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令和の正月に寅さんが帰ってくる! シリーズ50作目『男はつらいよ お帰り 寅さん』で東京国際映画祭が開幕

Cinema

今年32回目を迎える東京国際映画祭が10月28日(月)に開幕。オープニングを飾るのは、山田洋次監督の『男はつらいよ お帰り 寅さん』(12月27日全国公開)だ。第1作の公開からちょうど50年、記念すべき50作目となる。22年ぶりのシリーズ最新作は、寅さん役の渥美清が不在でどのように成立するのだろうか。山田洋次監督が語った。

映画『男はつらいよ』シリーズは、1969年に第1作が公開。当初は5作でシリーズ完結となる予定だったが、大ヒットを記録したためにその後も継続する方向へと変わり、四半世紀のロングランを誇る国民的映画となった。しかもお盆と正月に合わせて公開する年2回のペース。山田洋次が全エピソードの原作と脚本を担当し、第3、4作を除く47作を監督した。シリーズ映画としては、作品数で世界最多を誇り、ギネスブックにも認定されている。

『男はつらいよ お帰り 寅さん』12 月 27 日(金)全国ロードショー 【出演】渥美清 / 倍賞千恵子 吉岡秀隆 後藤久美子 前田吟 池脇千鶴 夏木マリ 浅丘ルリ子 美保純 佐藤蛾次郎 桜田ひより 北山雅康 カンニング竹山 濱田マリ 出川哲朗 松野太紀 林家たま平 立川志らく 小林稔侍 笹野高史 橋爪功ほか ©2019 松竹株式会社
『男はつらいよ お帰り 寅さん』12月27日(金)全国ロードショー 【出演】渥美清 / 倍賞千恵子 吉岡秀隆 後藤久美子 前田吟 池脇千鶴 夏木マリ 浅丘ルリ子 美保純 佐藤蛾次郎 桜田ひより 北山雅康 カンニング竹山 濱田マリ 出川哲朗 松野太紀 林家たま平 立川志らく 小林稔侍 笹野高史 橋爪功ほか ©2019 松竹株式会社

物語は毎回ほぼパターン化されている。「フーテンの寅」こと車寅次郎が、稼業のテキ屋で全国を渡り歩き、旅先で出会うマドンナに惚れてしまう。マドンナの方も世話を焼いてくれる寅次郎に好意を抱き、寅次郎の実家である葛飾・柴又の団子屋「くるまや」を舞台に、人情喜劇が展開していくのだが、結局は恋愛に発展することなく、傷心した寅次郎が再び旅に出るところで終わる。日本各地の名所が背景に描かれ、マドンナ役をその時々の人気女優が演じるのも特徴だ。

22年ぶりにスクリーンで再会

山田監督は当初、全50作で完結する構想を立てていたが、第49作準備中の1996年、寅さん役の渥美清が68歳で他界したために、打ち切りを余儀なくされた。寅さんをスクリーンで観ることができない寂しさを訴えるファンの声が根強く、翌97年には過去の作品を再編集し、新撮影分を加えた『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇』が封切られた。

それ以後21年間、『男はつらいよ』シリーズのカウンターは「49」(ギネスブックの記録は「48」)で止まったままだったが、今回はシリーズ50周年を記念して、そのカウンターを再起動し、ついに50作目を世に送り出す。

最新作のストーリーは、寅さんの甥の満男(吉岡秀隆)が「しばらく旅に出たまま帰らない」寅さんとの思い出を回想するという形で展開する。満男と初恋の相手、泉(後藤久美子)のその後や、「くるまや」を囲むいつもの面々の「いま」が、4Kデジタル修復された過去の回の映像を織り交ぜながら描かれる。シリーズを長年見続けてきたファンはもちろん、寅さんを初めて目にする人々をも魅了する作品に仕上がっている。

サラリーマンを辞めて念願の小説家になった満男(吉岡秀隆)が、亡き妻の七回忌の法要で、久々に葛飾・柴又の実家「くるまや」を訪れる ©2019 松竹株式会社
サラリーマンを辞めて念願の小説家になった満男(吉岡秀隆)が、亡き妻の七回忌の法要で、久々に葛飾・柴又の実家「くるまや」を訪れる ©2019 松竹株式会社

山田洋次監督「寅さんは年を取らない」

10月3日、東京・千代田区の日本外国特派員協会で、東京国際映画祭の記者会見が行われ、オープニング作品に決まった『男はつらいよ お帰り 寅さん』の山田洋次監督が登壇した。外国人記者から投げかけられる多彩な質問に、監督が歴代シリーズの撮影秘話を交えながら、ウィットに富んだ答えを返し、会場は終始温かい雰囲気に包まれた。会見の中から、特に印象的なフレーズをいくつか紹介しよう。

誰もが考えるのは、渥美清亡き後の寅さんシリーズがどうなるのかということ。それは半世紀以上にわたって87本もの映画を撮ってきた大ベテランの山田洋次監督にとっても同じだったという。

「撮影中、一体どんな映画になるのだろうという不安と期待が、僕の中にずっとあった。完成した作品を繰り返し観ながら思ったのは、この映画を作るために50年の歳月が必要だったんだな、ということでした。長生きしたからこういう映画ができたというのが、いまの感想です」

長い休止期間を経て、人気シリーズを再開する不安に対して、監督が真っ先に考えたのは、観客の期待だったという。『また、あの寅さんを見たい』という願いを裏切ることなく、かつ新作として驚かせなくてはならない苦労を、こんな風にたとえた。

「あそこのレストランの料理が食べたい、と通ってくるお客さんを相手に料理を作るシェフの仕事に似ているかもしれません。『こういうのを食べに来たんだ。おいしかった!』と言われなければいけない。同じように『こんな映画を観たかったんだよ!』と思われなきゃいけないわけですからね」

最新作には、過去の回想シーン以外に、時折、寅さんの「幻影」が登場する。故・渥美清と一体となった寅さんへの思いを監督はこう語った。

「渥美さんが亡くなって20年以上もたつんですけど、もし彼がいま生きていてこの映画を観たら『俺、びっくりしたよ!』と言うでしょうね、きっと。寅さんの妹のさくらを演じる倍賞千恵子さんやほかの俳優さんたちも皆、年月とともに年を取っている。ただ、寅さんだけは不思議と年を取っていない。僕や寅さんを愛するファンにとって、寅さんは決して年を取らない人間なんじゃないか。そういう意味では、映画俳優でいえば、マリリン・モンローか、チャプリンと比較できるんじゃないかと思ったりします」

今の時代に寅さんがいたら...

東京国際映画祭でのお披露目ということで、この日の試写は外国人記者向けに英語字幕付きで上映された。東京の下町で繰り広げられる庶民たちのセリフがどんな風に伝わるかも興味深い点だが、寅さんに付けられた「フーテン」の愛称が、「free-spirited fool」と訳されていたことを、ある記者が指摘すると、監督はこう返した。

「まあ、翻訳の問題ですから、なかなか難しいんですけれども…、僕は『精神の自由な男』という風に考えたいですね。それから、表現も自由であると」

考えてみれば、この20年以上の間に、寅さんのような「フーテン」がますます生きにくい世の中になってきた。そんな中で、最新作には「生きていてよかったと思うことが、そのうちあるさ」という印象的なセリフが登場する。ここに山田監督が本作に込めた思いが浮かび上がったと言えそうだ。

「正直言って、そんなにうれしいことばかりの世の中には、僕は生きていないと思います。世界の情勢は喜ぶべき状況にはない。日本でも外国でもいいから、『ああ、よかった。俺はこの年まで生きていてよかった』と思えるような時代まで、僕は生きていられたらいいなと思います」

今年、88歳を迎え、これがキャリア88作目となる山田洋次監督。果たしてこれが寅さんとともに自身にとっても花道となるのだろうか。

「自分の年のことを考えると怖くてね。『映画どころじゃねえよ』と思ったりもするんです。でも、アメリカにはクリント・イーストウッドという人がいて、まだ頑張っているから、僕も一緒に頑張ろうかなと。ポルトガルのマノエル・ド・オリヴェイラ、日本の新藤兼人という監督は、ともに100歳前後まで映画を撮られたから、まだまだ希望を持ってもいいんじゃないかと思います」

意気軒高な発言で各国の記者から大きな拍手を受けた山田洋次監督。会見の最後に、アジア最大級の映画祭となった東京国際映画祭にこんなメッセージを贈った。

「東京国際映画祭にはどんな特徴があるのか、どこに魅力があるのか、他の国にはない、こんな特徴があるんだ、というテーマを持つことが、とても大事なことじゃないかと思う。そういう努力を続けていって、この映画祭が世界でもユニークな映画祭になるように、映画人の一人として心から願っています」

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第32回東京国際映画祭は、10月28日(月)から11月5日(火)までの9日間にわたり、東京・港区のTOHOシネマズ六本木ヒルズやEXシアター六本木を中心に開催。会期中は、コンペティション部門のほか、アジアの新鋭監督が賞を競う「アジアの未来」、勢いのある日本のインディペンデント映画を紹介する「日本映画スプラッシュ」、近年公開された日本映画の中から「世界に発信したい作品」をセレクトした「Japan Now」、日本公開が決まっていない話題作を集めた「ワールド・フォーカス」など、ユニークな部門に分かれ、数々の優れた作品が上映される。

コンペティション部門は、熟練の技を見せる名匠から新たに登場した若手監督まで、幅広い才能の作品が対象。今年は115の国と地域の応募作1804本より厳選された14本の中から、チャン・ツィイーを審査員長とする国際的な審査委員がグランプリを選出、最終日のクロージング・セレモニーで発表する。

東京国際映画祭 公式サイト

バナー写真:第32回東京国際映画祭の記者会見で、オープニング作品の『男はつらいよ お帰り 寅さん』について語る山田洋次監督=2019年10月3日、東京・千代田区の日本外国特派員協会(撮影:渡邊 玲子)

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