21世紀のスプートニク・ショック

「宇宙版日米同盟」で進む宇宙の安全保障|宇宙作戦隊とはなにか(4)・最終回

政治・外交 国際 科学

今年5月、航空自衛隊に宇宙作戦隊が創設されたことで、日本も安全保障の対象として宇宙空間を捉え、具体的に取り組むことになった。宇宙での米中ロの覇権争いに、日本の宇宙作戦隊はどのようにかかわっていくのだろうか。斯界の第一人者に現状と課題を解説してもらう。

そもそも日本では、戦後40年間にわたって、宇宙はあくまで平和利用の対象であり、軍事利用はしないことを国是としてきました。しかし世界では、平和利用には軍事も含まれると考えるのが常識です。2008年の宇宙基本法によって、宇宙の平和利用とは、防衛上の利用も排除されるものではないと柔軟に解釈されるようになります。ここで、ようやく世界標準に追いついたのです。

そして、自衛隊に宇宙作戦隊が創設されました。前回書きましたように、当面の任務は宇宙状況監視(SSA)の態勢を整えることとなりますが、将来像はどうでしょうか。

日米宇宙協議の開始

その前に、宇宙の軍事利用について、この10年あまりの流れを振り返ってみます。

宇宙基本法によって、宇宙の防衛目的での利用が可能になると、日米政府間の協力に弾みがつきます。2008年の日米宇宙政策協議では、まだ安全保障分野は除外されていましたが、09年11月の日米首脳会談で宇宙における安保協力の推進が合意され、翌年9月から安全保障分野における日米宇宙協議が定期的に実施されるようになります。

2012年4月の日米首脳会談の成果文書では、民生・安全保障の両分野の宇宙協力項目を具体的に定め、宇宙に関する包括的対話を設置することとなりました。包括的宇宙対話は13年以降、ほぼ毎年開催されています。

内閣府に設置された宇宙開発戦略本部(首相が本部長)は2013年1月に、第2次宇宙基本計画を決定します。この時点では、宇宙開発利用の基本的な方針は「宇宙利用の拡大」と「自律性の確保」であって、いまだ正面から宇宙の安全保障利用が入ることはありませんでした。しかし、「宇宙を活用した外交・安全保障政策の強化」という項目の中で、世界の主要国で「安全保障分野での宇宙の利用が進められており、我が国においても対応を検討する必要がある」とされました。

あわせて、2012年の宇宙航空研究開発機構(JAXA)法の改正により、JAXAの活動も、防衛目的の平和利用までを含むようになります。これにより、JAXAは積極的に防衛省を含む省庁や民間事業者の要請にも応えられるようになりました。JAXAと防衛省がSSAで協力をする法的な基盤は、この時点までに整ったのです。

「抗たん性」を日米両国で追求する

これより、宇宙空間の安全保障に関する日米の協調は、より具体的に深化していきます。

2013年3月の第1回包括対話で、日米SSA協力取極の実質合意がなされ、翌年、正式に締結されました。その内容は、米国から、日本の衛星に接近する物体に関する高精度で詳細な情報や、衝突を回避するために日本の衛星が通過すべき軌道の呈示などが行われるというものです。

2014年の第2回包括宇宙対話では、宇宙状況監視(SSA)協力などを通じた宇宙の「抗たん性」を日米両国で追求することが確認されています。

抗たん性とは、敵から対衛星攻撃(ASAT)を受けたときにも、それによって防衛上の能力に支障をきたさないよう、被害を最小限にとどめるためのさまざまな仕組みを整えることを意味します。SSAを強化して、脅威を認識し、自国衛星の軌道を変更して攻撃をかわす、というのも抗たん性強化の重要な手段といえます。

しかし、日本は当然のこと、米国ですらこの抗たん性を高めることに必ずしも成功するとはいえません。攻撃に備え、自国の重要な衛星は強靱な材質で製造し、代替の衛星を迅速に打ち上げ可能となるよう即応型のロケットや衛星を準備しておくことが必要です。そして、あらかじめ同盟国の衛星に自国のセンサーを搭載しておくことにより被害を最小限に抑えること、最終的には攻撃を仕掛ける敵の衛星の機能を先に壊してしまうことなど、さまざまな方法によって抗たん性を確保することができます。

最後の方法は、法的な意味で国際違法行為である「武力行使」と判定される可能性もあり、そう簡単に実行できるわけではありません。物理的に破壊しない場合でも、武力行使に該当する場合もあり、武力行使であるのかどうかの国際的な合意は必ずしも存在していません。その行為の性質や、そこから生じた結果を総合的に考慮して判定されるのでしょうが、武力の応酬となり、紛争がエスカレートする危険性を考えると、そう簡単にはASATはできません。したがって、抗たん性の確保においては、同盟国・友好国との協力により、いざというときに使用可能な衛星センサーやロケットを用意しておくことが重要です。

日本の衛星に米国のSSAセンサー搭載

2015年1月に、宇宙開発戦略本部によって第3次宇宙基本計画が決定され、そのなかで初めて宇宙政策目標の3本柱の1つ、しかもそのトップに宇宙安全保障の確保が位置付けられるようになりました。そこでは、「スペース・デブリ回避のための我が国のSSA体制の確立」と宇宙の抗たん化を図るための「同盟国等との衛星機能の連携強化や、人工衛星へのミッション器材の相乗り(ホステッド・ペイロード)」を目指す旨が記されています。

防衛省では、2017年度末までに、SSA運用を主管する航空幕僚監部内に要員が増員され、JAXAと協力協定を結び人事交流などを通じて、JAXAからSSAの知見を具体的に得られる体制を作りました。

ホステッド・ペイロードについては、2023年度に打ち上げ予定の日本の測位航法衛星「みちびき」5号機に、米国のSSAセンサーを搭載することが日米安全保障協議委員会(2019年4月)の成果文書で正式に発表されました。インターネット上に文書があり、誰でも読むことができます。日米をはじめ自由主義諸国の実施するSSAは、このレベルで透明性を確保しています。

さらに、米国以外の国とのSSA協力も進み、フランスとは2017年に技術取り決めを結んでいます。フランスは欧州最大の宇宙能力を持つ国で、米ロに次いで画像偵察衛星や電子偵察衛星を運用した国です。特に電子偵察衛星は今日でも、米ロ中以外はフランスとインドのみが保有する、技術的に高度な衛星でもあります。そして、オーストラリアやインドとの間でも宇宙対話が開始し、防衛省も参加するようになりました。

米国の宇宙監視ネットワーク(SSN)の一部へ

システム建造だけではなく、SSAの多国間机上演習への参加も特筆事項です。

日本が参加するようになった机上演習には2種類あります。1つは、2017年から参加しているもので、米戦略軍が主催する「グローバル・センチネル」シリーズです。これはより軍民両用的なもので、参加国も相対的に多くなります。2019年には米、オーストラリア、カナダ、英国、フランス、ドイツ、イタリア、日本、韓国、スペインの10カ国が参加しています。

日本の参加が実現したもう1つの机上演習は、米空軍主催のシュリーバー演習(ウォーゲーム)で、安全保障に特化しているだけによりメンバーを選びます。2009年に開始したときには米、オーストラリア、カナダ、英国のみが参加していました。5年後、この4カ国が連合宇宙作戦を行うパートナーとなります。翌年にニュージーランドもパートナーとして加わり、米英を基軸とするファイブ・アイズ諸国の絆の強さを改めて世界に見せつけることとなりました。ここには他の国はなかなか入ることはできませんでした。

ところが、中国やロシアの宇宙での行動が過激化する中、実力あるメンバーを増やす必要が生じ、2016年からはドイツとフランス、2018年には日本も招待されるようになりました。ファイブ・アイズ+日独仏、という形を作っています。2019年、フランスとドイツはやはり連合宇宙作戦を戦うパートナーシップ協定に調印しています。

今後、自衛隊が山口県に設置するSSA用「ディープ・スペース・レーダー」(JAXAが岡山県上斎原に持つレーダーは汎用利用ですが、こちらは軍事専用です)の開発にも、米国は協力します。また、2020年6月に閣議決定された第4次宇宙基本計画の令和2年度工程表にも、自衛隊の運用する衛星(当面は軍事通信衛星「きらめき」)を守るため、2026年度までに、周辺を飛行して監視するSSA衛星を打ち上げる予定であることが記載されています。

防衛省のXバンド通信衛星「きらめき2号」を搭載し、打ち上げを待つH2Aロケット32号機=2017年1月24日、鹿児島・種子島宇宙センター(時事)
防衛省のXバンド通信衛星「きらめき2号」を搭載し、打ち上げを待つH2Aロケット32号機=2017年1月24日、鹿児島・種子島宇宙センター(時事)

これら日本の宇宙資産やレーダーは、米国の宇宙監視ネットワーク(SSN)の一部を担うことでしょう。近い将来の日本の宇宙作戦隊は、宇宙版日米同盟の具体化として、米国主導の宇宙連合作戦のパートナーになる方向が望ましいと考えられます。それが、中国とロシアの脅威に備えたものであることは、言うまでもないでしょう。

バナー写真: Ravil Sayfullin/Pixta

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