漁師たちが力強く歌い上げる人生賛歌を聴け! 英映画『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』
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漁師たちのサクセスストーリーに映画ならではの味付け
イギリス本土の南西端にあるコーンウォール地方の漁村。地元の漁師10人がコーラスグループを結成し、週に1度、港で慈善コンサートを開催していた。その名は「フィッシャーマンズ・フレンズ」(漁師の友)。世界で愛されるミント・タブレットからちゃっかり拝借した名前だ。古くから伝わる漁師唄をレパートリーとする力強い歌声に、ある音楽マネージャーがほれ込み、2010年にメジャーレーベルと100万ポンド(現在のレートで約1億4300万円)で契約すると、デビューアルバムは見事ゴールド・ディスクに輝いた。
この実在する人物たちのサクセスストーリーを題材に、独自の味付けを施して映画化したのが『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』。2016年に『キッズ・イン・ラブ』で長編デビューを果たした34歳の新鋭、クリス・フォギンがメガホンを取り、マネージャーと漁師たちが絆を深めながら夢に向かって前進する姿を描いた。
フォギン監督は脚本に興味を持った理由についてこう明かす。
「この映画はフィッシャーマンズ・フレンズのサクセスストーリーであると同時に、音楽業界で働くダニーの『自分探し』の物語でもあります。本当に目指すべきものは何なのか、そのためにはどんな生き方をすべきか。そんな風に彼が自分を見つめ直していくところに惹かれました」
物語の主人公は、実在のマネージャー、イアン・ブラウン氏をモデルに創作した人物「ダニー」。音楽業界では名の知れた敏腕マネージャーという設定だ。ダニーはある日、仲間たちと旅行でコーンウォールの漁村を訪れる。浜辺では無骨な男たちが村の住民を前にコンサートを行っていた。初めて聴いた漁師唄に面食らっていると、同行の上司は「彼らと契約を交わせ」とけしかけ、ダニーを村に置き去りにしてしまう。
だが漁師を生業にする彼らにすれば、週に1度浜辺で歌い、仲間の経営するパブでビールを飲んで騒ぐのが楽しみなだけ。メジャーデビューの誘いは一笑に付されてしまう。しかしここからがやり手で鳴らすダニーの腕の見せ所だ。漁船に同乗して彼らの懐へと飛び込み、くせ者ぞろいだが根は純朴な漁師たちを口説き落とし、まんまと契約を結ぶことに成功する。地元の古い教会でレコーディングに入ると、仲間と歌い上げる漁師たちの固い絆と、純粋に音楽を楽しむ姿に心を打たれ、かつてない達成感を味わうダニー。ところが成果を報告した上司からは「冗談を真に受けた」と馬鹿にされ、はしごを外されてしまう。漁師たちが近づいたメジャーデビューの夢は、果たして幻に終わるのか……?
歌う海の男たちをリアルに再現
フォギン監督に撮影中のエピソードを中心に話を聞いてみよう。
——劇中のフィッシャーマンズ・フレンズは、本物の漁師ではないかと思わせるほどリアルですね。
「モデルとなった漁師さんたちがリハーサルの段階からずっと一緒に過ごしてくれました。自分たちの物語を僕らと分かち合ってくれたことで、役者もスタッフも大いに助けられました。彼らの協力がなかったら、こんなに何もかもうまくは行かなかったでしょう。実際の場所をロケ地として使わせてもらえたし、毎日現場に来ては、歌はもちろん、コーンウォールの方言をチェックして、アドバイスしてくれたんです。漁の仕方やロブスター用の罠かごの扱い方まで教わりました!」
——劇中では誰が歌っているのですか。
「厚みを出したい箇所には実際の漁師さんたちの声も一緒に使っていますが、スクリーンに映っている時の歌声は、すべて役者のものです。歌が重要な作品であるからこそ、出ている役者本人に歌ってもらいたかった。観客に歌をできるだけリアルに感じてほしかったんです。そもそも漁師唄は聴く人たちの気持ちがおのずと高揚するような楽曲で、生でこそ魅力が伝わりますから」
——漁に出るシーンはどうでしたか。
「役者とスタッフ合わせて20人が2艘の船に分かれて乗り込み、カメラ機材と音響マイクを載せ、撮影を行いました。船上での撮影は1日10時間ぐらい。船酔いで具合が悪くなったスタッフもいましたが、役者は誰も酔わなくて本当に助かりました(笑)。カメラマンが一番過酷だったはずですが、なんで大丈夫だったんだろう? 僕は酔わないようになるべく水平線を見るようにしていたんですが、彼はほとんどずっとレンズを覗いていたわけですからね!」
——実話に基づきながらも、エンターテインメント性の高い作品に仕上がりましたね。
「一番に心がけたのは、観た人が楽しめる映画にすることでした。僕自身、皆が笑顔になったり、心が温かくなったりするような映画が大好きなんです。実話がベースにありながら、いかにそういう作品にできるか、それが今回の挑戦の一つでもありました」
——物語にはコーンウォール人の強い郷土愛も重要な役割を果たしていますね。
「実際のメンバーや村の人たちは、本当に僕らのことを愛情深く支えてくれて、迎え入れてくれました。だからこそ、何より彼ら自身がハッピーになるような、自分たちのことが誇らしくなるような映画にしたかった。まずモデルである彼ら自身にそう思ってもらえたならば、たとえコーンウォール独特の土地柄や歴史、フィッシャーマンズ・フレンズのことを知らない人が観ても、きっと心を動かされる作品になるんじゃないかと思ったんです」
取材・文=渡邊 玲子
作品情報
- 監督:クリス・フォギン(『キッズ・イン・ラブ』)
- 製作・脚本:メグ・レナード&ニック・モアクロフト(『輝ける人生』)
- 出演:ダニエル・メイズ、ジェームズ・ピュアフォイ、デヴィッド・ヘイマン、デイヴ・ジョーンズ、サム・スウェインズベリー、タペンス・ミドルトン、ノエル・クラーク
- 製作国:イギリス
- 製作年:2019年
- 上映時間:112分
- 配給:アルバトロス・フィルム
- 公式サイト:https://fishermans-song.com/
- 2020年1月10日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開中