Netflix『ブリジャートン家』シーズン1:嘘から出た実(まこと)の愛の行方
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結婚の重圧にさらされる長女ダフネ
『ブリジャートン家』の原作はジュリア・クインの『ブリジャートン・シリーズ』。ブリジャートン子爵家4男4女の恋愛と結婚をテーマにしたベストセラー小説シリーズで、このドラマのシーズン1(全8話)では、第1巻にあたる長女ダフネの結婚が描かれる。時代や舞台の設定、筋立てなど、ジェーン・オースティンの『高慢と偏見』の影響を色濃く受けていると言っていい。
社交界のシーズンが始まり、ブリジャートン家の長女ダフネ(フィービー・ディネヴァー)がデビュー。その美しさから一気に注目を集める。だが、当主である長兄のアンソニー(ジョナサン・ベイリー)が次々と求愛者を退けてしまう。ダフネは母バイオレットのように、幸せな結婚をして子供を持つことが理想であり、後に続く妹たちのためにも、長女として早く結婚しなければという重圧にさらされていた。
そんなとき、アンソニーの友人であるヘイスティングス公爵サイモン(レジェ=ジーン・ペイジ)がロンドンに戻ってくる。サイモンは、ある理由から独身を貫く決意を固めているが、娘の結婚相手を探す母親たちの攻勢に辟易(へきえき)していた。
舞踏会で出会ったダフネとサイモンは、お互いを“話の分かる相手”と認め合い、密約を交わす。「いつわりの恋仲」を演じることで、ダフネは自分を「公爵に愛される魅力ある女性」だと印象づけてより良い相手を見つけることを、サイモンは母親たちの執拗(しつよう)な接触から解放され、独身を謳歌(おうか)することを目論む。
2人は、巧みに周囲を欺いていくのだが、やがて本当にひかれ合ってしまう…。
ドラマをけん引するゴシップ記者の謎
物語はレディ・ホイッスルダウンなる女性が執筆する社交界新聞の記事のナレーション(声はジュリー・アンドリュース)によって進む。実名でのゴシップが満載で、王妃はじめ皆が読まずにはいられない新聞だ。容赦ない筆致で貴族たちのスキャンダルを暴く、このレディ・ホイッスルダウンとは何者なのか?
ダフネの妹、エロイーズ(クローディア・ジェシー)は、親友であるフェザリントン男爵家の三女ペネロペ(ニコラ・コークラン)を巻き込んで、その正体をつかもうと躍起になる。本筋のロマンスとは別に、この謎がドラマを引っ張っていく。
ドラマの後半は、気恥ずかしくなるほどのラブシーンが増えていく。少々げんなりする視聴者もいるかもしれないが、その美しさに文句はないだろう。
最近の映像作品では、「インティマシー・コーディネーター」という撮影スタッフがおり、デリケートなラブシーンに臨む俳優たちを、撮影のスケジュールから演技指導、精神的なケアに至るまで、さまざまな面で支えているという。本作でもインティマシー・コーディネーターが活躍したようだ。
果敢なキャスティングの面白さ
そして特筆すべきはキャスティングだ。アフリカ系やアジア系の血を引く俳優、エキストラがこの時代劇には数多く登場する。サイモンとその両親、王妃、サイモンの母代わりでもあるレディ・ダンベリーなど重要な役に配されているのだ。肌の色や人種による固定概念にとらわれない「カラー・ブラインド・キャスティング」である。
最初こそ、ハッとするが(日本の時代劇で、将軍さまが紅毛碧眼だったりしたら、やはり驚いてしまうだろう)、それは一瞬だけだ。その後はもう“その人でなければ”と思わせられ、物語に没入することになる。
だが、物語の中盤、「肌の色で分断されていた社会は、国王陛下が恋に落ちて変わった」「国王は妃を選び、われわれにも地位を与えた。いつ元に戻されるか」というレディ・ダンベリーとサイモンのやり取りがある。
単なる「カラー・ブラインド・キャスティング」ではなく、時代劇に名を借り、ロマンスの力であらまほしき世界を描き出そうとしているのでは…、と考えるのは深読みに過ぎるだろうか。
ポピュラーソングが室内楽に
美しい衣装や建物、ふんだんに飾られる豪華な花にも目を留めてほしい。家によって異なる雰囲気のドレス、髪飾りなどの装飾品は見事。屋敷や城もセットではなく、英国各地の実際にある建物が使われている。舞踏会のシーンなどは本当にうっとりしてしまう。
また、音楽面ではアリアナ・グランデやテイラー・スウィフトといった近年のポピュラーソングが室内楽で奏でられている点が話題だが、クラシックの名曲の使われ方も効果的。ダフネが弾くベートーベンのピアノソナタ「ワルトシュタイン」には、どうしようもない彼女のいらだちが込められている。
さて、ヒロインのダフネ以上に注目されるのが、エロイーズとペネロペだ。“姉妹もの”の次女によく見られるキャラクターだ。ルイーザ・メイ・オルコット『若草物語』のジョーしかり、『高慢と偏見』のエリザベスしかり。
いずれも、聡明だが、おっとりした長女と対比されるように人物造形されており、読書好きで皮肉屋、観察眼に優れ、教養を重んじる。そして何より、「自分の人生は自分で決めたい」と思っている。この2人にわが身を重ねる人は多いかもしれない。
王道の時代劇ロマンスに現代風味付けが人気の秘密
印象的なのは、遠縁の娘から愛のない結婚について問われたペネロペの母・フェザリントン夫人が、「愛は見つけるものよ。ささいな日常や、生まれた子の中にね」と答えるシーンだ。結婚しなければ価値がないとされていた当時の女性たちが、それでも、自分に正直に生きようとする姿(もちろん、ダフネもそのひとりだ)に、現代の私たちも共感を覚えるのだろう。
『ブリジャートン家』には多くの見どころがあるが、大きな事件は起こらないし、ある意味、古くさいともいえる王道のロマンスだ。だが、その中に、いつの世も変わらない女性たち(貴族だけでなく)がいて、果敢なキャスティングがある。多様性を受け入れる、極めて現代風なつくりが人気の秘密なのかもしれない。
意味ありげに現れる「蜂」の秘密は、すでに配信が決まっているシーズン2で明かされることだろう。原作に従えば、次回作では長男アンソニーの結婚が描かれると思われる。そして、最近、シーズン3、4の制作も発表された! エロイーズとペネロペの人生の選択を見届けることができそうで、お楽しみはまだまだ続く。
バナー写真:Netflix『ブリジャートン家』シーズン1より
Netflixオリジナルシリーズ『ブリジャートン家』シーズン1 独占配信中