一杯のみそ汁からできる腸活:発酵食品で免疫力アップ
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目に見えない微生物のパワー
微生物の持つ力に注目する吉田さんは、発酵菌を使って土壌を豊かにすることで農薬を使わない野菜作りを実践する。微生物の力で生ごみや雑草などを発酵させた堆肥は土を豊かにし、その土で野菜を栽培するとがんや老化を予防する効果があるといわれるファイトケミカル成分が高まり、病気や害虫を寄せ付けない丈夫な野菜に育つ。「発酵菌は人間の身体でも同じような現象を起こしていると思います」と吉田さんは言う。
微生物豊かな土壌での野菜作りと同じポイントを押さえて保育園などで食改善を実践したところ、4週間足らずで子どもたちの体調に変化が表れたという。
長崎県の農業改良普及員として、生産現場で農業と深く関わってきた吉田さんは「菌ちゃんふぁーむ」の社長。1996年に県庁を退職して活動の幅を広めるために99年に「NPO法人 大地といのちの会」を立ち上げた。
毎年全国各地で100回以上の講演に招かれ、子どもたちのおなかの菌を増やす「菌ちゃん人間作り」のための「生ごみリサイクルと食生活法」を広めている。福岡県久留米市では吉田さんの話を聞いて、保育園の5割以上がほぼ毎年野菜を作り、給食にも用いている。
一日1回の給食で子どもたちが…
自然の一部である菌にはさまざまな働きがあることを、吉田さんは有機農業を通じて子どもたちに伝えている。その活動は、ドキュメンタリー『いただきます:みそをつくるこどもたち』(2016年公開・オオタ ヴィン監督)の続編として公開された『いただきます:ここは、発酵の楽園』(20年1月公開・同監督)で紹介されている。有機栽培で育てた野菜、小魚、みそなどを使った食事をして腸内環境を調えることで、子どもたちの体調が改善された体験だ。
私立保育園マミー(長崎県佐世保市)は、給食の食材で使う野菜の半分を、園児と一緒に生ごみリサイクルで育てた無農薬野菜で賄う。堆肥は給食や園児の家庭の生ごみを発酵させたものを使う。園児と一緒に作った発酵食品(みそ、たくあん、梅干し、ぬか漬け)も給食に使う。2006年から改善した給食を食べて野外で遊ぶ取り組みを始めたところ、一人当たりの年間欠席日数が平均で5.4日だったのが、2年後には0.6日に減った。
香川県三豊市立仁尾小学校では、吉田さんの講演を聞いて、2012年4月から週に5日のうち3日、それまでの調味料の代わりに一人当たり0.5グラムの煮干しと昆布とアゴを空いりして混ぜた粉末を入れたり、よくかんだりするように指導した。同年には児童330人のうち体温35度以下が30%だったのが、翌年には5%以下に減少。一方、36.5度以上の児童は30%以下だったが、2年間で80%以上を占めるまでに増えた。体温の上昇は欠席者の減少にもつながり、12年に年間延べ764人いた欠席者が13年に172人、14年には66人にまで激減した。
「4週間試すだけで変化が表れます」と吉田さん。映画『いただきます』のせりふに、食べたものが私たちの身体になる(You are what you eat)とある。食生活を改善すると、便の切れが良くなったり、臭くなくなったり、爪や髪の毛の質が変わったりする。子どもたちの体温が上がって体調が良くなり、集中力も向上し、心が穏やかになることでけんかがなくなり、ぐずる子が減ったと保護者や教師から多くの声が寄せられている。
青虫が、キャベツを選んでいる?
「農薬を使わずに育てた野菜」と聞くと、野菜に虫がついているイメージを持つ人もいるかもしれない。「違うんです」と吉田さん。生ごみと発酵菌で土づくりをした畑で育つ元気なキャベツに青虫を放しても青虫はキャベツに寄り付かないが、同じ畑でも弱って腐りそうなキャベツには青虫が群がり、向こう側が透けて見えるほどきれいに食べ尽くす。吉田さんは「青虫がキャベツを食べるのではなく、弱いキャベツを青虫が選んでいるのです」と言う。虫が寄り付かない野菜ほど、丈夫でおいしい野菜の証であることを、写真を見せながら教えてくれた。
免役力の7割を腸内細菌が作る
なぜ土に発酵菌を使うと、農薬を使わなくても丈夫な野菜が作れるのか。「菌が土を耕してくれるんです。有機物が十分に分解された菌の豊富な土で育った野菜には、病害虫は付きにくくなります。反対に土の中の菌が微妙に腐敗発酵していたり、度重なる殺菌剤の使用で菌が少なくなったりした土壌は抵抗力が弱くなり、病害虫が増殖しやすいのです」と吉田さんは解説する。
食物と一緒に入ってきた病原菌はその菌数が少ない場合、常在している腸内フローラ(細菌)により排除されることを研究した文献(※1)もあることから、吉田さんは人間の身体にも同じことが言えると考えている。
人間の腸には免役系細胞の約7割が、特に大腸の粘膜に集まっていて、免疫力の70%を腸内細菌がつくる(※2)という。発酵菌が土壌を豊かにしたように、腸内でもフローラ(細菌)の種類と数を増やして腸内環境を調える。「みそやしょうゆなどで発酵菌を取ると腸内フローラが増え、それによって腸内環境が良くなります。そこに餌となる野菜や微量栄養素を取ると免役力が高まるのです」。有機野菜で子どもたちの食改善に取り組んできた体験からの気付きだ。
「腸内フローラの餌として、ミネラルは海産物(小魚、海藻など)、玄米や雑穀、未精製の油(オリーブ、アマニ、エゴマなど)、乾物(ヒジキ、高野豆腐など)、岩塩などから摂取できます。ファイトケミカルは旬の野菜、できれば無農薬なのに病害虫の少ない野菜に多く含まれています」と吉田さんは付け加えた。
みそやしょうゆなどの発酵食品と食物繊維たっぷりの旬の野菜、ミネラルなどの微量栄養素を一緒に取る。これが、吉田さんが勧める免疫力を高める食生活なのだ。
一杯のみそ汁からできる腸活のススメ
3月に開催されたオンラインサミット『奇跡を起こす子育て』で、吉田さんは講師として自らの体験を基に腸の環境を調える「腸活」を紹介した。例えば、
- 1日一杯のみそ汁に旬の野菜や豆腐をたくさん入れて食べる。忙しい時はみそを湯で溶かすだけでもいい。煮干しや海藻などのミネラルも加えてまず4週間続ける。
- 食品ラベルをチェックしてなるべく自然素材だけで造ったみそやしょうゆなどの発酵食品を選ぶ。
- 食べる時は1口30回以上かんで腹八分目を心掛ける。
- 免役システムを活性化するために、空腹時間を増やす(腹八分目)。
- 夜に冷たいものや果物を取りすぎず、おなかを暖かく保つ。体温が低いと免疫力が下がるからだ。
「持続可能で、土壌も野菜も人も元気になる農業を目指しているのです」と吉田さんは言う。「地球の『いのち』の循環の中に自分がいることを体験すると、大地に支えられているという安心感が生まれます。大地や食べ物をありがたく思う心が育ち『この世にいらないものなんて何もない』という感覚さえ生まれます」と著書「『元気野菜づくり』超入門」で述べている。先人の知恵・発酵食品と旬の野菜でおいしい「腸活」をして、免疫力を高めて病気に負けない健康な体を手に入れたい。
バナー写真=映画「いただきます:ここは、発酵の楽園」からオーガニック畑「菌ちゃんふぁーむ」の吉田俊彦さん 提供=イーハトーヴスタジオ
文中写真・グラフ提供=吉田俊道
(※1) ^ 滋賀医科大学医学部附属病院消化器内科・安藤朗教授
(※2) ^ こころとからだの免疫学―腸内細菌の働きを中心にー人間総合科学大学 藤田紘一郎