小柄な日本女子が世界の壁に挑むバスケット&バレーボール、そして日本発祥競技「ケイリン」の数字の読み方―コラム「記録で見るオリンピック」(3)
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中心選手の離脱でより小柄になったバスケ女子
五輪が開催される度にちょっとした話題にはなるものの、詳しく語られることが少ないデータがある。そういったデータのうちの二つをここで紹介したい。
最初のテーマは、日本女子の団体球技における身長についてだ。過去の五輪のバスケットボールとバレーボールで、日本は他国より平均身長が目立って低かったにもかかわらず、健闘を見せてきた。
東京五輪のバスケットボール日本代表では、162cmの町田瑠唯(るい)が最小で、最長身はキャプテンの高田真希と赤穂ひまわりの185cm、メンバー12人の平均は175.6cmだ。過去のチームと比べても際立って小さく、理由としては2016年のリオデジャネイロ五輪で活躍した渡嘉敷来夢(らむ)の離脱がある。
渡嘉敷は20年12月の皇后杯で右ひざじん帯を断裂してしまい、五輪を断念せざるをえなかった。193cmの彼女が抜けたことで、チームの平均身長は大きく下がった。16年のリオデジャネイロ五輪では177.3cmで出場12カ国中最小だったが、今大会でもプエルトリコの175.4cmに次いで小さいのだ。
だが、リオデジャネイロ五輪では、その最も小さい日本がグループリーグで3勝2敗の成績を収めて決勝トーナメントに駒を進めた。準々決勝で米国と対戦して敗れたものの、内容のあるベスト8だった。
東京五輪における日本の世界ランキングは10位だ。6月以降の国際試合では48位のポルトガル、7位のベルギー、23位のプエルトリコと戦ってすべて勝利しており、リオ五輪のときと同じくらいのチーム力と言えそうだ。
日本は1996年のアトランタ五輪でも、最も小さいチーム(平均身長176.6cm)でベスト8入り。バスケットボールの母国である米国で高評価を得た。準々決勝では、米国を相手に93ー108という大健闘を見せている。15点差というのは、米国が金メダルを獲得するまでの全試合の中で最少だった。特にポイントガードの村上睦子(ちかこ)は165cmながら持ち前のスピードにあふれるプレーで、196cmのリサ・レスリーらと競り合った。
東京五輪では、日本と米国はグループリーグで同じB組。7月30日に対戦がある。米国の平均身長は186.4cm。平均で10cm以上大きく、190cm以上を5人そろえる優勝候補に対し、日本がどう立ち向かうか注目だ。
ロンドンの銅の時よりは大きいバレー女子
一方、バレーボールの日本女子も状況はほぼ同じだ。今大会の平均身長は177.3cm、世界ランキング1位の米国は187.5cm、2位の中国は188.9cmと、やはり10cm以上の差がついた。
2012年のロンドン五輪のときは、175.0cmと出場国の中で最も小さかったが、銅メダルを獲得した。当時は世界ランキングでも3位で、優れたサーブをはじめ、巧みなバックアタックなど、ワールドクラスのプレーで世界トップの座を争った。
東京大会では、日本の世界ランキングは5位。アタッカー陣は黒後愛、古賀紗理那(さりな)が180cmと大きくはないが、どういったプレーで戦うのか見ものだ。
「ケイリン」と競輪は、いったいどこが違うのか
第二のテーマは、自転車競技の種目の一つ「ケイリン」。日本の文化が持ち込まれた五輪競技である。戦後の日本で始まった競輪は、1980年から世界選手権で採用され、ルールを国際試合に合わせながら、2000年のシドニー五輪から自転車トラック競技のケイリンとして正式に採用された。競輪とケイリンの違いをはじめ、注目すべきデータを比較検証する。
過去、五輪のケイリンで金メダルを獲得しているのはフランス、豪州、英国だけで、日本の最高成績は08年の北京五輪、永井清史の銅メダルだ。競輪の母国と言っていい日本がまだ金メダルをものにしていない理由は、競輪とケイリンの違いによるところが大きい。
まずトラックの長さが異なる。競輪は大半が333mと400mだが、ケイリンは250mだ。1レースの出場選手は競輪が最高クラスで9人なのに対し、ケイリンは7人まで。レースの距離は、競輪では男子が2000m、女子が1600mが中心だが、ケイリンは1500mだ。出場選手数や距離が違えば戦略も違ってくるので、いかに国内の競輪で強くても、ケイリンで勝つには国際試合をたくさん経験しなければならないのだ。
ただ東京五輪に向けては、新田祐大、脇本雄太の2人が、国内の競輪以上に国際試合のケイリンに重点を置いてきた。その結果、新田は2019年の世界選手権で銀メダル、脇本が2020年の世界選手権で銀メダルと、世界の頂点を狙える位置にいる。
ケイリンのスピードはどれくらいか? タイムトライアルの成績から推測が可能だ。自転車のトラックでは、助走をつけたフライングスタートと言われる形式で200mのタイムトライアルを行うことがある。新田は2020年2月に日本記録となる9秒562を記録した。平均時速にすると75.3kmだ。
ケイリンでも勝負のかかった局面になると、同じくらいのスピードが出ているはずなのだ。75.3kmを出すということは、75.3kmの風圧を全身で浴びながら走ることでもある。風速に換算すると20m/sほど。風のない屋内とはいえ、台風時のような風を浴びて走っているわけだ。
前を走る自転車のすぐあとについて走ると風よけができて、後続の選手は「足をためる」ことができる。このため、レース中の位置取りが重要な戦術になる。距離と人数の違い、さらにスピードと風圧の関係をしっかり理解してレースを見れば、ケイリンの面白さをより深く理解できるはずだ。
バナー写真:日本のポイントガード町田瑠唯。身長162cmはジャッキー・ベニテス(プエルトリコ)の155cmに次いで出場選手中2番めに小さい(2021年6月10日、バスケット強化試合、横浜武道館)時事