南シナ海もうひとつの火薬庫「東沙諸島」

絶海の孤島・東沙諸島を訪ねる

国際 社会 歴史

片倉 佳史 【Profile】

南シナ海に浮かぶ島、東沙(プラタス)島。ここは南沙(スプラトリー)諸島や西沙(パラセル)諸島と同様、周辺諸国の領有権問題を抱えたアジアの火薬庫であり、要衝の地。穏やかで美しい大海原に囲まれた小さな環礁が連なる東沙島を訪れた経験を持つジャーナリストが、その知られざる姿を紹介する。

各国の思惑で揺れ動く南海の真珠

現在、台湾政府は東沙環礁全域を国家公園に指定し、海洋生態の保護と研究を進めている。これは南シナ海で覇権を狙う中国やベトナム、東南アジア各国に向けた台湾の戦略でもある。つまり、生態系保護を目的とした管理地域を設けることで、戦禍から島を切り離すことを狙ったものなのである。

実際に、南シナ海に海底資源が確認されるや、各国はにわかに権益を主張し始め、特に海洋進出を狙う中国の動きが目立つ。こうした中、これまではほとんど顧みられることのなかった東沙島も、戦略的重要性を高め、注目を集めるようになった。現在、西沙(パラセル)諸島は中国が押さえており、南沙(スプラトリー)諸島も島礁を軍事基地化するなど、中国は「野心」を隠さない。

東沙島は太平洋からバシー海峡を経て南シナ海に入る上での要衝であり、何より中国に近い。現在、台湾政府が実効統治するのは、東沙島と南沙諸島最大の面積を誇る太平島のみだが、両島共に南シナ海の要となる存在である。

美しい海原と手つかずの自然。そして、わずかな時間ではあるが、深い関わりのあった日本。中国が進める統一工作の中、東沙島は日本人の多くが考えている以上の危機に直面している。揺れる政治状況の中で、この島がどのような運命を歩んでいくのかは定かではない。秘境そのものとも言えそうなこの島の未来を注視したいところである。

取材協力;
中華民国国防部
行政院海岸巡防署
内政部営建署海洋国家公園管理處
行政院海岸巡防署南部地区巡防局東沙指揮部
行政院新聞局(当時)
陳怡如
故松丸耕作

東沙島の碑
東沙島の碑

写真は全て筆者撮影、提供

バナー写真=東沙環礁全景。大きな潟湖(ラグーン)が見える。東沙環礁国家公園は台湾で最大面積を誇る国家公園(国立公園)である。

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中国 台湾 南シナ海 人民解放軍 日本 東沙諸島 西澤吉治

片倉 佳史KATAKURA Yoshifumi経歴・執筆一覧を見る

台湾在住作家、武蔵野大学客員教授。1969年神奈川県生まれ。早稲田大学教育学部在学中に初めて台湾を旅行する。大学卒業後は福武書店(現ベネッセ)に就職。1997年より本格的に台湾で生活。以来、台湾の文化や日本との関わりについての執筆や写真撮影を続けている。分野は、地理、歴史、言語、交通、温泉、トレンドなど多岐にわたるが、特に日本時代の遺構や鉄道への造詣が深い。主な著書に、『古写真が語る 台湾 日本統治時代の50年 1895―1945』、『台湾に生きている「日本」』(祥伝社)、『台湾に残る日本鉄道遺産―今も息づく日本統治時代の遺構』(交通新聞社)、『台北・歴史建築探訪~日本が遺した建築遺産を歩く』(ウェッジ)、『台湾旅人地図帳』(ウェッジ)、『台湾のトリセツ~地図で読み解く初耳秘話』(昭文社)等。オフィシャルサイト:台湾特捜百貨店~片倉佳史の台湾体験

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