馬と神社の深い関係:熊野神社の神馬きらら |働く動物たち episode 4
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絵馬は神馬を置く習わしの名残り
古来より、日本の神社には、神が騎乗するための馬、“神馬”を置く習わしがあった。
しかし馬は飼育が難しいこともあって、次第に馬の像や絵馬に置き換わり、現代では本物の馬がいる神社は数えるほどになってしまった。
東京葛飾区立石にある「五方山(ごほうざん) 熊野神社」は、平安時代中期に創建された歴史ある神社。陰陽師(おんみょうじ)として名高い安倍晴明(あべの せいめい)ゆかりの神社としても有名である。
ここに、3頭のかわいらしい神馬がいる。
「シェットランドポニーのきららは今年、27歳になったおばあちゃん馬ですが、まだまだ元気。リーダー神馬として2頭の騸馬(せんば、去勢した牡馬)を率いていますよ」
そう話すのは、宮司(ぐうじ)の千島俊司さん。
北海道出身の千島さんは、祖父が調教師、父親は騎手という環境で育ち、常に馬が側にいたという。
自身もかつては馬術選手として活躍し、日本中央競馬会(JRA)競馬学校で指導をしていたが、縁あって神職に就いた。
「やはり、神社には神馬がいるべきだと思ったし、幸い私は馬のプロ。2000年の12月に北海道の牧場から、きららを迎えました」
熊野神社に来た時、きららは6歳。
人間でいうと20代半ばになっていた彼女は、環境に慣れるのに時間がかかったという。
七五三詣にも活躍
「熊野神社は幼稚園を併設していて、小さな子どもたちがキャーキャー騒いだり、楽器を鳴らしたり騒々しいものですから(笑)。最初は落ち着かなくてね。ところがしばらく過ごすうちに、幼稚園が休みの日にはさびしそうな顔をするようになりました」
敷地内には、園児たちと馬が一緒に遊べる広場がある。
子どもたちはポニーの世話をしたり、背中に乗ったりして“人間以外のお友だち”との付きあい方を全身で学ぶ。
「馬は人間よりもずっと素直だから、『それはちょっとイヤ』とか『おやつをもらえてうれしい』とか、ストレートに感情を出してきますね。これが、子どもたちの心の成長に非常に良い。馬の方も、自分の役割はちゃんと理解していますから、子どもたちへの接し方を心得ています」
2011年にミニチュアポニーのちょこ、2019年には日本ポニーのばにらを迎え、現在は3頭で子どもたちの遊び相手、参拝者へのあいさつ、そして神様の乗り物として、忙しい毎日を送っている。
毎年、秋の七五三詣には、健やかな成長を願う祈祷(きとう)を受けた子どもを馬車に乗せて境内を回るのも、大切なお役目だ。
「こんなふうに、うちは動物と親しい神社。10月からペットの健康長寿を願うおはらいを始めます。馬がいる神社ですから、毎月午(うま)の日にね」
そしてもうひとつ、千島さんからうれしい報告が。
「4月に千葉の牧場にいる私の馬が、白い仔馬を出産したんですよ。何年後になるかわかりませんが、熊野神社にサラブレッドの神馬が仲間入りするかもしれません」
1000年以上前の平安時代中期、水害に悩まされていたこの地を訪れた安倍晴明が陰陽道の陰陽五行説に基づいて張った正五角形の結界(けっかい)に建つ、熊野神社。
令和の今は、3頭の神馬に見守られながら、生きるものすべての平穏を願っている。
Profile
名前:きらら
年齢:27歳
主な仕事内容:神様の馬として、御用があるまで控えていること。参拝者へのごあいさつ。幼
稚園の子どもたちの遊び相手。
勤務先:五方山 熊野神社
バナー写真:熊野神社の境内を散策するきららと宮司の千島俊司さん 撮影:山口規子