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反省しないお父さんに捧ぐ:映画『酔うと化け物になる父がつらい』渋川清彦&片桐健滋監督インタビュー

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アルコール依存症の父を持つ娘のエッセイ漫画を映画化した『酔うと化け物になる父がつらい』が、3月6日(金)より劇場公開中。父親役の渋川清彦と、長編2作目の片桐健滋監督に、酒でモンスター化する父親の姿をどのように作り上げていったか語ってもらった。

渋川 清彦 SHIBUKAWA Kiyohiko

俳優。1974年生まれ、群馬県渋川市出身。モデルの活動を経て、『ポルノスター』(98)で映画デビュー。2013年『そして泥船はゆく』で映画単独初主演。16年には、『お盆の弟』で第37回ヨコハマ映画祭にて主演男優賞を受賞した。数多くの映画やテレビドラマ、CMに出演。近年の出演映画には『下衆の愛』(16)、『榎田貿易堂』(18)、『柴公園』(19)、『閉鎖病棟 -それぞれの朝-』(19)などがある。片桐健滋監督とはパンクロッカーの幽霊役で出演した『ルームロンダリング』(18)に続き、2度目のタッグとなった。

片桐 健滋 KATAGIRI Kenji

映画監督。1979年生まれ、大阪府出身。いけばな流派、花道みささぎ流家元の家系に育つ。高校在学中より8ミリ映画の制作を始め、97年に神奈川映像コンクール入賞。2000年に渡仏。帰国後、崔洋一、豊田利晃、廣木隆一監督らの助監督を務める。「TSUTAYA CREATORS' PROGRAM FILM 2015」にて準グランプリを受賞した『ルームロンダリング』(18)で長編映画の監督デビュー。その後放送された同名の連続ドラマの演出も手掛けた。テレビ東京系ドラマ『きのう何食べた?』(19)では7~9話を監督した。

フランス仕込みのエスプリ

監督の片桐は、華道家の家に生まれ育った。高校時代に映像コンクールに応募して入賞したとき、審査員を務めていたのが巨匠・大島渚。作風を見てフランスに行くことを勧めてくれたという。2000年に渡仏し、フランソワ・トリュフォー監督作品の編集で知られるヤン・デデ氏に3年間師事。帰国後はミュージックビデオやイベント映像などの編集を経て、さまざまな監督の下で研鑽を積んできた。

渋川 フランスの現場ってさ、ケータリングとか洒落てたりするんでしょう?

片桐 飯をゆっくり食うなあ、とは思いましたね。

渋川 必ず昼休みもとったりするだろ?

片桐 そうそう1時間ね。日本では考えられませんよね。

——監督の中では、下積みが長いという意識がありますか?

片桐 ありますね。でも、叩き上げだからって泥臭いものにはしたくないって、意識してやっている部分があるのかもしれないですね。

渋川 いや、意識しなきゃ出てこないよ、これは。作品見ればわかるもん。

現場で培った確かな技術を生かしながら、コミックをベースとする本作では、絶妙な遊び心を発揮している。フランス仕込みのエスプリが成せる業と言えるかもしれない。そんな独自のテイストが、本来は深刻にもなり得るエピソードに、あたたかさや軽やかさをもたらしている。

父親とはどうあるべきか

——娘から見る父親像というのは、男性からはなかなか理解しづらい部分もあると思いますが、いかがですか?

片桐 僕の場合は親父が早く亡くなっているので、そもそも「父親像」っていうものがよく分からないんですよ。だから脚本にはむしろ自分自身を投影しますよね。そうやってお父さんのことを掘り下げつつ、自分もよくこういうことをやってるよなという反省も込めて…。

渋川 俺も具体的な父親像みたいなものを思い描いたりしたことはないんですけど、自分の親父っぽいところを、自然と嫁さんにも押し付けちゃうことがあったりしますよね。

——具体的には?

渋川 うちの親父は昔ながらの亭主関白で、家の中のことは一切しないし、台所のどこに何があるかもわかってないような人で、お袋に対する言葉遣いも強かったんですよ。そんな親父を見て育ったからか、俺も嫁さんに対して言葉が強くなっちゃって…。だからすごいケンカになって。いつも向こうが折れてくれるから何とか続いている(笑)。嫁さんに全部やってもらって、完全に甘えちゃってますね。

——昔のお父さんたちと同じで、威張っているけど実は奥さんに頭が上がらない(笑)。

渋川 親父は威厳があったというか、すごく怖かった。昔、テレビのチャンネル権は絶対、親父が持っているものだったじゃないですか。でも今、家ではずっと子どもの好きな番組を流し続けているから、「このままでいいのか?」って(笑)。幼稚園までは好きにさせておいてやるけど、小学校に上がったらそうはいかないぞ、みたいなのはありますね(笑)。

——これを聞くと、まさに絶妙のキャスティングだったのが分かります(笑)。最後に、監督から本作の見どころを一言お願いします。

片桐 映画は原作から逸脱するところがあるかもしれないですけど、単なるアルコール依存の話で終わらせるつもりはなかった。確かにお酒が父と娘のディスコミュ二ケーションの原因ではありますが、描きたかったのは、それが時間とともにどんな風に取り返しのつかないものになっていくかでした。身近な家族ほど、些細な言葉はいらないと考えてしまいがちですが、本当は気になるときに一言かけておきさえすれば、大事に至らずに済むんじゃないかとも思うんです。そんな提案の一つとして、この映画を観ていただけたら嬉しいです。

家族同士のすれ違いが決定的になる過程を描き出す本作だが、同時に人々がさまざまな形で、どうにかして寂しさを埋めようとする姿も伝わってくる。その中で何より印象的に輝くのは、映画の冒頭と最後に登場する、サキの脳裏によみがえる幼い頃に見た父の顔だ。渋川清彦が見せる何とも味わい深いその表情には、片桐監督の言葉を裏付ける説得力が十分すぎるほどにある。

インタビュー撮影:花井 智子
聞き手・文:渡邊 玲子

©菊池真理子/秋田書店 ©2019映画「酔うと化け物になる父がつらい」製作委員会
©菊池真理子/秋田書店 ©2019映画「酔うと化け物になる父がつらい」製作委員会

作品情報

  • 出演:松本 穂香、渋川 清彦、今泉 佑唯、恒松 祐里、濱 正悟、安藤 玉恵、宇野 祥平、森下 能幸、星田 英利、オダギリジョー、浜野 謙太、ともさかりえ
  • 監督:片桐 健滋
  • 脚本:久馬 歩、片桐 健滋
  • 原作:菊池 真理子 『酔うと化け物になる父がつらい』(秋田書店刊)
  • 音楽:Soma Genda
  • 配給:ファントム・フィルム
  • 製作年:2019年
  • 製作国:日本
  • 上映時間:95分
  • 公式サイト:https://youbake.official-movie.com/
  • 3月6日(金) 全国ロードショー

予告編

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