東京五輪は「世界新」続出の予感。世界各地の陸上・競泳の選考会で起きていたこととは?―コラム「記録で見るオリンピック」(1)
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陸上200mでハーバード大卒の才女が躍進
東京五輪の開幕が目前に迫る中、歴史に残る記録が生まれる可能性の高い陸上と競泳で、各地で行われた選考会の模様に重点を置きながら、世界新を出すポテンシャルを持ったアスリートたちを考察してみよう。まずは陸上競技から。
米国の選考会は6月18日~27日、オレゴン州ユージーンで開催された。男子の100mは、追い風0.8mと風の影響が大きくない中で、1位から3位まで9秒80、9秒85、9秒86の好タイムが出た。だが、現地ではそれが話題になることは少なかった。米国のスプリンター陣がいかに豊富であるかを見せつけた形だ。
歴史的に意義あるタイム、という観点では、女子は男子を上回る成果をあげた。
200mではギャビー・トーマスが世界歴代2位の21秒61をマークし、自己記録の22秒19を大幅に更新した。マリオン・ジョーンズ(米国)が1998年に記録した21秒62、マリーン・オッティ(ジャマイカ)が1991年に記録した21秒64など、歴代スプリンターたちのタイムを上回り、まだ24歳のトーマスが本大会でさらに記録を伸ばす可能性は十分。フローレンス・ジョイナー(米国)の世界記録21秒34とはまだ少し開きがあるものの、その注目度は極めて高い。過去に世界選手権の出場経験はないが、3年ぶりに自己の記録を更新して世界のトップに躍り出た。
トーマスはハーバード大学で神経生物学を専攻したあと、テキサス大学オースチン校で疫学の修士課程に在学中。2018年10月にニューバランス社と契約して、プロアスリートとなったため、大学生の大会には出場できなくなったが、もし五輪で金メダルを獲得すれば、ハーバード大学出身者としては、2012年ロンドン五輪のボート競技以来の金となる。
短距離から長距離まで記録更新ラッシュ
女子400m障害では世界記録が出た。21歳のシドニー・マクラフリンが、これまでの記録を0秒26と大幅に上回る51秒90をマーク。すでに世界選手権で銀メダルを取っているが、史上初の51秒台を出して歴史を作った。
マクラフリンはプロとして活動しており、2020年からは、米国陸上界のレジェンド、7種競技の世界記録保持者であるジャッキー・ジョイナー・カーシーの夫でありコーチだった、ボブ・カーシーの指導のもと、世界のトップを目指して取り組んできた。選考会で2位になったのは、自らの世界記録を更新されたリオデジャネイロ五輪の金メダリスト、31歳のベテラン、ダリラ・ムハンマド。国立競技場では二人の競い合いによって、記録はさらに伸びる可能性がある。
男子も400m障害であっと言わせるタイムが出た。世界記録はケビン・ヤング(米国)が1992年バルセロナ五輪で出した46秒78。男子のトラックでは最も古い世界記録だ。選考会では、19年世界選手権の銀メダルリスト、23歳のライ・ベンジャミンが世界記録まであと0秒05に迫る歴代2位のタイムを出した。
ベンジャミンの記録は6月26日に出したもの。その5日後の7月1日、今度はカルステン・ワーホルム(ノルウェー)がダイヤモンドリーグの大会で、46秒70をマークして世界記録を塗り替えた。191cmのベンジャミンに対してワーホルムも187cmと長身で、46秒台の記録を持つ二人が対決すれば、世界記録をかけた戦いが期待できる。
米国以外では、女子長距離で二人のランナーが注目されている。レテセンベト・ギデイ(エチオピア)と、シファン・ハッサン(オランダ)だ。二人は6月に相次いで10000mで世界記録を出した。6月6日、ハッサンが従来の記録を10秒63と大幅に縮める29分6秒82を出すと、その2日後に、ギデイが29分1秒03とさらに記録を伸ばした。
二人が破った世界記録は、2016年のリオデジャネイロ五輪でアルマズ・アヤナ(エチオピア)が出したもの。東京五輪の5000mと10000mは世界記録を出したばかりの二人がそろうだけに、記録を含めて注目のレースになりそうだ。
競泳は豪州VS米国の一騎打ち
陸上競技以上に、五輪で世界記録がたびたび出ているのが競泳だ。その競泳では、豪州が王国としての地位を取り戻しつつある。女子背泳ぎで世界記録を出したばかりのカイリー・マッケオンには個人で二冠、リレーを含めると三冠の期待がかかる。女子自由形でもアリアーン・ティトムスが二冠の候補だ。
マッケオンは、豪州の選考会(6月12日~17日)において、100m背泳ぎで57秒45の世界記録を出したほか、200m背泳ぎも2分4秒28を出し金メダルの有力候補に。二大強国のもう片方、米国勢とのメダル争いでも豪州チームをけん引しそうだ。
一方、ティトムスは選考会で、200m自由形では1分53秒09をマーク、女子では最も古い2009年の世界記録、1分52秒98にあと0秒11まで迫った。世界記録はフェデリカ・ペレグリーニ(イタリア)が記録ラッシュのローマでの世界選手権で記録したもの。ティトムスがそれを12年ぶりに破る可能性が出てきた。
ティトムスは400m自由形でも、ケイティ・レデッキー(米国)がリオデジャネイロ五輪で出した世界記録3分56秒46に迫る3分56秒90をマーク。20歳のティトムスと五輪連覇に挑む24歳のレデッキーの対決は、女子競泳界で覇権を争う両国にとっても重要な対決となるはずだ。
男子で注目すべきは200m平泳ぎだ。ザック・スタブレティ・クックが選考会で2分6秒28と大幅に自分の記録を更新。アントン・チュプコフ(ロシア)が持つ世界記録2分6秒12にほぼ肩を並べるタイムを出した。
日本勢でも、佐藤翔馬が日本選手権で2分6秒40の日本記録を樹立しており、スタブレティ・クック、チュプコフ、佐藤で金メダルを争うことになりそうだ。豪州は過去に平泳ぎではあまり成績をあげていないだけに、クックが金を獲得すれば大きな収穫となる。
豪州は、リオデジャネイロ五輪では米国に水を開けられた。金メダル16個、メダルの合計33個の米国に対し、豪州は金メダル3個、メダルの合計は10個。だが最近の成績を見ると、米国と十分に戦えるはず。世界記録をマークしたうえで、どれだけ米国との戦いで勝利を収めることができるか、リレーまで含めて注目だ。
今回の五輪では、陸上、競泳とも初めて男女混合のリレーが加わったが、これらも世界記録が出る可能性が大きい。ともかく世界記録の可能性があるレースは相当な数になりそうだ。
バナー写真:米五輪代表選考会でシドニー・マクラフリン(右)は、女子400m障害の世界新記録を樹立(2021年6月27日、アメリカ・オレゴン州ユージーン)AFP=時事