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今年は忘年会ができなくて「ぴえん」 : 三省堂の辞書編集者が選ぶ2020年の新語

言語 社会

辞書編集者が選ぶ、流行語ではない、後世まで残る言葉。

『三省堂 辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2020」』の選考会が11月30日、都内で開催され、軽い悲しみや落胆を表す若者言葉「ぴえん」が大賞に選出された。

年末に出版社や検索エンジン各社が発表する「今年の新語」や「最も検索された言葉」は、1年の総括として注目される。三省堂では、「辞書に収録するにふさわしい後世まで残る言葉」を選定しており、単なる流行語とは一線を画するのが特徴だ。

予想を裏切る「コロナ関連」以外

2020年は新型コロナウイルスの世界的な流行に翻ろうされた年で、コロナ関連の新語がちまたにあふれた。しかし、あえてコロナ関連ではない「ぴえん」を選ぶところに、辞書編集者のこだわりがある。『現代新国語辞典』主幹を務める小野正弘明治大学教授による語釈は以下の通り。

困ったり、思い通りにならなかったりしてちょっと悲しい気分であることをあらわすことば。「話題の店に来てみたら臨時休業だった、ぴえん」

「びえん」が激しい泣声であるのに対して、かわいらしい泣声をあらわしているオノマトペ 「ぴえんとした顔つき」のような、副詞的に用いられる場合もある。

2~4位にはコロナ関連の「警察」「密」「リモート」が選ばれた。

緊急事態宣言の期間中は、過剰な正義感を振りかざす「自粛警察」「マスク警察」があちこちに現れた。日々、政府や専門家会議の会見を通じて「密閉・密集・密接の3密」を避けるべしと、すっかり刷り込まれたが、「密」の普及に最も貢献したのは、コメントを求めて殺到する記者を「密です!密です!」と制した小池百合子東京都知事かも。多くの人が経験した「リモート会議」「リモート帰省」「リモート飲み」。「リモート」は「オンライン」に置き換えることもできるが、「リモ映え=リモートで映える」のように略語的活用法がある「リモート」に軍配が上がった。

また、トップ10とは別の「コロナ枠」として、「ソーシャルディスタンス」「ステイホーム」「クラスター」「アマビエ」「ロックダウン」「手指(しゅし)」の6語が選ばれた。

トップ10をコロナ語で埋め尽くさなかったのは、「辞書に残したくない。コロナの流行が終わり、なくなってほしい言葉だから」だという。

確かに、来年も「クラスター」におびえながら「手指」消毒を励行し、「ソーシャルディスタンス」を保つために「ステイホーム」を求められるとしたら、「ぴえん」です。「ロックダウン」だけは勘弁してと、「アマビエ」様にお願いしよう。

2020年発表会の様子(© 三省堂)
2020年発表会の様子(© 三省堂)

三省堂  辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2020」

1 ぴえん (若者言葉で)軽度の悲しみや落胆、また喜びや感激の気持ちを表す語。
2 〇〇警察 特定のことを細かく点検して、何かというと批判する人。
3 人と人との間隔が、危険に思えるほど狭く閉じられていること。
4 リモート (遠く)隔たった別の場所で、通信回線を通して、仕事や学習、また、その他の様ざまな活動を行うこと。
5 マンスプレイニング man(男性)+explain(説明する)からの造語。男性が女性や年少者に対して、見下した態度で説明すること。
6 優勝 大満足(な体験を)すること。最高なこと。
7 ごりごり 考え方などがあることだけに凝り固まっている様子だ。(俗に「筋金入りの」「タフでエネルギッシュな」などの意で、肯定的に用いられることもある)
8 まである (自分の基準からみて)予想以上のものが存在する。
9 グランピング 大きなテントなど、高級感のある施設で過ごす、ぜいたくなキャンプ。
10 チバニアン 更新世中期の地質時代の名称。約77万4千年前から12万9千年前までの期間。この時代に最後の地磁気逆転現象が起きた。(「千葉時代」の意。千葉県市原市の養老川沿いの地層が時代の境界と特徴を最も良く観察できることから千葉に由来する名称として提案され、2020年に国際地質化学連合(IUGS)において承認された)

表中の語釈は三省堂による。

小学館は「三密」

一方、小学館の「大辞泉が選ぶ新語大賞2020」で大賞となったのは「三密」だった。

「2020ユーキャン新語・流行語大賞」の年間大賞「3密」に対して、小学館が漢数字の「三」としているのは、『大辞泉』に仏教語としての「三密」が既に掲載されており、新語義としての大賞となったため。

小学館「大辞泉が選ぶ新語大賞2020」

大賞 三密

① 密教で、身・口・意の三業。手に印を結ぶ身密、口に真言を唱える口密、心に本尊を観念する意密。*

② 感染症の蔓延を防ぐために、人々が避けるべき3つの行動。換気の悪い密閉空間に居ること・多くの人が密集する場所に居ること・近距離での密接した会話をすること。2020年、COVID-19流行の際に東京都が提唱した。
次点 コロナ禍 新型コロナウイルス感染症の流行によって引き起こされる、さまざまな災い。感染症自体だけでなく、それを抑止するための経済活動の自粛や停滞、人々の疑心暗鬼なども、広く含む。

小学館の選考結果発表の語釈・選評はこちら。表中の語釈は小学館による。
*【三密】の①は1995年刊の『大辞泉』初版から掲載されている既存語釈。

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