震災10年、東北・福島と台湾

福島「風評被害」打破の最前線は「最強の安全検査体制」

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野嶋 剛 【Profile】仙波理 【Profile】

震災から10年を経ても台湾は福島県など5県産の食品輸入を認めていない。輸入禁止を定めた台湾の住民投票の2年間の有効期間も11月24日に切れたが、解禁に向けた先行きはなお不透明だ。福島の食品は本当に安全になったのか。「放射能汚染」の風評を払拭するための努力を続ける福島の人々の現場を訪れた。

農業県ゆえの苦しみ

福島県は広い。面積は全国の都道府県で北海道、岩手県に次いで3位になる。太平洋の海の幸に恵まれた「浜通り」、奥羽山脈沿いに広がり、果樹や野菜栽培に適した「中通り」、歴史と文化にあふれ、米作りに適した「会津」という異なる地理・気候条件を備えた三地域があり、バラエティに富んだ農作物や山の幸・海の幸を産出する。

福島県産の桃の収穫量は全国で2位、リンゴは5位、梨は4位、西洋梨も5位、インゲン2位、サヤエンドウ3位、キュウリ4位・・・。関東と東北の接続地という地理的特性もあって、東京など関東圏への貴重な供給源の役割を担ってきた。

逆に、農業県ゆえに、農水産物に対する風評の直撃は深刻だった。価格の大幅な下落や県産品の排除などを引き起こした。汚染のレベルは大幅に低くなったとはいえ、息の長い戦いは続く。当面必要なのは「福島県から外に出荷される農水産品は安全だ」という信頼を勝ち取ることである。

「事故直後は全然売れなかったが、だんだん安全性への信頼を取り戻している実感はある。科学的でなく、観念的に嫌だと思っている人が10%はいる。そうした人たちの理解を無理に求めるより、分かってくれる人たちに、福島県産品を安心して食べてもらう努力を続けたい」(草野部長)

10年を経ても風評被害は完全になくなったとは言えない。海外どころか、国内にも忌避感は残っている。ただ、安全性を自らの力で科学的に証明していこうという福島県の取り組みが世界から注目されているという実感はある。これまで、海外から同センターの検査施設への視察は130カ国に達している。2回以上訪れた国も多い。その一つひとつに丁寧に対応することが、福島の風評被害を取り除く一歩になる、と信じている。

センター訪問図(福島県提供)
センター訪問図(福島県提供)

バナー写真=農業総合センター カプセルに刻んだ鶏肉を隙間なく詰める(仙波理撮影)

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野嶋 剛NOJIMA Tsuyoshi経歴・執筆一覧を見る

ジャーナリスト。大東文化大学教授。1968年生まれ。上智大学新聞学科卒。在学中に、香港中文大学、台湾師範大学に留学する。92年、朝日新聞社入社。入社後は、中国アモイ大学に留学。シンガポール支局長、台北支局長、国際編集部次長などを歴任。「朝日新聞中文網」立ち上げ人兼元編集長。2016年4月からフリーに。現代中華圏に関する政治や文化に関する報道だけでなく、歴史問題での徹底した取材で知られる。著書に『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)、『故宮物語』(勉誠出版)、『台湾はなぜ新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)『香港とは何か』(ちくま新書)『蒋介石を救った帝国軍人 台湾軍事顧問団・白団の真相』(ちくま文庫)『新中国論 台湾・香港と習近平体制』(平凡社新書)など。オフィシャルウェブサイト:野嶋 剛

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