ニッポンのLGBTはいま

ニッポンのLGBTはいま(1)「これが私」自分に正直に生きる:日本テレビ・谷生俊美さんインタビュー

社会

「LGBTのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子どもを作らない、つまり生産性がないのです…」。杉田水脈衆院議員によってこのように書かれた雑誌「新潮45」への寄稿文が波紋を呼ぶ中、日本テレビ系のニュース番組「news zero」に、日本テレビ社員でトランスジェンダー女性のコメンテーター、谷生俊美(たにお・としみ)さんが登場した。エンタテインメントの世界で活躍するセクシュアルマイノリティは数多いが、ニュース番組でこうしたポジションに就いているのは、今のところ谷生さんだけだ。彼女が出演を決めた思い、職場でのカミングアウトに至るまでなどを聞いた。

職場で上司にカミングアウト

エジプトから帰国した時点で、すでに谷生さんの外見は、以前よりも痩せて髪も長く、色白になるなど、赴任前とはかなり変わっていた。同僚たちからは、「あれ? 変わった?」「ビジュアル系になった」などと言われたという。

「『谷生は、どこに行くの?』というようなことも言われました。それで、報道の際に顔出しでレポートするのは、もう限界なのかもしれないと思っていました。そんな時、たまたま異動になり、編成局編成部の映画班で『金曜ロードSHOW!』と『映画天国』のプロデューサーの仕事をすることになりました」

新しい部署の上司は女性だった。

「とても話しやすくて、サポーティブな人です。この人だったら分かってくれる、何かいい方向を示してくれるのではないかと思い、2012年の秋に彼女にカミングアウトしました」

会社に説明するにあたり、「趣味なの?」と言われて終わってしまうことにならないよう、「生き方」の問題なので個人的には意味はないかもと思いつつも、専門家の診断も仰いでいた。そして女性上司のサポートで、段階を踏んで会社の理解を得られた。

「上司は『そうなんだ、言ってくれてありがとう』『それなら、谷生ちゃん、もう加速したほうがいいわよ』と言ってくれました。それで、仕事でももう顔出しもしなくていいので、より女性的なファッションやメイクをし始めました」

顔出しの仕事はなくなったはずだったが、前述のように声が掛かった。「news zero」に登場したことで、さまざまな反響があった。社内でも社外でも、いろいろな人からメールがきたり、声を掛けられたりしたという。

「たくさんの人に喜んでもらえ、前向きな評価をしてもらえたのは、とてもうれしいことでした。その一方で、私はトランスジェンダー女性になりたいわけではなく、女性になりたい。だから『news zero』でも女性として認識されたいのですが、『この人、なんか違うな』という違和感を与えている。それは私の努力が足りないんだなと、常に思っています。それでも、発言をしていく覚悟を決めたからには、旗を振りたいというわけではないけれど、ある種のメッセージを伝えられたらと思っています」

セクシュアルマイノリティとエンタテインメント

谷生さんは2018年12月、事業局映画事業部に異動となり、入社時に志していた映画プロデューサーの仕事に就いた。

「私は、セクシュアリティがその人の属性を規定する一番のものではないと常々思っています。アメリカでは最近、映画やドラマにセクシュアルマイノリティが登場する際、トランスジェンダーの検事、レズビアンの弁護士というように、多様な描かれ方が普通になっています。ただ、日本ではまだその人物のセクシュアリティありき、でつくられることが多い気がします。でもこれからは、例えば関西出身で、検事でトランスジェンダー、のような感じで、エンタテインメントの世界でも、より一般的な存在としてセクシュアルマイノリティが出てくるようになればといいなと思っています」

谷生さんが映画の話を始めると、表情がさらに輝く。セクシュアルマイノリティが描かれた映画で18年の日本公開ならナンバーワンだとオススメの映画が、チリの『ナチュラルウーマン』だ。

「この映画は、主人公のトランスジェンダー女性を実際のトランスジェンダー女性であるダニエラ・ヴェガが演じました。映画では、パートナーである男性が亡くなってしまったことによって差別や不当な扱いを受けますが、彼女は愛を貫くため、自分自身でいるために闘います。その姿がとても詩的な表現と音楽とともに描かれ、本当に感動させられます。アカデミー賞外国語映画賞も受賞した作品です」

エンタメ部門でいちばん好きな映画は『ロード・オブ・ザ・リング』。カイロ支局時代も現地の日本人を自宅に招いて上映会をしていた
エンタメ部門でいちばん好きな映画は『ロード・オブ・ザ・リング』。カイロ支局時代も現地の日本人を自宅に招いて上映会をしていた

同じ18年公開でエンタメなら、『グレイテストショーマン』も好きだという。見た目や生まれが人と違うことで社会から疎外されていた人たちを集め、興行で成功した実在の人物を描くミュージカルだ。

「劇中でヒゲの女性が歌う『ディス・イズ・ミー』という歌の歌詞で、どうしても涙が止まらなくなってしまいます。『これが私』という、その圧倒的な自己肯定が、私の心に刺さります」

写真:今村 拓馬
取材・文:桑原 利佳(POWER NEWS編集部)
バナー写真:谷生俊美さん

この記事につけられたキーワード

LGBT 人権 多様性

このシリーズの他の記事