Netflix『コミンスキー・メソッド』: 愛しき人生の黄昏の日々
Cinema- English
- 日本語
- 简体字
- 繁體字
- Français
- Español
- العربية
- Русский
対照的な2人
舞台はハリウッド。かつてはそれなりに売れていた俳優のサンディ・コミンスキー(マイケル・ダグラス)。現在はスクールを持ち、演技コーチとして生計を立てている。ノーマン・ニューランダー(アラン・アーキン)はサンディのエージェントで、長年の友人だ。ドラマは70代のサンディと80代のノーマンの友情を軸に、それぞれの家族との関わりや、日々起こる騒動を描いていく。
2人は対照的だ。サンディは3度の結婚に失敗して独身だが、スクールを手伝う娘のミンディ(サラ・ベイカー)とはまずまず良好な関係を保っている。一方のノーマンは愛妻家で、エージェント会社の経営も順調、経済的不安は全くない。だが、薬物依存症で更生施設を出たり入ったりの娘に手を焼いていた。
物語の冒頭で、ノーマンは最愛の妻に先立たれる。サンディは失意のノーマンに寄り添い、支え、力となる。何か起こればすぐに駆け付ける。また、前立腺肥大に悩むサンディに、ノーマンは医師を紹介する。さらなる健康不安を抱えたサンディのために、自らハンドルを握り病院への送迎も買って出る。毎日のように夕食を共にし、お互いの娘の心配もする。
何だか深刻な問題ばかり起こるが、そこはコメディー。2人の会話は、まるでけんかしているかのようなののしり合いと皮肉がいっぱいだ。ともに頑固で、人の話を聞かず、現代の機器に弱く……と、ちまたで言われる“おじいさん”らしさ全開である。時に「君との友情に感謝する」などというせりふでしんみりさせたかと思うと、下品一歩手前の“下ネタ”の応酬に大笑い。不快感がないのは2人の品の良さによるのだろう。
1話は約30分と短いが、会話量が膨大なので、むしろこれ以上長いと疲れてしまいそう。みっしりと詰まって、心地よい満足感が得られる。
死と宗教に対しての思い入れ
『コミンスキー・メソッド』には、葬儀のシーンがいくつかある。これが皆、宗教色がないことは暗示的だ。遺族や友人が故人をしのぶスピーチをするのも、日本の習慣とは異なり興味深い。ノーマンの妻なぞ生前に自分の葬儀の詳細を決め、とてもにぎやかな別れの場をプロデュースしている。
印象的なシーンの1つに、「死を演じること」についてのサンディの講義がある。人生経験を重ね、実際に何人かの最期に立ち会ったサンディの言葉は、生徒たちの胸に重く響く。
そうなのだ。このドラマでは、幾人かが亡くなり、葬儀のシーンもあるが、「最期の場面」だけは描かれないのだ。コメディーにはふさわしくないからなのか、「芝居の死の描き方は嘘くさい」とでも言いたいのか。悲しみや喪失感は、さりげないシーンに込められている。
宗教かカルトかで物議を醸すサイエントロジーを扱うことなども含めて、作り手は、死と宗教に対して思うところがあるのだろう。
老年の過ごし方指南
この物語は、「老年の過ごし方指南」でもある。
主人公2人のように、良き友はまずあってほしいもの。そこに恋愛。サンディにもノーマンにも新しい出会いや懐かしい再会がある。ミンディの恋人は、父とさして年の違わないマーティン(ポール・ライザー)だ。ミンディの母である元妻ロズ(キャスリーン・ターナー)とサンディの関係も、年月が変化をもたらす。
次に仕事。ノーマンはミンディに、「(定年退職した)マーティンに何でもいいから仕事をさせろ!」と言う。サンディはもちろん、一線を退いたとはいえノーマンも現役。健康のためにも、人生の意味のためにも、どうやら仕事はあった方がよさそうだ。
そして、親しい人との別れについて語るマーティンの言葉がいい。悲しみを感じ、受けとめられるようになるまでには時間がかかる。少しずつ変わっていく、その道のりをたどれるように人間はできている。そして、そんなふうに人間をつくったのは、自然界の思いやりだというのだ。
さらに、思わぬ大金を手にしたときの心構えまで、至れり尽くせりである。
著名俳優・歌手らが本人役で登場
また、著名な俳優や歌手が本人役で顔を出すというお楽しみもある。俳優のモーガン・フリーマン、コメディアンで司会者のジェイ・レノ、歌手のパティ・ラベル、映画監督のバリー・レヴィンソンら大ベテランたちの登場に、思わず声が出てしまった。「おお、こんなところに!」。
一方で、若い俳優たちにも存在感がある。
毎回のように、俳優を目指す若者たちの練習風景が描かれるが、時折“名演”が生まれる。見ている他の生徒は固唾(かたず)をのみ、同時にこちらも引き込まれてしまう(もちろん、見るからにダメダメな演技もあって、そのダメぶりがまた立派に演じられている)。
中高年世代が大活躍し、ハリウッドの現状をちくりと刺す心意気も感じられるこのドラマが、どう締めくくられるのかは見てのお楽しみ。ちょっと出来すぎの、見事な結末をしみじみと味わってほしい。
「人生の晩年に、こんな友がいたら」。サンディとノーマンが本当にうらやましく感じられるだろう。老いや健康の不安、親しい人との別れなど、黄昏(たそがれ)の日々には辛いこともいろいろあるけれど、年を取るのもそんなに悪くはないんじゃないか、そう思える温かさに満ちた佳品である。
Netflixオリジナルシリーズ『コミンスキー・メソッド』シーズン1~3独占配信中