
反省しないお父さんに捧ぐ:映画『酔うと化け物になる父がつらい』渋川清彦&片桐健滋監督インタビュー
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酒に溺れる父を冷めた目で見つめる娘
『酔うと化け物になる父がつらい』は、アルコールに溺れる父と暮らす娘の心情を、コミカルに綴った菊池真理子のエッセイ漫画。これをベースに、片桐健滋監督がオリジナルエピソードを加えて映画化したのが本作だ。
酔うと“化け物”になる田所家の父・トシフミ(渋川清彦)と、(左から)長女サキ(松本穂香)、母サエコ(ともさかりえ)、次女フミ(今泉佑唯) ©菊池真理子/秋田書店 ©2019映画「酔うと化け物になる父がつらい」製作委員会
田所家は夫婦と娘二人の一見ごく普通の家庭。しかし普段は無口で小心者な父が、酔うと“化け物”になって帰ってくる。母はいつしか新興宗教にのめり込んでいた。娘たちにとって、幼い頃の「一家団欒(だんらん)」の記憶といえば、酔った父を母娘3人で介抱したことばかり。父とプールに行く約束をした週末も、飲み仲間が押し掛けてきて、家は雀荘と化す。母はせっせと酒の用意をしながらも、祭壇に向かって勤行に励むことで現実逃避していたが、長女が高校生の時、ついに限界を迎え、姿を消してしまう。
いきつけのスナック「幸子」でママ(安藤玉恵)と飲み仲間(宇野祥平)に酒をすすめられる父 ©菊池真理子/秋田書店 ©2019映画「酔うと化け物になる父がつらい」製作委員会
シングルファーザーとなった父は、娘二人のために酒をやめ、家に帰って晩御飯を作るようになるが、平穏な日々は長く続かず、やがてまた“化け物”になって帰ってくる生活へと逆戻り。長女のサキが幼い頃から父が酔った日に印をつけていたカレンダーは、以前にも増して赤いバツ印でいっぱいになっていた。
理不尽さに耐えようと自らの感情にフタをするようにして大人になったサキにとって、唯一の心の拠り所になっていたのが、漫画を描くことだった。酔った父の醜態をコミカルに描いた漫画が、友人たちから面白いと言われたことで救われたのだ。自分とは正反対で明るく活発な妹や親友に支えられ、家族の惨状を笑い話に昇華しながら、何とか日々を生きていくサキ。しかし父への関心も薄れていたある日、深刻な事態が訪れる…。
寂しさを恋愛で埋めようと聡(濱正悟)と付き合い始めるサキ。だが聡はとんでもないDV男だった… ©菊池真理子/秋田書店 ©2019映画「酔うと化け物になる父がつらい」製作委員会
サラリーマンの父はなぜ酒を飲むのか
主人公のサキ役には、数々のドラマや映画、CMに出演している若手注目株の女優・松本穂香。酒癖の悪い父や暴力をふるう恋人に振り回されながらも、漫画を描くことで過酷な状況を乗り越えようとする、内向的だが芯の強い娘を好演している。まずは父娘のキャスティングについて、片桐監督に訊ねてみた。
片桐 健滋 最初に主役の女の子とお父さんをセットで考えました。松本さんとは昔、僕が助監督として入っていた廣木(隆一)組のオーディションで出会って、いつか一緒に仕事がしたいと思っていて。彼女とだったら父親は渋川さんかなと。アルコール依存症の話ではあるけど、決して暗いだけの物語にはしたくなかったので、渋川さんならきっと可愛い感じでやってもらえるんじゃないかなという期待もありました。
毎日記憶をなくすほどアルコールに溺れ、いくらお酒をやめてと訴えてもまるで聞かない父に対して、無関心になろうと決めるサキ ©菊池真理子/秋田書店 ©2019映画「酔うと化け物になる父がつらい」製作委員会
——渋川さんは今回、どのように役作りをされたんですか?
渋川 清彦 もともとそこまで役作りとかはしない方なんです。台本を読んで、原作と照らし合わせて、見た目とか構図を、何となくイメージするくらいですかね。
——以前は「役者たるもの、台本は現場に持ち込まない」のをポリシーとしていたそうですが?
渋川 そうですね。いや最近は持っていくかな、たまに。セリフは頭に入っているんだけど、スタッフの名前を確認するとか(笑)。携帯も見ないし、人ともそんなに喋らないんで、待ち時間に何もすることがないから、台本を見ている風な感じにしたりして(笑)。
——お父さんはただの酒にだらしないサラリーマンのように見えて、実は心にいろいろと抱えていそうなのがさりげなく描かれています。娘が漫画家になろうとしているのが分かったときも、「自分も昔、小説家を目指していた」と打ち明けて応援しますし…。
渋川 え、そんな設定だったっけ!? そんなセリフあった?(一同爆笑)
片桐 ありました! いろんな作品をやっているから覚えてないんでしょう。
渋川 そういえばあったような気もする(笑)。でも正直、そこまで細かく考えないですよ。そう見えるんだったらいいじゃないですか。見えなかったら俺の負けだし。
——監督は酒に溺れるサラリーマンの父の葛藤をどう描こうと思いましたか?
片桐 育ったのが、いわゆるサラリーマンの家庭ではなかったので、脚本を書きながら正直よく分かってはいなかったんですよね。ただ、自分も結婚して、子どもができて、酒を飲んだら家族に迷惑をかけるけど、やめられない、みたいなところは、共感できる部分があった。撮影の現場でも、助監督なんて中間管理職ですからね。会社員にも置き換えられると思いますよ。
渋川 やっぱりお酒を飲んだ方が話しやすいというか、酒を潤滑油にしているところは俺にもあったりしますから。苦手な場所とか行ったら、飲んじゃった方が楽ですもんね。きっとこのお父さんも、元はそれほど酒好きってわけじゃなくて、何か理由があるような気がするんです。