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ハリウッドからオファー殺到の日本人監督HIKARIとは? 長編デビュー作『37セカンズ』で脳性まひ女性の冒険を描く

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松本 卓也(ニッポンドットコム) 【Profile】

障害者を主役に起用し、一人の女性の自分探しの旅をユニークなタッチで描いた映画『37セカンズ』が世界各地で称賛を浴び、ついに日本に凱旋。これが長編デビュー作となるHIKARI 監督は、10代で単身渡米し、実力社会をたくましく生き抜いてきた女性だ。彼女を成功に導いたこれまでの歩みと、その先に見据える未来について話を聞いた。

HIKARI HIKARI

大阪市出身。高校在学中に交換留学で米国に滞在。帰国後、再渡米して南ユタ州立大学に入学し、舞台芸術を学んだ後、ロサンゼルスでアルバイトをしながら演技やダンスに打ち込む。30歳で映画の名門、南カリフォルニア大学に入学、撮影と監督を学ぶ。2011年に卒業制作で撮った短編『Tsuyako』が、世界各地の映画祭で上映され、数々の賞を受賞した。19年に初の長編『37セカンズ』が、ベルリン国際映画祭パノラマ部門の観客賞と国際アートシネマ連盟賞をW受賞。日本では、同年の東京国際映画祭での上映を経て、翌20年2月に全国公開。現在、米国の大手エージェンシーに所属し、ハリウッド作品の撮影など複数のプロジェクトを進めている。

夢に挑戦する生き方

ここで、HIKARI監督本人の生い立ちをたどってみよう。小中学校で学級委員、生徒会長を務め、大阪の有名な合唱団に所属して、常に人前に立つ活発な少女だった。

「ちょっと目立つといじめられるんですよね。そんなときに先生から聞かされたのは、『出る杭は打たれる』という言葉。なんで? 私が悪いの? 子ども心にも釈然としませんでした。それもあって小学4年生頃から海外に出たいと思っていたんです」

合唱団では来日した海外アーティストと舞台で接する機会もあり、彼らのような人々の世界に入っていきたいと自然に思うようになった。18歳になる直前に高校の交換留学で渡米。米国で勉強する意志を固めて現地の大学に入り、舞台芸術を専攻した。卒業後はロサンゼルスに移住、アルバイトをしながら、女優やダンサーとして映画やミュージックビデオ、コマーシャルに出演した。スチールカメラマンとしてミュージシャンを撮影し、生計を立てていた時期もある。常にショービジネスと関わりを持ちながら、身軽に転身を重ねてきたようだ。

「USC に入ったのは、30歳になった頃、次は監督をやってみようかな、くらいな感じでしたね。映画作りは好きだし、作品を通して社会に意見を発信したいという使命感もありますが、自分で違うなと感じたら、いつ辞めてもいいなとは思うんです。15年後、全然違うことに興味が出てくる可能性だってありますしね」

以前から、発展途上国などで教育を受けられない子どもたちに学校を作りたいという夢があったという。

「映画で成功したら、いろいろな人たちと出会って、そういう活動を実現する可能性が近付くかもしれないですよね。『37セカンズ』はびっくりするくらいハリウッドのスタジオ関係者に観てもらえたんです。これまでに20件くらいオファーをいただいて、現在5つほどプロジェクトを進めさせてもらっています。某大手スタジオから莫大な製作費の巨大プロジェクトのオファーもあったんですが、脚本を読んで、最終的にはおことわりました。これは、いま私がする作品じゃないと感じたので」

ユマを支える介護福祉士役の大東駿介 ©37 Seconds filmpartners
ユマを支える介護福祉士役の大東駿介 ©37 Seconds filmpartners

長編を1本作って実力を示したとはいえ、それによって一人の映画監督を取り巻く環境はこうもガラリと変わってしまうものなのか。米国で資金集めに苦労したのは、わずか3年前のことなのだ。単なるシンデレラ・ストーリーではない。大きな目標を次々と実現していく彼女から発せられた「何もかもがステップ」という言葉には、とてつもない重みがある。

「これを1本作ったからこそ今がある。それを作らないと次にいけない。そう実感します。今後は、やったことがないことばかりでどうなるのかな、とは思うけど、恐怖はないですね。興味がある題材だと、すぐやりますと言ってしまう性格なので、プロジェクトが大きくなればなるほど、ちゃんと自分に時間を費やして準備しておくのが大事かな。毎回学ぶことばかりですけど、分からないことは教えてもらいながら、どんどん大きな作品に挑戦したいですね」

生まれ育った日本に窮屈さを感じ、自由に羽ばたいて世界に活躍の場を見出したHIKARI。長く海外に暮らしながら、その目に日本社会はどう映っているのだろうか。

「日本の人は世界で何が起こっているか、知らないことが多すぎるなという印象を受けます。何か重大なことが起こっても、エンタメやお笑いでかき消されてしまう。大事なところに関心が向かないように、全部が巧妙に構成されてしまっているなと。ガチガチに縛られているわけではないけれども、日本人の優しさとか声に出さないところを使って、うまく誘導されている気がします。この先どうなるんだろうなという心配は、海外にいる人が一番感じていると思うんですよ。だからこの映画をたくさんの人に観てほしい。誰にでもいろいろなことができる、挑戦できると思ってもらえたらうれしいですね」

インタビュー撮影:花井 智子
取材・文:松本 卓也(ニッポンドットコム)

©37 Seconds filmpartners
©37 Seconds filmpartners

作品情報

  • 監督・脚本:HIKARI
  • プロデューサー:山口 晋、HIKARI
  • 出演:佳山明、神野 三鈴、大東 駿介、渡辺 真起子、熊篠 慶彦、萩原 みのり、宇野 祥平、芋生 悠、渋川 清彦、奥野 瑛太、石橋 静河、尾美 としのり/板谷 由夏  
  • 撮影:スティーヴン・ブレイハット、江崎 朋生
  • 編集:トーマス・A・クルーガー
  • 挿入歌:「N.E.O.」CHAI <Sony Music Entertainment (Japan) Inc.>
  • 製作国:日本
  • 製作年:2019年
  • 上映時間:115分
  • 配給:エレファントハウス、ラビットハウス
  • 公式サイト:http://37seconds.jp/
  • 2020年2月7日、新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー

予告編

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松本 卓也(ニッポンドットコム)MATSUMOTO Takuya経歴・執筆一覧を見る

ニッポンドットコム海外発信部(多言語チーム)チーフエディター。映画とフランス語を担当。1995年から2010年までフランスで過ごす。翻訳会社勤務を経て、在仏日本人向けフリーペーパー「フランス雑波(ざっぱ)」の副編集長、次いで「ボンズ~ル」の編集長を務める。2011年7月よりニッポンドットコム職員に。2022年11月より現職。

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