
映画『コンプリシティ/優しい共犯』 近浦啓監督インタビュー:「外国人技能実習生の姿が自分に重なった」
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技能実習生の物語にたどりつく経緯
2013年から17年にかけて短編3作を発表し、そのたびに名だたる国際映画祭で高い評価を受けてきた近浦啓。海外から熱視線を浴びる若き日本人監督が、ついに『コンプリシティ/優しい共犯』で本格デビューを飾る。初の長編映画で何を撮るべきか——。じっくり時間をかけて考えた結果、まず重視したのは、自分に身近な事柄であること、そして現在の時代性を反映した内容であることだった。
『コンプリシティ/優しい共犯』。中国人の技能実習生チェン・リャンを演じるルー・ユーライ(左)と蕎麦職人・弘役の藤竜也 ©2018 CREATPS / Mystigri Pictures
「20年後に見返したときに、2010年代後半の映画だと分かるような作品になればいいなと思いました。今だから撮れること、今こそ撮るべきものにしたいと。この10数年間、僕が東京にいてもっとも肌で感じた変化は、外国から来た人々の数が増えたことです。一方、今もメインストリームの多くの日本映画では、『日本出身の日本人』しかいないかのような世界が描かれることが多いです。そこに違和感を抱いていました。そんな中、2014年に技能実習生として来日していたベトナム人の若者が、除草効果を研究するために大学が飼っていたヤギを盗み、解体して食べたというニュースを目にしました」
事件の背景に興味を持ち、技能実習生たちへの取材を進めていった近浦監督。制度のさまざまな問題点が明らかになる中、これをドキュメンタリーではなく、劇映画にしたいという思いが湧いてきたという。映画作家としては、そこに政治的、社会的な主張を込めるのではなく、こうした出来事を通じて、あくまで人間の何が描けるかに関心があった。
技能実習の現場から失踪後、悪質なブローカーから仕事を受ける実態が描かれる ©2018 CREATPS / Mystigri Pictures
『コンプリシティ/優しい共犯』は、技能実習生として来日したが、劣悪な職場環境に苦しみ、そこから逃げ出した中国人青年を描いた物語。他人になりすまし、地方の蕎麦屋に働き口を見つけた青年は、日本語での会話に苦労しながら、実の息子のように接してくれる主人と心の交流を深めていく。しかし人間らしい生活もつかの間、やがて正体が警察にばれ、不法滞在者として追われる身になってしまう——。
チェン・リャンを別人のリュウ・ウェイと信じ切って温かく受け入れる父娘。弘の娘・カオリ役に松本紀保 ©2018 CREATPS / Mystigri Pictures
出前の配達先で葉月(赤坂沙世)と知り合い、久々に若者らしい時間を過ごすリャン ©2018 CREATPS / Mystigri Pictures
「技能実習生の方に取材して、僕自身との共通点も多くありました。彼らは、夢や期待を抱いて日本にやってきたところもあったでしょう。しかし現実はそれほど甘くなかった。彼らとは状況がかなり異なりますが、そういう想いについては、僕にも同じような経験は何度もあります。またそれは僕に限った話ではなくて、いろいろな人が期待と現実のギャップに直面して、乗りこえていくという経験をしながら成長しているのかもしれない。もしそうであるなら、技能実習生をモチーフにしながらも普遍的な物語が描けるんじゃないか。それが、この映画を作った一番大きなきっかけでした」
苦境で出会った役者・藤竜也
近浦自身にとっても、キャリアのスタートには苦い思い出があった。2006年、ウェブを中心にクリエイティブ制作を手掛ける会社を立ち上げた頃のことだ。いまでこそ映像作家と経営者の二足のわらじで活動しているが、軌道に乗せるまでには年月を要した。「起業すれば何とかなる」という甘い考えがあったという。当初、サイトを作るスタッフを集めたのはよいが、仕事がまったくなく、「今日は何するんですか?」とスタッフに聞かれる毎日だった。ならば、依頼がなくても何かやるべきことを作ってしまうしかないと考えた。
「僕が会いたい人に会いに行くのが一番いいんじゃないかと思って、まずは自分たちでインタビューサイトを立ち上げました。当時はまだウェブ上で長いインタビューを読めるサイトがほとんどなかったです。僕がカメラを持って会いにいき、インタビューもして写真を撮って、スタッフの皆でページを作ってロングインタビューを掲載する、というサイトでした。ピーター・バラカンさん、伊達公子さん、押井守監督など、著名な方々に取材を受けてもらい、僕と同じような興味を持つ読者に向けて無料で公開していました。広告なども出していませんでしたので、売り上げは一銭も得られなかったんですが、これほど楽しいことはなかったですね」
そのインタビューサイトで真っ先に会いに行ったのが『コンプリシティ/優しい共犯』に出演している藤竜也。主演映画の公開に合わせてインタビューを申し込み、もっとも憧れる俳優に直接会って話を聞くことが叶ったという。
「藤竜也さん主演の『愛のコリーダ』(大島渚監督、1976)は僕が生まれる前年の作品ですが、高校2年の時に観ました。初めて藤さんのお芝居に触れて、『いつかこの人と映画を作りたい』と思ったんです」
2013年の監督デビュー作『Empty House』は11分の短編。家を出ていく娘を見送った直後の10分間の父親の姿を描いた作品だ。脚本を書く間、父親役には藤竜也以外、頭に浮かばなかったという。それは今回、初めての長編を撮るにあたっても同じだった。
「藤竜也という役者なしでこの映画を作るということは僕には考えられなかった。だから技能実習生の物語にするには、藤さんをどう位置づけられるか、逆算する形でキャラクター造形を進めていった。それが中国人青年を受け入れる蕎麦職人となったんです」
藤竜也は自らすすんで1カ月かけて蕎麦打ちを学び、本職さながらの手付きに ©2018 CREATPS / Mystigri Pictures