新天皇と「令和」の課題:不透明な次代への皇位継承

社会 皇室

「令和」と改元された5月1日、皇太子さまが第126代天皇に即位された。新天皇として直面される課題には、皇族の減少で次世代の皇位継承資格者が秋篠宮家の悠仁さま1人となることや、新皇后さまのご体調など、難問が少なくない。平成とは違う側面もある皇室となることを、国民も理解する必要がある。

皇室が将来、悠仁さま1人となる恐れも

新陛下は皇太子だった今年2月、59歳の誕生日を前にした記者会見で、皇室の将来像について、こう述べられた。「男性皇族の割合が減り、高齢化が進んでいること、女性皇族も結婚により皇籍を離脱しなければならないことは、将来の皇室の在り方とも関係する問題です」。皇族の減少を憂慮していることを明らかにされたのだ。

しかし、「(皇室)制度に関わる事項については、私から言及するのは控えたい」と、それ以上の明言を避けられた。皇族が死亡や結婚で減り続け、次の時代に安定的な皇位継承が出来るのかが課題になっている。その対策をめぐり、国会や国民の間で大きな論争を呼ぶ可能性もあり、新陛下はお立場を考えて発言を控えられた。

2019年の新年をお迎えになったご一家(宮内庁ホームページから)
2019年の新年をお迎えになったご一家(宮内庁ホームページから)

現在の制度では、皇室典範の第1条に「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」とあり、天皇は男性に限られている。したがって、皇位継承資格者は現在、秋篠宮さま(皇嗣)、悠仁さま、常陸宮さまの3人だけである。将来の皇位安定継承は前の陛下(上皇さま)が悩み続け、夜も眠れず体調を崩されることもあった深い問題だ。4人の孫に恵まれたが、もし女性3方が民間の人と結婚すれば皇族の身分を離れる(皇室典範第12条)ので、極端に言えば、皇室は将来、悠仁さま1人となってしまう可能性さえ考えられる。

女性宮家と女性・女系天皇

政府は菅官房長官が3月の国会で、新天皇即位後、速やかに皇位の安定継承について検討に入る意向を示している。近く始まる本格論議は、①女性皇族が結婚後も皇室に残り、公務などを行う「女性宮家」の創設②女性皇族や、母が皇族だが父が皇族ではない子が皇位を継ぐ「女性天皇・女系天皇」の容認――が主な論点となる。

小泉政権の2005年、「皇室典範に関する有識者会議」が女性・女系天皇と、女性宮家を認める報告書をまとめたことがある。推古天皇などこれまで10代8人の女性天皇は実在したが、父方が天皇につながらない女系天皇は前例がない。翌年、小泉首相は皇室典範改正案を国会に提出する予定だったが、秋篠宮妃紀子さまが懐妊し、悠仁さまが誕生すると、改正案はお蔵入りとなった。当時は皇太子家に愛子さまが生まれ、同世代の男性皇族がいなかったので、愛子さまを将来の女性天皇に想定した案だった。しかし、40年ぶりの男子皇族の誕生で典範改正は見送られた。

その後、宮内庁の羽毛田長官が2011年、皇室全体の活動や安定的な皇位継承のために、女性宮家の創設を検討課題にすると表明。これを受けて民主党内閣は有識者の意見を聞き、野田首相が13年、皇室典範改正案の提出をめざした。しかし、政権交代で安倍首相が改正案提出を見送った。男系の皇位継承にこだわる保守派は、女性宮家は女系天皇への布石になると警戒して反対し、戦後間もなく廃止された旧宮家の子孫を皇族に戻す案を訴えている。

新天皇陛下と愛子さま(宮内庁ホームページから)
新天皇陛下と愛子さま(宮内庁ホームページから)

2018年秋の読売新聞の世論調査によると、「皇室活動を支えるため、女性宮家を作る」ことに賛成40%、反対16%、どちらともいえない43%。国民がこの問題に迷い、結論を出せない状態であることを示している。タイミングが悪いことに、秋篠宮家のご長女の結婚問題で話が複雑になってしまった。女性宮家を想定した場合、配偶者(夫)に皇族の身分を与えるかなどの検討もすることになろうが、今後、国民の考えが賛否両論で二分する恐れも否定できない。

皇位安定継承策をめぐる論議は、天皇家と、弟の皇嗣、秋篠宮家の方々の将来にもかかわる。どのような皇室制度が良いのか、国民が先延ばしにしないで真剣に考えるべき時期を迎えた。新天皇が直接的なことは出来ないが、皇室の長としてどのように関与、発言されていくのかが注目される。

「過剰な期待は逆効果」と医師団

新皇后さまの体調も、新陛下の大きな課題となるかもしれない。新皇后さまがお気の毒なのは、天皇陛下を支えることに“完ぺき”だった新上皇后さまと比較されることだろう。

新皇后さまのお出ましはここ1年、だいぶ増えた。昨年12月、55歳の誕生日に発表された文書で「引き続き体調の快復に努めながら、できる限りの公務に力を尽くすことができますよう、努力を続けてまいりたい」と決意を述べられている。

同じ日に、宮内庁東宮職(当時)医師団が見解を公表した。「依然としてご快復の途上で、体調には波がある。大きい仕事の後や行事が続くと、疲れがしばらく残り体調が優れないこともある。過剰に期待されることは、かえって逆効果となることを理解いただきたい。特に2019年は重要な一連の行事もあり忙しくなるが、無理をされず、これまで同様、治療を続けることが大切」と、国民に温かく見守っていくよう、呼びかけている。

いつも温和な新陛下が皇太子時代の2004年、一度だけ激しい言葉を発したことがある。「それまでの雅子のキャリアや、人格を否定する動きがあったことも事実」。雅子さまが、お世継ぎへの重圧の中で01年に愛子さまをご出産。その2年後に療養生活に入り、その翌年に「人格否定発言」があった。間もなく宮内庁は雅子さまが「適応障害」で、健康回復に長い時間がかかることを明らかにした。

宮城県で被災者の方々をお見舞いになる皇太子同妃両殿下=2011年6月(宮内庁ホームページから)
宮城県で被災者の方々をお見舞いになる皇太子同妃両殿下=2011年6月(宮内庁ホームページから)

雅子さまは皇室の環境になじむのが大変だったのだが、その根本にお子さま出産への重圧があったことは否定できない。それに一人で耐えている妻を、もっと温かく見守ってほしいという皇太子さま(当時)のお気持ちが、あの発言になってしまったのだと、筆者は推察している。

令和の皇室は平成の時よりも皇后さまの出番が減ることがあっても、国民がそれを理解することを求められるかもしれない。その時、両陛下の側近である宮内庁侍従職の適確な説明が欠かせない。そして、新陛下も折に触れて皇后さまの近況、思いを率直に語られてほしい。皇后さまのご努力がわかれば、国民との歩み寄りはだんだんと容易になっていくと、筆者は予想している。

生前退位による継承のメリットを生かす

新天皇の目指すものが明確でない、という市民の声を聞いたことがある。この点は、平成の初めも同じだった。当時の陛下(現上皇さま)は自然災害など、起きたことへのすばやい対応として被災地お見舞いを重ね、まだ不十分だった戦争犠牲者への慰霊に取り組まれた。その実績が、平成の時代を大きくされたのだ。新陛下もこれにならい、「国民に常に寄り添い、人々と共に喜び、悲しみながら、象徴としての務めを果たす」ことを忘れずに、実績を積み上げていただきたい。

ご即位早々に厳しいことを並べてしまったが、令和の皇室にはこれまでの皇室になかった良さがある。202年ぶりの上皇さまが登場したからだ。もちろん、上皇さまは表立っての活動は遠慮されるかもしれないが、新陛下が父君に相談するのはごく自然のことである。

新陛下は、外国生活も長く国際性豊かな皇后さまと協力しあい、それでも難解なことがあれば、上皇さまのお知恵を拝借することもできるのだ。それを可能にした上皇さまに長生きしてほしいと、筆者は願っている。

バナー写真:第42回全国育樹祭の「お手入れ行事」を終え、手を振られる皇太子(新天皇)ご夫妻=2018年11月17日、東京都臨海部の海の森公園予定地(時事)

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