日本人公務員がチャレンジした台湾自転車一周「環島」――震災支援の感謝を込めて
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震災支援の感謝と交流促進のために
私は人口わずか1万8000人の群馬県みなかみ町から、台南に派遣され、観光客誘致のインバウンド事業に取り組んできた。ところが、2020年はコロナ禍の影響で、国際移動が困難になり観光事業は壊滅状態。とはいえ、自治体派遣職員としては、何もしないわけにはいかない。オンライン講演会での情報発信や台南マンゴーの日本への輸出、群馬県かの日本酒の輸入など地道な物産交流を積み重ねた。もちろん私だけではない。全国各地から派遣されている自治体職員にとっては、やるべきことができない苦しい1年だった。
しかし、見方を変えれば、“世界同時鎖国” の時期に台湾にいられるというメリットもある。奇しくも、2021年は日本が台湾から多大な支援を受けた東日本大震災から10年目の節目に当たる。さらに、台湾観光局は「2021年自転車旅行年」としてサイクリング旅行を推進している。台湾では近年、およそ1000キロにわたる台湾の海岸線をぐるっと1周する環島の旅行スタイルがブームになっている。静岡県の宮崎悌三事務所長の呼び掛けで、台湾駐在の自治体職員で各地の地方政府を訪問し、震災支援への感謝を伝え、日台交流を推進する自転車台湾一周旅行を企画したのだ。
台湾人が生涯にチャレンジすべきことの1つ
参加したのは、静岡県、沖縄県、福岡県、愛媛県、三重県、岐阜県恵那市、茨城県笠間市、群馬県みなかみ町の5県2市1町計16人。仕事の都合で、1日だけ参加や中抜け参加の人もいたが、私を含めて4人が9日間891キロメートルの全行程を走破した。
(詳細行程や各地方政府との訪問等についてはFB『環島日記』参照)
日台友情・共に走ろうサイクリング環島の旅程
日付 | 行程 | 距離(Km) |
---|---|---|
12月22日 | 台北~新竹 | 87 |
12月23日 | 新竹~彰化 | 110 |
12月24日 | 彰化~嘉義 | 84 |
12月25日 | 嘉義~台南~高雄 | 125 |
12月26日 | 高雄~屏東 | 88 |
12月27日 | 屏東~台東 | 109 |
12月28日 | 台東~花蓮 | 121 |
12月29日 | 花蓮~花蓮駅 ~宜蘭県 | 75 |
12月30日 | 宜蘭県~台北 | 92 |
ちなみに、「台湾人であれば生涯にチャレンジすべき3つのこと」と言われているのが、「玉山登山 : 標高3952mの台湾最高峰の山に登る」「日月潭を泳ぐ : 台湾中部の観光名所である湖を対岸へ3キロを泳いで渡る」「自転車環島」だ。
私は2019年に玉山に登頂し、今回、環島を達成したので、日月潭を泳げば台湾で「鉄人」と呼んでもらえることになる!
欠かせないサポート体制
『日台友情・共に走ろうサイクリング環島』スタートの朝、台北松山駅環島0km地点で集合し、ロードバイク乗車講習を受けた。私は、日常的に自転車移動しているので、当初は「自分の自転車で参加しよう」と気楽に考えていた。しかし、環島の途中でパンクや故障すると、修理に手間取り行程に支障をきたしてしまう。地方政府訪問などスケジュールを守らなければいけないので、結局、故障などの場合にサポートを受けられるレンタサイクルを利用した。実際、2日目にパンクを経験し、普段の生活での自転車利用と長距離走行では必要な装備も異なることを実感する場面が何度もあった。
走行の安全やペース配分のために、車列の前後にガイドとサポートカーを付けた。ひざを傷めて途中で車に乗ったメンバーもいたし、水分・栄養補給のためにもサポートカーの存在は大きかった。水分・栄養補給は日に何度かあったがバナナやチョコレートだけではなく、その都度各地の名産を準備してくれる運転手さんは本当にオアシスのような存在だった。
「加油!」に励まされる
日本台湾交流協会、苗栗県政府、桃園市政府、そして台南市政府。その他多くの公的機関訪問をしたが、予定の行程以外にもいくつも出会いがあったので一部紹介したい。
12月23日は私にとって最悪コンディションで、ホテル到着目前にパンクする不運に見舞われたところで、突然現れた日本の友人がいた。医師でありYouTuberの岡田一真さんだ。京都在住だが、偶然台湾に遊びに来ていたらしく、サプライズ応援のため彰化県のホテルに来てくれた。実に5年ぶりの再会となった。雨でビショビショ、パンクでトボトボしている様子を岡田さんがYouTubeにUPしてくれている。
高雄~屏東移動中に「マラソンで台湾一周」している男性や、台東~花蓮を輪行中に知り合い一緒に走行した台中の若者たちもいた。他にも、我々と同じようなグループで環島自ている人達、犬を連れて一周しているライダーなどさまざまな出会いがあった。
屏東から台東への行程中、雨宿りするためにお世話になった牡丹社に住む先住民族の皆さんは、集会のために準備していた伝統料理を突然やってきた我々に振舞ってくれた。自転車環島ならではの貴重な体験となった。
初日から最終日まで、どこに行っても「加油!(頑張って)」と声を掛けられた。道を歩いている人、同じく自転車で台湾一周している人、バイクや車の運転手等々、本当に毎日色々な人から声をかけてもらい、「環島」が台湾文化として根付いていることを実感した。
大雨で強風の中わざわざ窓を開けて「頑張って!」と日本語で応援してくれた女性や、マイクを使って「加油!加油!」と声を掛けてくれたタンクローリーのドライバーのことは、今思い出しても感激がよみがえる。
「完走したら生ビールで乾杯しましょう!」と台北で待っていてくれた友人、グループLINEを通じて励ましてくれた群馬県庁の皆さん……多くの人との出会いと応援に支えられた。
環島を終えての再発見!再認識!!
私は台南市に住んでおり、普段からごちゃごちゃしている巷子(裏通り)を歩くのが好きだ。台南市政府に出勤する際には自転車を使う。もっと遠くに行く際はバイクを使う。それぞれ移動スピードと見える景色が違うので、長所も短所もある。
今回の環島では改めて自転車移動の「ちょうどよさ」を実感した。
出会いのきっかけを求めるなら歩きの方がいいかもしれない。しかし、徒歩環島は時間がかかり過ぎて現実的ではない。バイクや車なら身体の負担も少ないが、人に話しかけられる機会は少ない。その中間である自転車は、移動と交流を両立できる「ちょうどいい」交通手段だと感じた。
今回は、9日間一気に走ったが、数回に分けて一周することも可能だと感じた。実際そうやって一周している人もいる。
「日本に帰国出来ない地方自治体職員」として実施した今回の交流事業では様々なヒントを得た。コロナ収束後にはできるだけ多くの人達に自転車環島をはじめとした日台交流を楽しんでもらうために新たな仕組みを考えていこうと思う。
1月末は台湾桃園市の病院でコロナ感染が発生し、台湾全土で緊急対策を講じている。我々が実施した12月末の環島は本当にタイミングに恵まれたと改めて実感している。コロナのために様々な交流イベントが中止・延期を余儀なくされているがそれでも日台交流を継続する方法はまだまだあるはずなので、新たな可能性を探っていこうと思う。
バナー写真=台北での出発式(筆者提供)