King & Prince 永瀬廉は「そのままで坂道!」:映画『弱虫ペダル』の三木康一郎監督が語る
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物語の主人公は、千葉県立総北高校の新入生、小野田坂道(永瀬廉)。運動が苦手で友達がいないアニメ好きで、地元・千葉からママチャリで秋葉原に通う。そんなさえないオタク少年が、ある出来事をきっかけに自転車競技部への入部を決意。やがて「チーム総北」の一員として思わぬ才能を発揮し、自分の限界や壁を越え、初めてできた仲間のためにレースで走る喜びを見出していく……。
永瀬廉で「小野田坂道」を、よりリアルに、より熱く
――永瀬廉さんを主演に、大人気コミック『弱虫ペダル』を実写化された手応えは?
「見た目については、前髪を切って眼鏡をかければかなり似るだろうとは思っていました。でもそれより、役に対して真面目にしっかり取り組もうという意識が永瀬くんにあって、そういう中身が主人公の坂道に似ているなと感じました。人の話はジーッと聞くし、言われたことに『ハイッ!』と答えるし。原作の小野田坂道が『そのままいる』みたいな感じには仕上がっていると思います」
――あえて「原作やアニメの小野田坂道は意識しすぎなくていい」と永瀬さんに伝えたそうですね。
「今回、彼には『坂道になろう』とせずに、あくまで『永瀬廉が坂道をやる』と考えてほしいと伝えました。『自分から坂道に寄せすぎる必要はない。自分が坂道だったらどうするかを考えて』と。永瀬くんと実際に会ってみて、『坂道と根底が同じだな』と感じました。だから彼がちゃんと自分自身に置き換えられさえすれば、原作の小野田坂道を、よりリアルに、熱く、具体的に表現できるんじゃないかと思ったんです」
――「King & Princeの永瀬廉」という人気絶頂のアイドルとして見てはいなかったということですね?
「とにかく最初に会った時の印象がすべてで、先入観はなかったですね。逆に、この映画を撮り終えた後、彼が『King & Princeの永瀬廉』としてMステ(注:テレビの歌番組『ミュージックステーション』)に出演しているのを見て、『坂道、何カッコつけてるんだよ!』と感じてしまったくらいなんです(笑)」
――「チーム総北」のメンバーは、実際に自転車の練習を通して役柄の関係を築いていたそうですね。これも監督の狙いですか?
「チーム総北のメンバーにも、自分が感じたままやってもらえればいいと最初に言っただけで、基本的にはノータッチでした。主演として引っ張ろうと頑張る永瀬くんを中心に、メンバーたちが協力しながら、いいチームを築き上げてくれたなと。そのへんは彼らの自主性に任せたんです。なぜかと言えば、最終的には極限状態で自転車をこぎながら芝居をしなければならないわけで、頭で考えて役を作ってこられたら、そこで破綻してしまうのではないかと思ったから」
本人が追い込まれていなければ出せない雰囲気
――体力的にも精神的にもつらい現場だったからこそ、チームの絆がより強固になった部分もあったんですね。監督としては「追い込んでこそ撮れるものがある」という考えだったのでしょうか。
「撮影前に本物のレースを見学したんですが、ゴール付近ではみんなハァハァ言いながらペダルをこいでますよね。この感じを映画の中でどうやって出そうかと考えたときに、やはり実際に体力的にも精神的にもある程度追い込まれていなければ、絶対にその雰囲気は出せないなとは思っていたんです。でも自分としては、追い込もうというつもりはなかった。追い込んだからといって必ずしもいいシーンが撮れるとは限らないし、1テイク目が一番いい場合もあるので。ただ結果としてOKを出すまでに回を重ねるうち、客観的に見て、『追い込まれているな』と感じる場面は、確かにありました(笑)」
――本作を監督するにあたり「まず自分自身が登場人物たち以上の熱量を持って挑む!」とコメントされていましたが、その意図は?
「もともと僕はあまり熱いタイプではないんです。でもこの物語では、若い男どもが汗水流して、時にはつらい目にあったりもして、最後に何かをつかんでいく。それには、理屈ではなく、熱さや行動力が大事なんじゃないかと思ったんです。言葉では伝わらない、体の奥にあるものをグッと掴んでしっかり引っ張り出そうと。前半のお芝居の部分では、ストーリーが伝わることが重要ですが、後半の自転車レースの部分では、心の底からつらいと思わないとダメなので。だから撮影中は、彼らにその時の自分の感情を何度も聞いたと思います。『あなたはいまどんなことを感じながらこの坂を登ってきましたか?』『つらかったです』『ならば、その感情をもっと出しませんか?』といったように。そういうやりとりを重ねたような記憶がありますね」
伊藤健太郎を誘ったのは「東京ラブストーリー」の撮影中
――坂道の同級生でチーム総北のメンバー、今泉役には「東京ラブストーリー」で主演を務めた伊藤健太郎さんが起用されていますね。その経緯は?
「『弱虫ペダル』の製作スタッフから『今泉役は伊藤健太郎がいい』という話が出ていたんです。それで『東京ラブストーリー』の撮影現場に行って本人を探し、『弱虫ペダルを一緒にやらないか?』って聞いたら、『え? やるやる!』って言ってくれたんです(笑)」
――『弱虫ペダル』の現場では、伊藤さんの違う一面が見られましたか?
「ちゃんと考えてきてくれて(笑)。これまで原作を読みこんでくるタイプではないと思っていたのですが、事前にどういうテンションでしゃべろうとか、どういう動きをしようとか、ある程度決めてから現場に入ってきているような印象を受けましたね」
――今回は原作漫画やアニメがある作品ですが、印象的なカット割りは映画にも生かそうと思われたのでしょうか?
「原作には魅力的なカットもたくさんあったので、そのカット割りを生かしたいという思いもあったのですが、物理的に人間がやろうとしても無理なことも多く(笑)。なので、最終的には違う方法論で撮ったという感じですね。だからこそ、演じている彼らにも『原作を真似しようとは思わないで、自分なりに解釈してやってほしい』と話したわけです。つまり、2次元を3次元に置き変えるということではなく、あくまで役者の身体で表現することを重視したつもりです」
――ステイホーム期間中にTwitterでファンの質問に答えていましたが、監督としては「いま観客が求めているものに応えたい」という気持ちが強いのでしょうか?
「僕の場合、世の中の人たちがいま何を求めてるかを軸に映画やドラマを作り出すことが多いので。作りたいテーマがある時も、見る人はどう思うのかを常に考えるようにしています。役者やスタッフの言うことも、ちゃんと聞くタイプだと思いますね(笑)」
コロナ禍で夢を失いかけた若者にエールを
――高校生の気持ちをつかむために、独自にリサーチをされることもありますか?
「特に話を聞いたりすることはありません。高校生って、自分も一度は経験してきたことなので。多少感覚が古いかもしれないですけど(笑)。当時を振り返りつつ、最近のニュースや若者の行動をチェックして、いまの時代にうまくはまっていく手法を考えるようにはしています」
――コロナ禍のいま、この映画を公開する思いを聞かせてください。
「緊急事態宣言で撮影が中断されるという危機もありました。ステイホーム中はずっと編集作業をしていましたね。物語の登場人物たちは高校生で、インターハイに出場し、その後も活躍できる場がある。でも現実世界には、そういう場を奪われた若い人たちがいますよね。だから彼らに向けて、この映画を作ったという意識があります。いま小中高生には、一生懸命頑張って練習してきたものを、見せる舞台もなければ、評価される場所も、目標すらないんです。こういう状況で、この映画を見せることについては、僕自身もいろいろと悩みました。でも彼らには、いったんストップはしたけれど、決して『ここで終わり』ではないと考えてほしい。『坂道くんのように仲間と一緒に頑張っていけば、次が必ずあるよ!』というメッセージになればいいなと思っています」
撮影=花井 智子
聞き手・文=渡邊 玲子
作品情報
- 監督:三木 康一郎
- 脚本:板谷 里乃/三木 康一郎
- 原作:渡辺 航 『弱虫ペダル』(秋田書店「週刊少年チャンピオン」連載)
- 主題歌:King & Prince「Key of Heart」 (Johnnys’ Universe)
- 主演:永瀬 廉(King & Prince)
- 出演:伊藤 健太郎、橋本 環奈、坂東 龍汰、栁 俊太郎、菅原 健、井上 瑞稀(HiHi Jets/ジャニーズJr.)・竜星 涼/皆川猿時
- 製作:映画「弱虫ペダル」製作委員会
- 配給:松竹株式会社
- 製作国:日本
- 製作年:2020年
- 上映時間:112分
- 公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/yowapeda-eiga/
- 8月14日(金)全国公開