平野美宇:卓球女子団体悲願の金へ、中国戦のカギ握るハリケーン娘-東京五輪アスリートの肖像(2)
東京2020 スポーツ- English
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団体戦のカギは初戦のダブルス
東京五輪の卓球種目は、男女シングルス、男女団体、混合ダブルスの計5つ。この中で日本勢が過去2大会連続でメダルを取っているのが女子団体だ。初めて採用された2008年北京五輪で4位、12年ロンドン五輪で銀、16年リオ五輪で銅を獲得。東京2020では、過去3大会金メダルを独占してきた中国の牙城を崩し、日本がその座を射止めるのも夢ではない。
平野がカギを握ると見る理由の一つは、東京五輪ではこれまで以上にダブルスの持つ意味合いが大きくなることだ。団体戦は、ダブルス1試合とシングルス4試合で、先に3勝したチームが勝つ。このルール自体は過去と同じだが、これまでは3戦目に組まれていたダブルスが東京五輪では初戦になるのだ。
日本卓球協会が定めたシングルス代表の選考基準は、男女とも1月の世界ランキングの上位2人。平野は昨年12月、カナダで行われた国際大会の決勝で代表を争う石川に敗れて選考ポイントで3位に後退。シングルスの代表を逃し、団体戦のみ出場することになった。
団体戦の戦略としては、エースの伊藤(1月の世界ランク3位)がシングルス2戦に起用され、石川(同9位)と平野(同11位)がシングルスとダブルス1戦ずつの出場になると見られる。
団体メンバー入りの発表(1月6日)に際して、平野は「金メダルを目指し、石川選手、伊藤選手と力を合わせて、チームに貢献したい」とだけコメントした。短い言葉の奥には、シングルス代表争いに僅差で敗れた悔しさ、そしてその悔しさを団体にぶつけたいという気持ちが感じ取れた。すべての思いを金メダルに向かうためのパワーとする、という覚悟が伝わってきた。
伊藤は、混合ダブルス、女子シングルスをこなした後の団体戦になり、エースとして重圧を受け続けることからも、体力面、精神面の疲労は避け切れない。石川もシングルスを闘い抜いた後の団体戦となる。その点、団体のみの平野は、自身にとっての“五輪ファーストマッチ”となるダブルスに、満を持して臨むことになる。石川と組むことが有力なこの試合で、確実に勝利を収めて優位に立つことが金メダル獲得の大きな条件だ。
女子日本代表の馬場美香監督も「石川選手とペアを組んだ女子ダブルスで昨年、アジア選手権銅メダル、ワールドツアーでも好成績を残した。シングルスでも17年のアジア選手権で中国選手を破って優勝。目標とする『打倒・中国』に向けて(3人目には)平野選手が最適と考えた」と期待を寄せる。
リオの悔しさバネに「攻め」へ
平野といえば思い起こすのは、補欠に回った16年リオデジャネイロ大会の悔しさをバネに飛躍し、「ハリケーン美宇」の異名を取った翌17年の大活躍である。
リオでの平野は、自身の感情を表に出さぬよう必死な毎日を送っていた。福原愛、石川佳純、同学年の伊藤美誠のサポートメンバーとして現地に帯同。荷物持ちや球拾い、伊藤のヒッティングパートナーなど裏方に徹し、チーム第一の行動を完遂し、メンバーと一緒にいるときは笑顔を貫いた。団体で銅メダルを獲得してうれし涙を流す3人の姿は複雑に映ったが、これも笑顔で祝福した。「少しでも気を緩めると涙がこぼれそうだったので、一生懸命に笑っていました」。16歳にとっては酷といえる状況だった。
だが、平野は悔しさをプラスに転じさせた。ブラジルからの帰国後、ため込んでいた思いを一気に爆発。相手のミスを待つ受け身のプレースタイルから、先に攻めるスタイルに変身し、16年10月の女子ワールドカップで日本人初優勝を飾った。
ウエートトレーニングに本腰を入れるようになったのもこの頃だ。以前はやや“ぽっちゃり型”だったが、体が引き締まり、パワーがついた。16年12月には国際卓球連盟が定める「ブレイクスルー・スター」に選出され、17年1月の全日本選手権では石川との決勝戦を制して、16歳9カ月の史上最年少優勝を果たした。
中国選手を次々撃破
勢いはその後も止まらず、17年4月に中国で行われたアジア選手権では、中国に本気の危機感を抱かせる快進撃を見せる。リオ五輪金の丁寧(当時世界ランク1位)のほか、朱雨玲(同2位)や陳夢(同5位)を立て続けに破り、初優勝を飾った。1996年の小山ちれ以来、21年ぶりとなる快挙。6月には世界選手権で日本女子として48年ぶりの銅メダルに輝いた。苦境から立ち上がった後の平野の爆発力はすさまじかった。
日本卓球界のレベルは着実に上がっている。それを物語っているのが、東京五輪代表発表の翌週に行われた2020年全日本選手権。女子シングルスで3連覇を目指した伊藤が準決勝で姿を消し、石川も決勝で散った。平野は5回戦で高校生に敗れた。優勝したのは、東京五輪の代表選考で落選した早田ひな(19)だった。
張本智和ら男子も含めて、東京五輪代表に決まった選手がシングルスのタイトルを1人も手にできなかったのは、昨年1年間にわたって繰り広げられた選考レースの消耗がいかに大きかったかを感じさせる結果でもあった。
過酷な選考レースを乗り越えて立つ東京五輪の舞台。日本卓球界に悲願の金メダルをもたらすべく、平野がもう一皮むけた姿を本番で見せてくれることに期待したい。
バナー写真:ダブルスを組む平野美宇(右)と石川佳純(左)(時事)