震災10年、東北・福島と台湾

福島「風評被害」打破の最前線は「最強の安全検査体制」

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野嶋 剛 【Profile】仙波理 【Profile】

震災から10年を経ても台湾は福島県など5県産の食品輸入を認めていない。輸入禁止を定めた台湾の住民投票の2年間の有効期間も11月24日に切れたが、解禁に向けた先行きはなお不透明だ。福島の食品は本当に安全になったのか。「放射能汚染」の風評を払拭するための努力を続ける福島の人々の現場を訪れた。

福島県を訪れた時、福島第1原発の放射能処理水を海洋放出する問題が広く話題になっていた。最大の心配は「風評被害」。10年をかけてようやく取り戻しつつある「信用」が、処理水によってまた元の状態に戻ってしまいかねない。幸い、放出はまだ決まっていないが、風評被害の辛酸をなめてきた福島県の危機感は強い。風評は一瞬で広がり、打ち消すには果てしない努力が必要だ。それでも前に進まなければいけない。そんな決意を感じさせる最前線の場所が、福島県郡山市の郊外にある。緊急時環境放射線モニタリング調査を行なっている福島県農業総合センターだ。

最強の検査体制

その部屋は、もともと農業機械の調整を行う場所だった。そこにいま11台のゲルマニウム半導体検査機が並んでいる。初めて見るが、とても重そうだ。一台につき重さ1.3トン。床の補強工事を行わないと床が抜けてしまうという。それもそのはずで、放射線を通過させない厚さ11センチの鉛などで作られ、内部に検体を入れて計測するための空洞がある。

検査室で稼働する検出器11台のうち、国から6台をレンタルされているが、5台は県の予算によって自前で買い足した。米国企業ミリオンテクノロジーズ・キャンベラ社の製品で、1台につき価格は2000万円を超える。これほどの台数を備えた検査機関はそうそうない。稼働率なども考えれば、日本で最強の検査体制だと言えるだろう。

福島第1原発事故で放出された放射性物質はセシウム134とセシウム137。福島の人々は、それらが降り注いだ土壌を削り取り、木々の表皮を洗い、かつて日本各地や世界に販路を持っていた福島の農水産品の信頼を取り戻す努力を続けてきた。

測定中の農業総合センターの放射線測定装置(仙波理撮影)
測定中の農業総合センターの放射線測定装置(仙波理撮影)

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野嶋 剛NOJIMA Tsuyoshi経歴・執筆一覧を見る

ジャーナリスト。大東文化大学教授。1968年生まれ。上智大学新聞学科卒。在学中に、香港中文大学、台湾師範大学に留学する。92年、朝日新聞社入社。入社後は、中国アモイ大学に留学。シンガポール支局長、台北支局長、国際編集部次長などを歴任。「朝日新聞中文網」立ち上げ人兼元編集長。2016年4月からフリーに。現代中華圏に関する政治や文化に関する報道だけでなく、歴史問題での徹底した取材で知られる。著書に『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)、『故宮物語』(勉誠出版)、『台湾はなぜ新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)『香港とは何か』(ちくま新書)『蒋介石を救った帝国軍人 台湾軍事顧問団・白団の真相』(ちくま文庫)『新中国論 台湾・香港と習近平体制』(平凡社新書)など。オフィシャルウェブサイト:野嶋 剛

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