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ポン・ジュノ監督『パラサイト 半地下の家族』:世界を驚嘆させた韓国映画の金字塔

Cinema

映画発祥の国フランスをあっと驚かせ、ハリウッドに衝撃を与え、韓国の映画史を塗り替えた超話題作がついに日本上陸。名匠ポン・ジュノが、格差社会に痛烈な皮肉を込め、2つの家族をめぐるドラマを笑いとサスペンスに満ちた変幻自在なタッチで描く。

2019年のカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞したポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』。韓国映画の初受賞作となっただけに、本国では直後の5月30日に公開して以来のべ1000万人超を動員するメガヒットとなった。同映画祭の地元フランスでも6月5日に早々と全国公開され、半年以上にわたるロングランを記録している。

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2019年のカンヌ国際映画において、『パラサイト 半地下の家族』で韓国初の最高賞パルムドールを受賞したポン・ジュノ監督 ©2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

フランスの映画興行成績データベース「CBOボックス・オフィス」によると、国内の観客動員数は12月24日時点で168万人超。通年ランキングでは28位だが、トップ50の映画はこれ以外すべてフランスかアメリカの映画(30位の『名探偵ピカチュウ』のみ日米合作)だから、快挙と言って間違いない。

パルムドールといえば、必ずしも大衆の好みとは一致しない玄人受けする作品が受賞することも少なくない中、この大ヒットは出色。過去20年間では『華氏911』(マイケル・ムーア監督)、『ピアニスト』(ロマン・ポランスキー監督)に次ぐ3位の好成績だ。奇しくも同じ「家族」と「貧困」を扱った前年の受賞作、是枝裕和監督の『万引き家族』(約77万人)を軽々とダブルスコアで超えてみせた。

快進撃はアメリカでも続く。10月11日に公開されると、最初の週末の興行成績で外国語映画として過去最高を記録。近年では2016年に大ヒットした『ラ・ラ・ランド』以来の好発進となった。アカデミー国際長編映画賞の最有力候補との呼び声も高い。

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とぼけた味で笑わせる一家の主、キム・ギテクを演じるのは名優ソン・ガンホ。ポン・ジュノ監督作品には4作目の出演だ ©2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

『パラサイト 半地下の家族』で描かれるのは、日本語のサブタイトルが示す通り、半地下の住居に暮らす家族の物語。明かり取りの窓を通行人の足が横切り、狭苦しい室内を裸の蛍光灯が寒々と照らす。風呂トイレが一緒なのは欧米式というより、無理やり作り付けたような奇怪な配置。水圧の都合で、風呂場を見下ろす天井近くに置かれた便器の周辺は、近所のカフェから飛んでくるWi-Fiの電波をもっともよくキャッチできる場所でもある。

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半地下の窓から世界はどんな風に見えるのか... ©2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

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長男ギウ(チェ・ウシク)とその妹ギジョン(パク・ソダム)が便器の近くでスマホを見る理由は... ©2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

父親は失業の身で、一家4人は宅配ピザの箱を組み立てる内職を全員でこなし、かろうじて食いつないでいる。ある日、息子のギウに名門大学に通う友人が頼み事をもちかける。海外に留学する1年の間、家庭教師のピンチヒッターをしてほしいというのだ。友人は教え子の女子高生に気があり、大学の仲間に代役を頼めば、彼女を奪われてしまう恐れがある。その点、貧乏で浪人生のギウなら安心というわけだ。住所を渡されて向かった先は、高台の高級住宅街にあるモダンな大豪邸だった。迎えた母娘に深遠な言葉で受験の奥義を説き、一瞬で魅了してしまうギウ。この裕福な一家に「寄生」する悪賢いアイディアを次々と思いつき、それを実行に移していく…。

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ギウが家庭教師として訪れたのはスタイリッシュな大豪邸だった... ©2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

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新品のシャツを着込み、パク家の長女ダヘ(チョン・ジソ)に「アメリカ仕込み」の英語を教えるギウ。お手伝いさん(イ・ジョンウン)が高級フルーツを持ってきてくれる ©2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

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純真で人を信じやすいパク社長の美人妻ヨンギョ(チョ・ヨジョン)はある悩みを抱えていた... ©2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

「貧すれば鈍する」という言葉があるが、半地下に暮らすこのキム一家の場合は、とぼけた味を出しながら、生活が貧しくても鋭敏な思考を失わない、なかなかの切れ者揃い。何しろ宅配ピザの箱の折り方一つとっても、インターネットの動画を参考に最速の方法を編み出すほど研究熱心だ。こうした一発逆転の知恵とそれを冷静に遂行するタフな心を持つ人物こそ、映画のヒーローにふさわしい。にもかかわらず、ポン・ジュノはこれを貧乏だが能力のある人が成り上がっていくだけの話にはしないのだ。

貧富の差という永遠のテーマを扱うのに、貧乏人が金持ちになって何の意味がある? 監督はそう言わんばかりに、黒澤明が『天国と地獄』(1963)で描いた、高台の豪邸とそれを見上げるドヤ街、というシンプルな上下の構図を採用して、きっぱりと2つの世界を分かつ。しかしその前に、まずは互いの関係を必ずしも敵対的にせず、限りなく接近させてしまうところが斬新だ。そうしておいてから、少しずつ段差にくさびを打ち込んでいき、やがて決定的に両断する。その絶妙な見せ方が、2つの層の間に深く刻まれた亀裂をよりいっそう際立たせる。

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IT企業の若社長、パク・ドンイクを演じるのはイ・ソンギョン ©2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

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ギテクの妻チュンスク(チャン・へジン)は元ハンマー投げのメダリスト ©2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

物語は変幻自在な流れで予想のつかない方向へと進んでいく。観客は毒のあるユーモアに笑い転げ、スリリングな展開に引き込まれ、緊迫した場面に息を凝らし、暴力の描写に衝撃を受ける。大きな振幅で感情を揺り動かされた揚げ句、善悪の彼岸で繰り広げられたあまりに人間的な悲喜劇に言葉を失い、エンドロールが流れる間、心の震えだけを感じるだろう。それはごく一握りの映画だけがもたらす稀有な体験に違いない。

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作品情報

  • 出演: ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、チェ・ウシク、パク・ソダム、イ・ジョンウン、チャン・ヘジン
  • 監督: ポン・ジュノ(『殺人の追憶』『グエムル -漢江の怪物-』)
  • 撮影:ホン・ギョンピョ
  • 音楽:チョン・ジェイル
  • 配給:ビターズ・エンド
  • 製作国:韓国
  • 製作年:2019 年
  • 上映時間:132 分
  • 公式サイト:www.parasite-mv.jp
  • 2020 年1月10日(金)、TOHO シネマズ日比谷ほか全国ロードショー!

予告編

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