「令和の時代」の万葉集

人恋しい季節-「令和の時代」の万葉集(26)

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上野 誠 【Profile】

「秋の夜長」の季節になる。万葉人はロマンティクであった。ここに紹介する秋の歌の味わい。はたしていまの若者たちに通じるのだろうか。

秋【あき】の夜【よ】を
長【なが】しと言【い】へど
積【つ】もりにし
恋【こひ】を尽【つ】くせば
短【みじか】かりけり
(作者不記載歌、巻十の二三〇三)

秋の夜を
長い長いと人はいうけれど……
積もりに積もったこの思い――
その思いを晴らそうとすれば
(ソリャアーソリャー)
短いもんよ!

 

 緯度の高いヨーロッパを旅すると、夜も九時なのに明るいなぁと感じることがある。ここは、日本人が戸惑うところだ。四季のある日本では、気温も違うのだが、ヨーロッパほどではないにしても、日没や日の出の時間の早い晩い(おそい)で季節の推移を感じることも多い。

 「秋の夜長」といえば、もの思うころであり、寒さもあいまって、人恋しくなる頃である(と、ここまで書いたところで、なんという陳腐な季節ネタエッセイを偉そうに書いているのかと思ったが、こんなことを書くのが、国文学者のエッセイの定番でもあるので、このまま書き継ぐことにする)。

 もちろん、秋の夜は長いのだが、久しぶりに男女が会って、そのつもりにつもった恋心を尽くしたならば、秋の夜長も、一瞬だというのである。

 その時間を長く感じるか、短く感じるかは、それぞれの主観である。客観的な時間など、個人の感覚のなかにはない。ことに恋の時間というのは、そういうものだ。

 二十年前に、教室でこんな話をすると、女子学生はきらきらと眼を輝かせて聞いていたものだが、今は違う。たいくつそうに聞いている。もう、そんなことは彼女たちにとって、あたりまえのことなのだろうか?

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    1960年福岡県出身。國學院大學文学部特別専任教授(万葉文化論専攻)、奈良大学名誉教授。国学院大学大学院文学研究科博士課程満期退学。文学博士。万葉文化論の立場から、歴史学・民俗学・考古学などの研究を応用した『万葉集』の新しい読み方を提案。『魂の古代学―問い続ける折口信夫』『万葉挽歌のこころ―夢と死の古代学』『万葉文化論』など著書多数。万葉集を題材にしたオペラの執筆上演で話題を博すなど、いま注目の気鋭の万葉学者である。

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