山西利和:競歩界初の頂点を狙う超高学歴アスリート―東京五輪の金メダル候補たち(9)
東京2020 スポーツ- English
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酷暑のドーハで見せた圧巻のパフォーマンス
山西利和が大きな注目を集めるようになったきっかけは、2019年にドーハで行われた世界選手権競歩だった。20kmに出場した山西は、圧巻の歩きを見せる。7km付近で先頭の選手に追いつくとそのまま抜き去り、そこからは単独行。
このレースは高温多湿の厳しい条件のもとで行われ、棄権した選手も少なからずいた。その影響で東京五輪の競歩とマラソンの開催地が、東京から札幌に変更された経緯がある。そんな苛酷なレースだったにもかかわらず、山西は悠々と先頭でゴール。まさに圧巻と言えるパフォーマンスを見せた。
このレースをきっかけに東京五輪の金メダル有力候補と目されるようになった山西は、異色の学歴を持つ選手でもある。
もともとランナーとして陸上競技に励んでいた山西が、競歩を始めたのは京都市立堀川高校入学後。部活動で競歩をしている先輩の姿を見て興味を覚え、転向した。
超難関校で成し遂げた学問と競技の両立
全国大会で好成績を残すなど、めきめきと頭角を現した山西が進学先に選んだのは、京都大学工学部。東京大学と並ぶ日本屈指の難関校で、しかも文系と比べれば学業に時間を必要とする理系に籍を置いた。競技に割く時間がとれるのか心配になるところだが、そもそも堀川高校も公立の進学校で、山西は以前から競技と学業を両立させてきた。
何がそれを可能にさせたのか。一つは時間の配分だ。高校時代、世界ユース選手権で優勝を果たしているが、勉強を重視する顧問の方針もあって、受験期には競技を控えていた。文武両道とは言っても、いたずらに両方を追うのではなく、タイミングごとに優先順位をしっかり定めていたのだ。
もう一つは、勉強のときは勉強、練習のときは練習という具合に、優先すると定めた事柄に全力で取り組む集中力を持っていたことにある。大学時代もユニバーシアードで優勝しているが、右肩上がりに競技成績を伸ばせたのは山西の集中力があってこそだ。
社会人として、競技者として狙う金
18年に愛知製鋼に入社した後も、仕事と競技の両立に取り組んできた。仕事があるから練習時間が早朝と夕方以降に限られても、それをハンディキャップとはしなかった。
今日、日本のスポーツ界では、日本代表クラスの選手ともなれば、競技に専念できる環境にある選手は少なくない。だからこそ、学業、仕事と競技の両方に打ち込み、そして世界一にまで昇りつめた山西は、異色の存在と捉えられている。
レースは8月5日、目の前に迫る。
「金メダルをターゲットにずっとやってきたので、そこは変わらず、獲りに行きたいです」
中国の王凱華(ワン・カイファ)、蔡澤林(カイ・ゼリン)に日本の池田向希(こうき)などライバルは少なくない。それでも山西は自分を信じて、大舞台に臨む。
バナー写真:2020年の全日本実業団対抗、男子5000m競歩で、日本新記録の18分34秒88で優勝した山西(2020年9月18日、埼玉・熊谷スポーツ公園陸上競技場)時事