
東京の夏は「最悪」を想定せよ:迫られる酷暑、ゲリラ豪雨などへの対策
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早朝スタートのメリットとデメリット
NHKの大河ドラマ「いだてん」で、1912年のストックホルム五輪が描かれた。資料によれば、マラソン競技の日は暑く、日陰でも32度あったという。レースのスタートは真っ昼間の13時48分だった。日本代表の金栗四三(かなくり・しそう)は途中で倒れ、近隣の人に助けられた。ポルトガル代表のフランシスコ・ラザロも倒れて病院に運ばれ、翌日亡くなった。彼は、オリンピック競技で亡くなった初めての選手だ。このとき、途中で棄権した選手はこの2人を含め、68人中34人にも上った。
それから100年以上の時が過ぎた。猛暑が懸念される中、東京五輪・パラリンピック競技大会組織委員会は、当初午前7時スタートとしていた男女マラソンを、1時間繰り上げて午前6時スタートとした。男子50キロ競歩は当初より30分繰り上げ午前5時半、男女20キロ競歩は1時間繰り上げ午前6時スタートとなった。
スタート時間繰り上げによって、競技の環境はどう変わるのか。気象予報会社「ウェザーニューズ」のスポーツ気象チームとして、五輪選手をサポートしている浅田佳津雄さんに聞いた。
「首都圏の夏の平均気温は30度前後です。日中はおそらく33度くらいになると思います。マラソンがスタートする午前6時は、過去10年の平均気温から考えて27度くらいでしょう。しかし気温と湿度は反比例するので、1時間前倒しで気温は0.7度ほど下がるものの、湿度は3〜4%上がることになります」
「熱中症には、特に気温・湿度・直射日光が関係するので、時間を前倒したことによるメリットは、直射日光に当たる時間が少なくなるということ。ところが、湿度が高いコンディションが苦手な選手であれば、条件はより不利になるかもしれません」
早朝のスタートに合わせて、選手は夜中から準備しなければならない。
「コンディションの作り方がとても難しくなります。多くの選手は午後の時間帯にパフォーマンス発揮のピークを迎える傾向にありますが、それが早朝スタートでは7〜8時間前倒しになる。このため、時差を感じている外国の選手のほうが、体内時計がピッタリ合う可能性があります。日本選手にとっては事前の調整で、暑熱対策とともに体内時計の調整も行っておくことが重要です」
マラソンコースの日陰と日なた、気温は2度弱も違う
浅田さんらスポーツ気象チームは、2018年8月18日からインドネシア・ジャカルタで開催されたアジア競技大会で、日本陸連と協力し、マラソンや競歩の選手たちに現地の気象データを提供した。この時期のジャカルタと五輪が開催される時期の東京は、気温・湿度がとても近いという。
「『仮想東京五輪』ということで、選手に帯同し、コースの状況を調査したり、測定した気象情報を提供しました。この時のジャカルタの気温は30度前後。競歩50キロは朝6時スタートで、気温が上がりきる前にレースが終わる感じでしたが、それでもゴール時には気温が32~3度になり、リタイアする選手も続出していました。そうした過酷な条件の中、日本の勝木隼人選手が金メダルを獲得しました」
気象予報会社「ウェザーニューズ」の浅田佳津雄さん(撮影:今村拓馬)
競技コースの調査・測定は、アジア大会でも東京五輪のマラソンコースなどでも、車で走って動画や写真を撮影しているという。
「コースは車道なので、選手はレースまで実際に走ることができません。そのため、コースのどこが日陰になるか、日なたになるのかをマップに落としたり、それぞれの箇所での気温などコースのデータを収集しています」
「例えば、東京五輪のマラソンのスタート地点は、昨年の極端に暑かった日の午前7時で気温31.7度、湿度70%でした。35キロ地点の9時の気温は36度、湿度は下がって50%です。日陰と日なたで、気温は2度弱も違います。ですから、選手は可能な限り日陰を走るほうがいいです」
また、熱中症予防を目的にした暑さ指数「WBGT」について、浅田さんはこう話す。「18年夏、7時スタート想定のマラソンコースの観測では、7時25分を過ぎた8キロ地点付近から、ビルの陰になる一部の箇所を除いて、ゴールまではずっとWBGT28度を超えていました」
「WBGT」は気温と湿度に加え、日射や輻射などの熱環境データを取り入れた数値。WBGTが28度を超えると、熱中症患者が急激に増える。環境省によれば、東京でWBGTの値が28度を超えた日数は2018年7月で27日、8月では25日。31度以上は7月、8月ともに20日で、これは日本の他の大都市と比べても際立って多い。