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映画『コンプリシティ/優しい共犯』 近浦啓監督インタビュー:「外国人技能実習生の姿が自分に重なった」

Cinema

渡邊 玲子 【Profile】

ベルリン国際映画祭などで高い評価を受けた近浦啓監督の長編デビュー作『コンプリシティ/優しい共犯』が1月17日(金)より日本公開。技能実習生の搾取、その結果の逃亡というアクチュアルな題材を背景に、ナイーブな中国人青年と名優・藤竜也演じる蕎麦職人の、言語の壁を越えた心の交流を描く。

近浦 啓 CHIKAURA Kei

1977 年生まれ。2013 年、短編映画『Empty House』で監督としてのキャリアをスタート。短編2 作目の『なごり柿(英題:The Lasting Persimmon)』(15)が仏クレルモン=フェラン国際短編映画祭に入選。3 作目『SIGNATURE』(17)はロカルノ国際映画祭に正式出品されワールドプレミア上映、トロント国際映画祭で北米プレミアを飾る。両映画祭で高い評価を受け、米アカデミー賞公認映画祭でもあるエンカウンター短編&アニメーション映画祭に選出、グランプリを受賞した。18 年、『コンプリシティ/優しい共犯』で長編デビュー。同作はトロント、釜山、ベルリンの各国際映画祭に正式出品され、注目を集める。日本でも第19 回東京フィルメックスで上映され観客賞を受賞。20年1月より全国公開。

映画監督になると決意してから

少年時代から映画をこよなく愛していた近浦だが、「映画監督になる」という決意に変わったのは就職活動に入る時期だったという。大学では経済学を専攻していたのだが、独学で映画の手法を学んでいった。

「尊敬する映画監督が手掛けた作品を観ては、その作品を絵コンテに描き起こす作業を続けました。1シーンごとに番号を振って、そこで何が起きたか大学ノートに1行ずつ書き出しては、どんな風に場面が遷移して、どんな風に登場人物の感情を構築していくのかなど、映画をひたすら観察しました」

葉月と夜遊びに出かけ自由を謳歌するリャンだったが… ©2018 CREATPS / Mystigri Pictures
葉月と夜遊びに出かけ自由を謳歌するリャンだったが… ©2018 CREATPS / Mystigri Pictures

もちろん、こうして理論を頭に叩き込み、センスを磨くだけで映画監督が務まるわけではない。撮影現場を動かしていくには、経営者として会社を動かしてきた経験も十分に役立っているはずだ。

「チームのメンバーに同じ方向を向いてもらうためには、まずはリーダーがビジョンを持ち、それを実現するための粘り強い情熱を彼らに見せることが一番重要だと思います。そう考えると、映画監督の仕事というのは、会社でチームを率いて仕事をしていくことと、根本的には似ていると思いました」

物語にはリャンが技能実習生として来日する前の中国での暮らしも描かれる ©2018 CREATPS / Mystigri Pictures
物語にはリャンが技能実習生として来日する前の中国での暮らしも描かれる ©2018 CREATPS / Mystigri Pictures

今回の長編デビュー作でプロデューサーも兼務した近浦は、主要なスタッフを自分より年上のベテラン勢で固めた。撮影監督に是枝裕和監督作品の常連・山崎裕、美術監督に周防正行や滝田洋二郎の監督作品で知られる部谷京子など、キャリア豊富な腕利きたちを口説き落としていった。

「監督としてチームを率いることに関しては、自分が理想としていた形に近づけた感じがあった。仮に20代前半で今回の映画を撮るチャンスに恵まれたとしても、当時の僕ではうまく撮れなかったかもしれません。一方、プロデューサーとして出来上がった作品を観客に届けるということについては……、それこそ僕が考えていたほど甘くはなかったです。期待と現実のギャップは大きかったです。配給して観客に届ける大変さは身にしみました。それが今回の一番大きな収穫です」

中国での撮影もあった本作には、中国人映画監督のフー・ウェイもプロデューサーに名を連ねている。6年前、初めて海外の映画祭で『Empty House』が上映された台湾・高雄で出会った盟友の存在が、この長編の実現にも大きな役割を果たした。

「正直に言うと、僕とフー・ウェイの2人だけで始めた作品でしたので、『誰か相手にしてくれるのだろうか』と思っていたところもありました。でも実際は、制作から公開に至るまでの過程でたくさんの出会いがあり、多大なサポートをしていただきました。もっと心を開いて、いろいろな人と一緒に作っていくという気持ちになれたら、よりよいものができるんだと考えるようになりました。次の作品については、納得する脚本がそろそろ書き上がりそうな段階です。今回経験したことが、また違う形で活かせるんじゃないかと思っています」

インタビュー撮影=花井 智子
取材・文=渡邊 玲子

©2018 CREATPS / Mystigri Pictures
©2018 CREATPS / Mystigri Pictures

作品情報

  • 監督・脚本・編集:近浦 啓
  • 出演:ルー・ユーライ 藤 竜也  赤坂 沙世、松本 紀保ほか
  • 製作:クレイテプス Mystigri Pictures 
  • 制作プロダクション:クレイテプス
  • 配給:クロックワークス
  • 製作国:日本=中国
  • 製作年=2018年
  • 上映時間:116分
  • 公式サイト:http://complicity.movie
  • 2020年1月17日 (金)より新宿武蔵野館にてロードショー

予告編

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渡邊 玲子WATANABE Reiko経歴・執筆一覧を見る

映画配給会社、新聞社、WEB編集部勤務を経て、フリーランスの編集・ライターとして活動中。国内外で活躍するクリエイターや起業家のインタビュー記事を中心に、WEB、雑誌、パンフレットなどで執筆するほか、書家として、映画タイトルや商品ロゴの筆文字デザインを手掛けている。イベントMC、ラジオ出演なども。

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