42)の母親は旧統一教会の信者で、多額の献金で家庭が崩壊したことによる恨みが、同教会とのつながりが深い安倍元首相に向かったからだ。

「コリアゲート」で明らかになった旧統一教会の政界工作

旧統一教会(世界基督教統一神霊協会、現・天の父母様聖会・世界平和統一家庭連合=以下、統一教会)が社会問題化したのは1960年代にさかのぼる。「親泣かせの『原理運動』」(1967年7月7日付、朝日新聞夕刊)と報じられた大学の原理研究会を中心にした勧誘活動、80年代からは高額なつぼや印鑑などを購入させる「霊感商法」や「偽装勧誘」、90年代前半には教祖が決めた相手に日本人女性信者を嫁がせる「合同結婚式」、そして「高額献金」などだ。この間、教団による政界工作も断続的に明らかになっている。

統一教会の成り立ちとその活動をひもとくに当たって、76年に明らかになったコリアゲート事件から始めたい。韓国政府が米国政界に影響を与えようとして贈賄工作活動を展開した大疑獄事件である。実は、そこに統一教会も大きく関与していたことはあまり知られていない。

コリアゲートの発覚を受け、米下院はドナルド・M・フレイザー議員をトップとする委員会で徹底的に調査し、78年11月に最終報告をまとめた。

それによると、きっかけはニクソン大統領が72年に中国を訪問し、それまでの対立から和解のムードになったことだったという。韓国としては、米国の対中政策の大転換で、駐韓米軍が撤退する事態は回避したい。政界工作の必要を認識した朴正熙(パク・チョンヒ)大統領は韓国中央情報部(KCIA)を創設し、最側近の金鍾泌(キム・ジョンピル)氏をトップに据えた。

そのときに共に活動し、フレイザー報告書で「KCIAと密接な関係にある」と指摘されたのが統一教会だった。時は共産圏との「東西冷戦」の最中。KCIAによる工作活動の一環として「反共」活動があった。そこで「反共」を掲げる統一教会は「使える組織」と判断され、取り込まれていったという構図だ。

同時期に日本では、統一教会は首相を務めた岸信介氏や日本船舶振興会会長の笹川良一氏らと「国際勝共連合」という友好団体を通じて関係を深めていった。その流れが今日の自民党の侵食につながるのである。

宗教団体を隠れみのにした「文鮮明のための組織」

フレイザー委員会の統一教会幹部からの聞き取りで得られた核心的なポイントは、「統一教会は宗教団体を隠れみのとした教祖・文鮮明(ムン・ソンミョン)氏を中心とした政治・経済の活動団体である」ということだった。統一教会には、社団法人、NPO、株式会社など多種多様な関連団体が存在するが、それらは「全て一体のムン(文鮮明)・オーガナイゼーション」と認定している。

日本では「信教の自由」を理由に、解散命令や規制に対して慎重な意見もあるが、しかし、その主張を盾にとって、ここまで勢力を拡大してきた組織こそが統一教会なのである。

合同結婚式で新郎新婦を祝福する統一教会創始者の文鮮明氏(ロイター)
合同結婚式で新郎新婦を祝福する統一教会創始者の文鮮明氏(ロイター)

ルーツは小さなセックス教団

米国政界に影響を及ぼすほどになった統一教会だが、KCIAと結び付く以前は小さな「セックス教団」に過ぎなかった。教義の根幹は「文鮮明が女性信者とセックスをして血を清める」という驚くべきものである。このことは側近だった朴正華(パク・チョンファ)氏が告発本『六マリアの悲劇』(恒友出版、1993年)に記している。同書を参照し、統一教会の教義の根幹を紹介する。

人には原罪がある。これはキリスト教の教えと同じだが、統一教会は、原罪を清めるためには「文鮮明とセックスしないといけない」という意味不明な教義となってしまう。これには補足が必要だろう。

旧約聖書では、神様が最初に誕生させたアダムとエバ(イブ)は楽園「エデンの園」で暮らしていた。「善悪を知る知恵の木の実は食べないように」と言われていたが、あるときヘビにそそのかされて禁断の果実を食べてしまう。これが人類の「原罪」である。

文鮮明氏はその解釈を利用する。実はそのヘビというのが「サタン(悪魔)」であり、エバはサタンの誘惑に負け、肉体関係を持ってしまったというのだ。エバはサタンの血で汚れた身体のまま夫のアダムともセックスしたため、人類は悪魔の血を引くこととなった。

悪魔に奪われたエバを取り戻す使命を果たせなかったイエス・キリストに代わって、文鮮明氏は「再臨メシア」として神によって送り出され、母であるマリアを含む「6人のマリア=6人の人妻」の血を3回のセックスによって清めることで浄化が広がっていく、という理屈なのだ。そうして文鮮明氏は多くの女性信者とセックスし、財産をも奪い取ったとされていたのである。

やがて、「血わけの儀式」は、教祖との直接的なセックスから、教祖が選んだ信者同士の結婚によって汚れを浄化するという理屈に変わり、統一教会の象徴ともいえる「合同結婚式」が誕生したのである。

2015年3月に開催された合同結婚式(AFP)
2015年3月に開催された合同結婚式(AFP)

天皇陛下より偉い文鮮明氏

日本での信者獲得のため、統一教会は大学でサークル・学生団体として活動する「原理研究会」を通じて勧誘活動を展開。幹部候補として東大や早稲田大の学生を狙った。この頃、実際に原理研究会に勧誘された経験を持つ人物はこう語る。

「高校生だった1977年に高田馬場の駅前で聖書の勉強をしないかと誘われた。早稲田大学近くの早成寮というホームに連れていかれ、堕落論を教えられ、『それを救うのは再臨メシアしかいない』と言われたのを覚えています」

こうして勧誘した若者を合宿に参加させて洗脳教育を施し、信者にするのが当時の手法だった。ところが、この人物はある場面に遭遇したことで洗脳合宿に参加せずに済んだという。

「信者が韓国の国旗と文鮮明の写真に平伏して祈っているのを見たんです。『あの人は誰ですか』と聞くと『韓国にいるお父様だ』と言う。『このお父様という方は天皇陛下よりも偉いんですか』と聞くと『そうだ』と言う。いくらなんでも天皇陛下よりも韓国にいる教祖を大事にする団体はおかしいと思って目が覚めたんです」

「保守」の自民党議員たちが教団の思想を許容⁉

また、朝鮮半島の形は男性器、日本列島は女性器を象徴しているというのが、統一教会の主張だ。これがアダムとエバの話につながる。「サタンとセックスして悪魔の血で汚れたエバ=日本」なのだ。

さらに、「1910~45年の韓国に対する植民地支配の贖罪(しょくざい)が十分ではないので日本は韓国に奉仕するため、日本人の財産は全て寄付すべきだ」という考えにつながる。これには、文鮮明氏の個人的な怨恨(えんこん)も影響しているといわれる。文鮮明氏は40年代に、夜間学校の早稲田大学付属早稲田高等工学校(51年廃校)に留学し、昼間は電気工事の仕事をしていたという情報もある。今よりもはるかに朝鮮の人に対する差別がひどかった時代だ。その忌まわしき経験から「日本人を懲らしめるべし」という考えが抜け難いものとしてあったという見方もある。

かつて統一教会が四大名節と呼ぶ記念日に米国の施設で行われていた「敬礼式」という儀式では、天皇陛下に扮(ふん)した日本の教会幹部が文鮮明にひざまずき、ひれ伏すということまでやらせていたという(「朝日ジャーナル」1985年2月1日号)。

不思議なのは、統一教会がこうした日本を貶(おとし)める思想を持つ「宗教団体」であるにもかかわらず、保守の自民党議員の多くが関わりを持ってきたことだ。さらにフレイザー報告書が指摘するように「宗教を隠れみのにした政治・経済活動のための団体」であることを踏まえれば、政治家としてきっぱりと決別することは最低条件なのは明白であろう。

教団の思想とシンクロする自民党の政策

当初、自民党とは「反共」という共通点があった。そこから、教団は自民党の国会議員の秘書に信者を次々と送り込み、信者秘書の中から自民党の地方議員になったり、統一教会の支援を得て当選したりする地方議員が生まれる、といった状況になっていった。

安倍元首相は、統一教会との関係に抑制的だった時期もあったと言われるが、長期政権維持のためにやがて両者は手を握る。そして最後まで関係を断ち切れず、悲劇を招いてしまったとみられている。

自民党の政策に統一教会の思想が及ぼした影響も指摘される。例えば、G7で日本以外のすべての国が認めている同性婚の問題はその一つだ。つい先日も、岸田文雄首相が、同性婚を合法化すると「社会が変わってしまう」と発言して炎上した。世界中で同性婚を認める流れができつつある中、日本の政府自民党が強硬に反対しているのは異様だ。

実は統一教会は以前から同性婚やLGBTに対して敵対的な活動に取り組んでいた。自民党の政治家が選挙で教団の支援を受ける際に、「LGBT問題、同性婚合法化の慎重な扱い」といった項目が入った文書に署名させていることが報じられている。また、自民党で夫婦別姓の導入に根強い反対論があることにも統一教会の影響が指摘される。加えて、統一教会の名称変更が長年認められなかったにもかかわらず、第二次安倍政権が発足し、統一教会との関わりがあるとされる下村博文氏が文部科学相の在任中に名称変更が認められたという事実もある。

このように、自民党政権が統一教会に汚染されてしまっていたのではないか、という疑惑はどこまでも付きまとう。この様相はかつてのコリアゲート事件を彷彿(ほうふつ)とさせるものである。

取材・文:POWER NEWS編集部
バナー写真 : ロイター

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