若尾文子映画祭:昭和の名女優が演じた美しき40人の女たち
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若尾文子は1933年生まれ。51年に大映の新人募集オーディション(第5期ニューフェイス)に合格し、翌年に銀幕デビューを果たしてから、250本以上の映画に出演してきた。昭和を生きた日本人なら誰もが知る大女優だが、今の時代においても鮮烈な印象を与えるに違いない。
初出演から立て続けに9本の映画に出た翌年、飛躍のきっかけとなった作品が『十代の性典』。先輩の女子生徒に同性愛的な憧れを抱く高校生を演じてアイドル的な人気を集めた。その一方、『祇園囃子』で名匠・溝口健二に新米の舞妓役で起用されると、演技力でも評価を確かなものにした。
その3年後には、溝口の数少ない現代劇で遺作となった『赤線地帯』で、売春防止法制定前後の吉原で生きる娼婦たちの一人を熱演。客を手玉に取って貢がせ、貯め込んだ金を仲間に利子を付けて貸す汚れ役に挑み、デビュー5年目ながら一切の妥協を許さない世界的な巨匠の洗礼を受けた。
その後も名監督との仕事に恵まれた若尾は、松竹の小津安二郎が大映で撮った唯一の作品『浮草』(59)に出演し、旅芸人一座に身を置くいたずらっぽい娘を演じた。川島雄三が晩年に大映でメガホンを取った3作では、いずれも主役。『女は二度生まれる』(61)では誰にでも身を許してしまう情愛深い芸者に、『雁の寺』(62)では寺の住職を狂わせる愛人に、『しとやかな獣』(62)では男たちを手玉に取って貢がせるシングルマザーに扮し、色香あふれる奔放な女性像を自在に打ち出した。
若尾文子を最も多く起用した監督は、鬼才・増村保造だ。57年の『青空娘』で初タッグを組んで以来、12年間で20本の作品を生み出した。
『青空娘』は逆境に負けず明るく生きる少女の爽やかなシンデレラストーリー。『最高殊勲夫人』(59)はラブコメディーで、商社の社長一家との間に進む縁談から逃れようとする三姉妹の末娘をキュートに演じた。そのほかサスペンス調の『「女の小箱」より 夫が見た』(64)では愛に飢えた魅惑的な若妻を、異色の戦争映画『赤い天使』(66)では戦地で兵士たちに身を捧げる従軍看護婦を演じ切った。
谷崎潤一郎の小説を原作とする『卍』(64)と『刺青』(66)は、増村が若尾をヒロインに谷崎文学のエロティシズムを映像化した傑作。『刺青』では、恋仲になった奉公人と駆け落ちした質屋の娘が、悪党の手中に落ちて売り飛ばされ、背中に彫り物を背負った魔性の女郎として生きる女の情念が描き出された。
2月28日(金)から開催される「若尾文子映画祭」は、名女優の出演作から選りすぐった41本を一挙に上映。東京の角川シネマ有楽町では、4月2日(木)まで5週間にわたって毎日5回ずつ上映する(『新婚日記』の前後編「嬉しい朝」と「恥しい夢」は同回上映)。
上述の『刺青』、『赤線地帯』、『女は二度生まれる』、『浮草』、『雁の寺』、『しとやかな獣』の6作は4K復元版で見ることができ、『刺青』については今回がその初披露となる。
これ以外にも、『越前竹人形』(63)の吉村公三郎、『ぼんち』(60)の市川崑といった名匠との仕事や、京マチ子、山本富士子、市川雷蔵、田宮二郎といった伝説的なスターに加え、作家・三島由紀夫(『からっ風野郎』)との貴重な共演も見逃せない。
時に可憐な、時に妖艶な姿で世の男性たちを惑わし、女性たちには凛々しく鮮やかな生き様を示してみせた若尾文子。今回は彼女が演じ分けた40もの女性像を一挙にスクリーンで見ることができるまたとない機会だ。
若尾文子映画祭
- 日程:2020年2月28日(金)より
- 劇場:角川シネマ有楽町ほか、大阪(シネヌーヴォ)、大分(シネマ 5)、福井(福井メトロ劇場)、石川(シネモンド) 全国順次上映
- 上映作品:
刺青(66)
赤線地帯(56)
女は二度生まれる(61)
浮草(59)
越前竹人形(63)
お嬢さん(61)
清作の妻(65)
妻は告白する(61)
華岡青洲の妻(67)
その夜は忘れない(62)...
明日は日曜日(52)
...など41作品
予告編
バナー写真:若尾文子主演、増村保造監督『刺青』(1966) ©KADOKAWA 1966