震災10年、東北・福島と台湾

福島「風評被害」打破の最前線は「最強の安全検査体制」

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野嶋 剛 【Profile】仙波理 【Profile】

震災から10年を経ても台湾は福島県など5県産の食品輸入を認めていない。輸入禁止を定めた台湾の住民投票の2年間の有効期間も11月24日に切れたが、解禁に向けた先行きはなお不透明だ。福島の食品は本当に安全になったのか。「放射能汚染」の風評を払拭するための努力を続ける福島の人々の現場を訪れた。

基準値超えはほとんどなし

次の工程が検査である。容器に入った検体は、隣の検出器のある部屋に運ばれ、小さい容器(U−8容器、80-90グラム)で33分、大きい容器(マリネリ容器、300グラム)のもので10分ほど検査にかかる。小さい容器で時間がかかるのは、測定する材料が重いほど時間が短くなるという物理現象によるものだ。すべての容器にはQRコードがつけられ、サンプルを取り違えないような工夫もされている。検査が終了すると、パソコンに検出データが表示される。

農業総合センターの放射線測定装置。4食材を装てん(仙波理撮影)
農業総合センターの放射線測定装置。4食材を装てん(仙波理撮影)

検出データに、原発事故に起因するセシウム134やセシウム137が検出されることはほとんどない。検出されるのは、自然環境に存在し、人体に影響のないカリウムなどが大半だ。

全量検査を行ってきたコメについては、2015年以降、基準値の超過はゼロ。今年から全量検査をやめて抽出検査へ段階的に切り替えている。野生山菜・きのこ、川魚など、対策が取りにくい一部の品を除いて、農水産物のモニタリングでも検出例はほとんどない。

現在、福島県の農水産物規制を行なっている国と地域は16ある。特に福島県として頭を悩ませているのは、震災前から主要輸出先だった台湾と香港だ。台湾では、福島県だけでなく、千葉、茨城、栃木、群馬の5県を規制対象としている。日本政府も台湾側に解除を強く働きかけてきたが、まだ実現に至っていない。

福島県では、台湾で11月に輸入を禁じた2年前の住民投票の期限が切れたことも把握している。台湾はいま日本との関係を重視する民進党政権なので、なおさら輸出解禁をしてくれるのではないかとの期待もある。2019年1月には台湾の政府関係者が視察に訪れた。その前の年にも、台湾から消費者やマスコミによる視察団が来ている。自分たちが万全と信じる検査体制をみて、安心してもらったと感じた。草野憲司・同センター安全農業推進部長は「台湾の人々に、ぜひ福島の美味しい野菜、果物を食べてほしい」と力を込めた。

農業総合センター外観(仙波理撮影)
農業総合センター外観(仙波理撮影)

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野嶋 剛NOJIMA Tsuyoshi経歴・執筆一覧を見る

ジャーナリスト。大東文化大学教授。1968年生まれ。上智大学新聞学科卒。在学中に、香港中文大学、台湾師範大学に留学する。92年、朝日新聞社入社。入社後は、中国アモイ大学に留学。シンガポール支局長、台北支局長、国際編集部次長などを歴任。「朝日新聞中文網」立ち上げ人兼元編集長。2016年4月からフリーに。現代中華圏に関する政治や文化に関する報道だけでなく、歴史問題での徹底した取材で知られる。著書に『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)、『故宮物語』(勉誠出版)、『台湾はなぜ新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)『香港とは何か』(ちくま新書)『蒋介石を救った帝国軍人 台湾軍事顧問団・白団の真相』(ちくま文庫)『新中国論 台湾・香港と習近平体制』(平凡社新書)など。オフィシャルウェブサイト:野嶋 剛

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