「南南協力」で進む途上国支配|シリーズ・21世紀のスプートニク・ショック(4)
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衛星需要をまるごと請け負う中国
今日、中国はしばしば、途上国の衛星需要をまるごと請け負います。必要なスペック(仕様)に応じて衛星を中国で製造し、中国のロケットで軌道に打ち上げます。
発注国には、その衛星をコントロールする地上局が造られますが、ローカルスタッフには能力がありません。切り回すのは、中国が送り込んだ要員になります。発注国は、いつまでたってもノウハウを蓄積できません。2号機以降も、同じことの繰り返しになり、結局中国に従属することになってしまいます。
お客さんの衛星だとはいっても、中国はそこに、自分のための装置――測位センサーや光学センサーなど――を搭載させる(いわゆるホステッド・ペイロード)こともでき、現にやっていると言われています。
ホステッド・ペイロード 人工衛星へのミッション機器の相乗りのこと。具体的には、貸し手(本文の場合は途上国)が衛星の余剰スペースを提供し、借り手(同中国)がそこに宇宙ミッションで必要となるセンサーなどの機器を搭載するサービス。
出費ゼロで、いや、お金をもらいながら、自らの宇宙能力を高めることができる。しばしば中国はこれを「南南協力」と称します。実際には、支配服属関係のみが可能にする、実に妙味のあるビジネスモデルだといえるでしょう。
ただしそれだけでは、いかにも二国間の力量差を利用した、権力的な関係づくりに見えかねないところです。中国には、それへの予防策があります。北京の取り組みは、なかなかどうして重層的です。
予防策というのは、多国間の組織をこしらえ、それを北京が切り盛りすること。そうすることで、権力づくの支配従属関係という印象は、薄まると見込んでいるのです。
アジア初の「宇宙」国際組織
中国はつとに1992年、タイ、パキスタンとの間で、宇宙技術協力の枠組みをこしらえていました。98年になると、新たな枠組みをつくり、タイ、パキスタンに加え、イラン、韓国、モンゴルを加えます。
これらを原型とし、2005年に協定署名、08年に、北京を本部として始動させたのが、「アジア太平洋宇宙協力機構(APSCO)」なのです。アジアで初めての、そして現在まで唯一の宇宙活動についての政府間国際組織です。
発足メンバーは、中国のほか、バングラデシュ、イラン、モンゴル、パキスタン、ペルー。その後トルコ、タイが批准を済ませて加わりました。インドネシアは原署名国でしたが、いまだに批准できていません。もっとも、実質的には活動に関与しています。
その後、メキシコがオブザーバーとして加わり(15年)、エジプトが準加盟国になりました(16年)。もともとは、22カ国からなる欧州宇宙機関(ESA)を意識し、「アジア太平洋」の名を冠して出発したとはいうものの、地理的まとまりがある組織ではありません。また、APSCOがAPSCOとして主体的に打ち上げた衛星は、いまだに1機もありません。
APSCOの実態とは、ありていに言って、米国や欧州のローカルコンテント規制に縛られない・縛られたくない国や、欧米の影響力を忌避する国を、中国が束ねたものといえます。
参加国の多くは、中国との間に、宇宙技術をめぐって埋め切れない格差を抱えています。中国との「協力」とは名のみのこと。現実には、支配と従属の関係に入ります。このことには、前回触れました。加わることには利得があり、だから存続できているのは言うまでもありません。
無償供与の商売
参加国は、中国が保有・運用する測位衛星、リモートセンシング衛星のデータ、さらには通信衛星や放送衛星の地上局が、多くの場合無償で与えられます。自力で宇宙開発能力を持てない国にとって、これはほっぺたでもつねりたくなる話でしょう。もちろん、中国は商売に長けているのです。
ひとたびこの関係に入ってしまうと、中国製衛星のカスタマーでいることが、経済的に最も合理的になります。中国からみれば、超長期の大得意先を手にできることになります。
もっとうま味のあるのが、メンバー国に造る地上局です。後に述べる「宇宙状況監視(SSA)」の能力をもたせた地上局は、ほどよく地球の各地に散らばって、全体としては、中国の宇宙軍事能力に大いに資することになるのです。
そんなふうに、回り回って自国に役立つよう中国のこしらえたAPSCOが、実は国連の一機関との強いつながりを得て、さらに装いを整えつつあります。人類公共の目的に資するかの外観を身に付けつつあります。次回はそこを、見ていきましょう。
バナー写真:進む中国の宇宙開発(写真提供:科技日報)