文田健一郎:「猫萌え」を力に変えて、お家芸レスリング復権を目指す―東京五輪の金メダル候補たち(5)
東京2020 スポーツ- English
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主戦場は日本勢が苦手とするグレコローマン
文田健一郎は、元選手で引退後は指導者を務める父のもと、遊び感覚でレスリングを始めた。才能が開花したのは本格的に練習に取り組んだ中学生になってから。全国大会で優勝するなど注目を集めるようになった文田は、大学生になると急成長する。3年生のとき全日本選手権で優勝し、翌年には世界選手権を制した。
レスリングには全身を攻めることが認められる「フリースタイル」と、下半身への攻撃が禁じられる「グレコローマンスタイル」があるが、文田は日本選手が相対的に苦手とするグレコローマンで頂点に立った。グレコローマンでは日本勢として34年ぶり、日本男子史上最年少優勝でもあった。
2018年こそけがの影響で世界選手権代表を逃したが、2019年に再び代表になると優勝。東京五輪の優勝候補と目されるまでになった。
これらの実績もさることながら、文田の強さを際立たせるのは「反り投げ」だ。体幹の強い海外の選手であっても、抱え込んで背中を思い切り反らせ、鮮やかに投げ飛ばす。柔軟性に富んだ身体と技の切れがあればこそ。闘いのさなかに見せる、相手が技に入る隙を狙う眼差しの鋭さ、そして試合中に発せられる気迫もまた、文田ならではの強さの発露だ。
猫島への一人旅
だがマットを離れると、その表情は一変する。2017年の世界選手権優勝後、文田が実行したのは、野生の猫が数多く生息し、「猫島」として知られる福岡県の相島と藍島への一人旅だった。
「猫を撮るために一眼レフカメラも購入しました」
休日、ひと息つくために向かうのも猫カフェ。猫について語るときは、マット上での厳しい表情がうそのように、穏やかな笑顔に変わる。遠征や合宿が多いから飼うのは難しいものの、根っからの猫好きとしてもすっかり有名になった。
むろん、自身の「本業」は忘れていない。見定めるのは東京五輪の金メダルにほかならない。
五輪直前に感じた「伸びしろ」
昨年12月の全日本選手権では反り投げをほとんど使わず、他の技を駆使して優勝した。研究し尽くされることを自覚しての試みに手ごたえを得た。
「攻めのバリエーションをつけるのが課題でしたが、その糸口は見つけられました」
だから、こう語る。
「伸びしろはあります」
目指すは五輪の勝利だけではない。関係者の期待を担う立場にあることも肌身に感じているから、文田は言う。
「日本のレスリングを引っ張っていきたいです」
心から穏やかに猫と触れ合うためにも、日本レスリングの真のエースとなるためにも。文田健一郎は、初の大舞台で表彰台の真ん中だけを目指す。
バナー写真:柔軟な背中から繰り出す反り技が最大の武器。全日本選手権決勝で鈴木絢大(上)を攻める文田(2020年12月20日、東京・駒沢体育館)時事