ニッポンの性教育

シリーズ・ニッポンの性教育(1) 子どもたちを性犯罪の被害者にも加害者にもしないために

社会 教育 家族・家庭

子どもが被害者となった性犯罪のニュースは毎日のように伝えられている。子どもが加害者となる場合もある。そうした中で、「自分の子どもが被害者や加害者になったらどうしよう?」という不安を多くの親は持っている。その不安を解消するためにも必要なのが性教育だと言うのが、「とにかく明るい性教育『パンツの教室』協会」の代表理事・のじまなみさんだ。2018年に出版した著書『お母さん! 学校では防犯もSEXも避妊も教えてくれませんよ!』が版を重ねている。

何も知らない子どもは犯罪者について行ってしまう

のじまさんが性教育に関わるきっかけとなったのは、近所で起きた誘拐事件だった。中学生の女の子が被害者で、犯人の男に「ちょっと助けてほしい」と声をかけられてついて行ってしまったという。その時、のじまさんは小学校4年生と1年生だった自分の娘たちに、「もし同じように声をかけられたらついて行く?」と聞いた。娘たちの答えは、「ついて行ってしまう」だった。のじまさんはそのとき、子どもたちはついて行った先にどんなトラブルや危険があるのか理解していないと気づいた。

またこんなこともあった。娘たちがタブレット端末でエッチな動画を見ていたのだ。そして、その動画が「楽しかった」と言う。子どもたちは裸やチューをしている動画が好きだ。「どこからそこに行ったの?」と問うと、子どもたちが大好きな有名なアニメから行き着いていた。子ども向けのコンテンツを視聴していても、エッチな動画に5クリックぐらいで行き着いてしまう。「かっこいい」と検索窓に入れただけで、「かっこいい男子とセックスする」というサイトに行ってしまう。どんな言葉も性産業のコンテンツに繋がっている。

のじまなみ著『お母さん!学校では防犯もSEXも避妊も教えてくれませんよ!』(辰巳出版)
のじまなみ著『お母さん!学校では防犯もSEXも避妊も教えてくれませんよ!』(辰巳出版)

そうした母としての経験から危機感を持ち、最初は1人で性教育を広めていく活動を始めたという。すぐに全国から講演依頼がくるようになった。

「始めたときから、批判はなく需要しかありませんでした。お母さんたちは、自分の子どもが性犯罪にあったらどうしよう、性犯罪をしてしまったらどうしようという潜在的な不安を抱えていました。でも子どもはコンビニに行くと、成人雑誌を買って欲しいと泣きながら、『どうしてきれいなお姉さんの本を買ってくれないの?』と言ったりする。そんなとき、どうしたらいいのか教えてくれる人はいない。本屋にも図書館にも性教育に関する本はほとんどなく、ネットを調べても信じていいのか分からない情報しかない。みなさん、『このままじゃいけない』と思っていたんです」

父から受けた性教育で自己肯定感を得た

のじまさん自身は、子どものときから父親に性教育を受けていた。「おっぱいは大きくなくてもいい」ということから、「コンドームはつけないといけない」というようなことまで。父親が教えてくれたことは、のちに泌尿器科の看護師となってみると、科学的には100%正しい情報ではないものもあった。しかし父親が性について、恥ずかしいことではなく身を守る方法としてあっけらかんと伝えてくれたことで、タブーのない親子関係ができたという。

のじまさんは、体のプライベートな場所を「水着ゾーン」と呼んで、子どもたちに教えることを推奨している=イラスト:おぐらなおみ(同書より)
のじまさんは、体のプライベートな場所を「水着ゾーン」と呼んで、子どもたちに教えることを推奨している=イラスト:おぐらなおみ(同書より)

「父のおかげで、私は『愛されて生まれてきた』という自己肯定感を得て、家族と何でも話せる関係を築くことができました。よくお母さんたちから、『性教育をした結果、どうなりますか?』と聞かれます。性体験が早まったりするのではないかという懸念があるからです。でも、例えば秋田県では、かつて10代の人工妊娠中絶率が全国平均を上回っていましたが、2000年代初めから取り組んだ中高生への性教育により、17年度には14分の1に減らすことができました。性教育は命の教育ですから、愛情が伝わります。愛情を受け取った子どもは自己肯定感を得て、人を思いやれるようになります。性教育には百利あって一害なしです」

のじまさんは父親から性教育を受けたが、著書は母親に向けたものであり、父親からの性教育には期待していない。それはなぜか。

「私は性教育の話を4000人以上の保護者にしてきましたが、残念ながらお父さんたちは『そんなのほっとけばいい』という人ばかりでした。お父さん自身も性教育を受けていないので、タブー視しているのです。また、仕事で時間がないために子どもとのコミュニケーションが取れていない。性の話は、日頃のコミュニケーションが取れていないと恥ずかしいだけになってしまいます。そのため基本的にはお母さんから、と私は思っていますが、もしお父さんが性教育をタブー視せずに、子どもとコミュニケーションが取れて信頼関係があるなら、ぜひお父さんから話してほしいと思っています」

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