台湾のスポーツヒーローが東京五輪へ

桃田賢斗と頂上決戦なるか?! 台湾バトミントン界の王者・周天成が挑む東京五輪

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台湾、男子No.1バドミントン・プレーヤーの周天成(チョウ・ティエンチェン)は、優れたテクニックと抜群のフットワークで、2019年に世界ランク2位になった。コロナに見舞われた2020年は、秋に実戦復帰。日本の食と文化を愛する彼は、東京五輪で再び世界のトッププレーヤー達と対戦できることを心待ちにしている。そして多くのファンは、周と世界ランク1位の桃田賢斗との対戦が再び実現することを期待している。

戦いに備えた1年間

世界中からトップアスリートが集結する東京五輪。台湾からは、バドンミントンで女子世界ランキング1位の戴資穎(タイ・ツーイン)に並び、男子ナンバーワンプレーヤーの周天成も有力なメダリスト候補と目されている。

「五輪前、練習試合や一段と厳しいトレーニングで集中を高めている。試合で重要なのは忍耐力。本番で最高のパフォーマンスをするために、肉体的にも精神的にも長時間の準備が必要なのです」と周は話す。

世界がコロナ禍に見舞われたため、準備期間は1年延びたが、年間の試合数は例年に比べて大きく減少した。「通常は年間20試合以上に出場するのに、コロナの流行以降は、高校時代に戻ったようにトレーニング漬けだった」と振り返る。

周は20年10月にデンマークオープンで実戦復帰。他の台湾人選手が参戦を見送る中で、「コロナ禍でも東京五輪が開催されるという想定で、PCR検査なども含めた国際試合に早めに慣れておく必要があると考えた」と言う。

五輪参戦前の周天成。さまざまなシミュレーションをして試合に挑む(周天成氏提供)
五輪参戦前の周天成。さまざまなシミュレーションをして試合に挑む(周天成氏提供)

1日も早く「アフターコロナ」に順応するために

五輪前の5月と6月には、ワールドツアーのシンガポール・オープンとマレーシア・オープンが予定されていたが、インド由来のデルタ株の感染拡大で中止。2021年になってから、周が出場したのはタイと中国(広州)で行われた2大会のみである。

タイ・オープンに出場した際には、3日ごと、3週間で十数回のPCR検査を受けたという。その間、感染が判明して出場できなくなった選手がいた一方で、いったんは陽性反応が出たものの、病院の再検査で「抗体陽性(過去にり患していた)」であったことが分かり、出場が認められたケースもあった。多くの選手が十分なケアがないまま14日間隔離され、選手同士の接触はほとんどなく、出場国ごとに分かれて移動するなど、不自由で不透明な環境は経験済だ。

台湾南部の高雄のトレーニングセンターで五輪参戦前まで念入りな準備をする周天成(周天成氏提供)
台湾南部の高雄のトレーニングセンターで五輪参戦前まで念入りな準備をする周天成(周天成氏提供)

試合がない期間は、トレーニングに陸上競技の瞬発力やスパートのテクニックなど他の競技の要素も取り入れていたという。また、周はメンタル面の調整も重視している。

「心の準備、フィジカルの強さ、試合の強度、プレースタイル、どれもいつも同じとは限りません。それよりどんな選手との対戦でも役立つスキルとテクニックを重視している。磨かれた技術があれば、対戦相手の小さな動きにも対応でき、メンタルもいい状態を保てるのです」

桃田賢斗との再対決は?

>2018年、日本で開催された試合で、周天成は中国の林丹選手と対戦した(AFP)
2018年、日本で開催された試合で、周天成は中国の林丹選手と対戦した(AFP)

東京五輪の話になると、周は「もちろん楽しみにしています。日本の運営は素晴らしいものになるでしょう」と興奮気味に話す。2011年から毎年、ジャパン・オープンに出場している周は、初出場の年にアテネ五輪の金メダリスト、タウフィック・ヒダヤット(インドネシア)に勝利。「目標としてきた選手に勝てたことは、価値ある経験だった」と話す。

世界ランク1位の桃田賢斗は、周にとって相当手強い相手だ。対戦成績は11勝2敗と圧倒的に桃田優勢。多くの台湾メディアは、桃田を周の「天敵」と表現する。

だが周は、五輪は幼い頃からの夢であり、技を磨き、世界の一流選手と対戦できることはとても幸福なことだと考える。

「桃田選手は本当に優秀です。メンタルが素晴らしく、敗北が迫ってきても決して気を抜くことがありません。日本の国民性かもしれませんが、まとっている闘志がすごいんです」と話す。

周は日本の強みは他国の良いところをすぐに取り入れる点だと考えている。

「たとえばコーチ陣。男子シングルスは日本人、女子シングルスは韓国人、女子ダブルスは中国人、混合ダブルスはマレーシア人なのです」「どこの国がどの分野に長けているかを知り、直接、指導を受けることは理にかなっています」。そうすることで、トレーニングにも即効性が期待できるのだ。

頻繁に日本での試合に出場している周は、日本の清潔さとサービスの態度が非常に優れていると感じている。

「(日本は)とても快適で、何事も全て整っています」

そう話す周には、日本で忘れられない思い出があるという。

「初めてつけ麺を食べた時、食べ方を知らずに麺とつけ汁を別々に食べて、麺は乾いているし、ずいぶん塩辛いスープだななと思いました。先輩につっこまれて、ようやくつけ麺の食べ方がわかりました!(笑)」

試合で来日した際のオフショット。左はインドネシアのタウフィック・ヒダヤット選手(周天成氏提供)
試合で来日した際のオフショット。左はインドネシアのタウフィック・ヒダヤット選手(周天成氏提供)

大器晩成型の選手

現在、世界ランク4位の周は、アスリートとして遅咲きと言える。1990年台北で生まれ、幼少期から両親と共にバドミントンに親しんだ。両親は楽しんでプレーしてくれたらいいと考えていたが、周は予想以上に上達し、小学校に入学後は学校のバドミントンチームに加入、各大会で優勝をさらっていった。

幼い頃の周はせっかちな性格で、中学と高校時代のコーチは彼の性格に合わせた指導を行った。そして20歳で周は台湾ランクでベスト4入りし、初の台湾代表入りを果たした。代表として中国の広州で開催されたアジア競技会に出場。当時、世界ランク66位だった周はベスト8に進出、彼の名を世界に轟かせた。

周天成は、自身は天才型の選手ではないという。練習を積み重ねてきて今があるのだ。プレーの細かいところまで気を配っている(周天成氏提供)
周天成は、自身は天才型の選手ではないという。練習を積み重ねてきて今があるのだ。プレーの細かいところまで気を配っている(周天成氏提供)

その後、周は世界中の大会で好成績を残す。2014年の全仏オープンで優勝すると、世界ランクは7位にまで上昇。そして16年、26歳で初の五輪出場を果たす。準々決勝まで駒を進めたが、マレーシアのリー・チョンウェイに敗れた。

今、彼は31歳になり、2度目の五輪に臨む。

周は天才型の選手ではなく、一歩一歩練習を積み重ねる努力型の選手なのだという。生来の天才型の選手は、一度成績が下がると落ちるのは非常に速い。それは問題の対処法が分からないからではないか、と周は考えている。

「私は自分に何が足りていないのか、何が多いのかを大体分っている。自分の体を理解し、体が少しきついようなら、緊張しないよう努めているのです」

また、周は自身を晩成型であるとも思っている。

「小さな問題が100個あったとしましょう。ゆっくりでも取り組めば問題は半年で60個にまで減っていきます。私はそれで良しとするのです」

現在、周は時間を割いて若い選手の指導を行っている。

「たとえば彼らはショットを打った時、最初の5〜6回は正しいフォームでも、7回目に間違ってしまったら全てミスだと見なしがちです。私はそんなミスからバドミントンを諦めて欲しくないのです」

信仰から得た力

キリスト教徒の周天成は、自身の経験をよく教会で話すという(周天成氏提供)
キリスト教徒の周天成は、自身の経験をよく教会で話すという(周天成氏提供)

2010年に初めて台湾代表に選ばれて以来、周の心境には大きな変化があったという。

「以前はとても怒りっぽかくて、誤審やミスがあるとすぐ不愉快な気持ちになっていました」

2013年、周はキリスト教を信仰するようになる。

「祈りを捧げることで、心の平穏を手に入れることができた。聖書を読み、祈り、キリストの復活を信仰することで、新しいスタートを切り、新たに力を得るのです」。信仰が彼の日常になったのだ。「試合のために祈っているのではなく、日頃から良いことも悪いことも神のお導きだと思っています」という。

いつかバドミントンで挫折する日が来ても、周はそれを神からの試練だと受け止める。

「神には神のご計画がある、私はその中で生きているのです」。五輪に再び出場できることも、神の計らいであるととらえている。

「神は私に1つの夢を与えてくださいました。五輪で金メダルを取るという夢です。小学校5、6年からの夢で、今もずっと心に持ち続けています」

ここ数年、周は各種スポーツの公益活動にも参加している。周現役引退後は、台湾のスポーツ環境の整備に尽力したいと考えているそうだ。

「日本のスポーツ環境は素晴らしく、企業はスポーツへの理解がある。実業団リーグの競争も激しい」

周は将来、より多くの台湾の企業がスポーツ産業に参入し、産業全体の活性化と、スポーツが台湾社会のDNAになっていくことを願っている。

「バドミントンと出会ってから長い時間がたちますが、この先も、私の人生はバドミントンと共にあります。私にバドミントンという素晴らしいパートナーと巡り合わせてくれたことを、神に感謝します。私はスポーツとは最高のボディランゲージだと思っている。世界に我々が努力する姿を示したい」

幼い頃から今日まで、一から最後まで、周はバドミントンとスポーツに純粋に向き合い、その姿勢を貫いている。周は東京五輪でもその真摯な情熱を私たちに見せてくれることだろう。

人生でバドミントンがもっとも大事だという周天成。感謝を常に忘れない(周天成氏提供)
人生でバドミントンがもっとも大事だという周天成。感謝を常に忘れない(周天成氏提供)

バナー写真=台湾バドミントン界の特攻隊長・周天成。延期された東京五輪ではあるが、変わらず全力プレーで挑む(SAM YEH / AFP)

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