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映画『パリに見出されたピアニスト』:苦労人の監督と名優の孫、響き合う協奏曲

Cinema 文化

名優の血を引くフランス映画界期待の新星、ジュール・ベンシェトリが主演の『パリに見出されたピアニスト』が9月27日より日本で公開。音楽教育を受けずに独学でピアノに熱中する郊外の若者が、短期間で猛特訓して国際コンクールを目指す物語だ。来日した監督と主演俳優に話を聞いた。

未完の大器が開花する記念碑的作品

フランスでは、2013年から全国の鉄道のターミナル駅およそ100カ所の構内にピアノが置かれ、通行人が自由に弾けるようになっている。このフランス人にはなじみの光景が物語の設定に使われた映画が『パリに見出されたピアニスト』だ。

©Récifilms – TF1 Droits Audiovisuels – Everest Films – France 2 Cinema – Nexus Factory – Umedia 2018
パリ北駅でピアノを弾くマチューと、その演奏に聴き入るピエール ©Récifilms – TF1 Droits Audiovisuels – Everest Films – France 2 Cinema – Nexus Factory – Umedia 2018

移民が多く暮らすパリ郊外の低家賃団地に、母と幼い弟妹の4人で暮らすマチュー。裕福でない家庭で育ち、周囲の仲間たちが聴くのはラップと、およそクラシック音楽とは無縁の環境だったが、ふとしたきっかけでピアノに夢中になり、周囲に内緒で日々練習しては生きる喜びにしていた。

パリ北駅で演奏するマチューのピアノに、足を止めて聴き入る1人の男がいた。名門コンセルヴァトワール(パリ国立高等音楽院)でディレクターを務めるピエール。出会ったその晩、仲間にそそのかされて盗みに入り逮捕されてしまったマチューを、そのピエールが救い出す。マチューは音楽院で清掃係をする公益奉仕を条件に釈放されたのだった。ピエールは、マチューを正真正銘のピアニストに育て上げようとしていた。厳しい女性教師エリザベスの下でのレッスンを命じ、国際ピアノコンクールへの出場を目指す——。

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ピエールに指名されたエリザベス(右)とマチューの間に激しいバトルが展開する ©Récifilms – TF1 Droits Audiovisuels – Everest Films – France 2 Cinema – Nexus Factory – Umedia 2018

マチューを演じるジュール・ベンシェトリは21歳。名優ジャン=ルイ・トランティニャン(『男と女』など)を祖父に、その娘で若くして亡くなった女優のマリー・トランティニャンを母に持ち、父は映画監督で俳優のサミュエル・ベンシェトリという、フランス映画界きってのサラブレッドだ。これまで父の監督作など3本の映画に出演しているが、本作が大人の役者としての本格デビューであると言っていい。初主演でピアニスト役、しかもピアノの演奏経験がまったくなかったというから驚きのキャスティングだ。

監督のルドヴィク・バーナードはマチュー役を見つけるまでかなりの苦労をしたと振り返っている。若いピアニストに何十人も会ったが、どうもイメージ通りのキャラクターに出会えない。思い切って、ピアノの経験にはこだわらず、その人物がかもし出す雰囲気を優先したところ、ジュール・ベンシェトリにたどり着いた。一目見た瞬間、まだ大人になり切っていない青年特有の強烈な魅力を感じたという。問題は演奏シーンだが、撮影に入る3カ月前から、有名なピアニストに付いて毎日2~3時間のレッスンを受け、基本の技術や身のこなしに加え、音楽を深く味わう心を養っていった。

©Récifilms – TF1 Droits Audiovisuels – Everest Films – France 2 Cinema – Nexus Factory – Umedia 2018
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現場を知り尽くす監督が若い俳優に払う敬意

映画の日本公開に先駆け、7月に来日したバーナードとベンシェトリの2人に同時に話を聞く機会を得た。あまり言葉巧みではないが、訥々(とつとつ)と誠実に語る若い俳優に、監督の注ぐまなざしが限りなく優しいのが印象的だった。祖父と両親から役者の血を引いているとはいえ、まだ原石のような若い俳優を、どんな風に磨いて輝きを引き出したのか知りたくなるのだが、監督は穏やかさを保ちながら、その見方には鋭く反発した。

ルドヴィク・バーナード 監督が何かを求めて俳優から引き出す、というのは正しい考え方ではありません。一緒に求めて、与えてくれるのは常に役者の方なのです。ジュールは各シーンを見事に理解していました。どういう場面を作り出したいか、二人でよく話し合いましたから。大事なのは、そのシーンをどうやって成功させるか、一緒に考えていくことなんです。その人物になるのは役者であって、監督が無理にやらせようとしてもうまくいきません。

ジュール・ベンシェトリ 監督は一人一人違いますが、現場で僕が一番気になるのは、監督から何を求められているのか正しく知ることです。監督というのは、制作の過程すべてを理解していて、あらゆるセクションに目を配る立場ですからね。ルドヴィクもそうで、要求がとても高かった。

©Récifilms – TF1 Droits Audiovisuels – Everest Films – France 2 Cinema – Nexus Factory – Umedia 2018
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バーナード 私は自分の仕事を100%心得ています。技術面で難しさを感じることはありません。すべてのセクションの役割に目が行くのは、間違いなく助監督時代の経験が役立っているからでしょう。監督デビューのタイミングは人それぞれですが、年齢に関係なく、自分にとってベストな状況がそろったときにちゃんと動けるように、スタンバイできていることが大事なんだと思います。

本作はバーナードにとって長編3本目の監督作品。20代後半で英国のテレビシリーズの助監督としてキャリアをスタートさせ、1995年にマチュー・カソヴィッツが監督・脚本を務めた『憎しみ』でセカンド助監督を担当。その後もギョーム・カネやリュック・ベッソンらの下で助監督として経験を積み、50歳を過ぎてから満を持して監督デビューを果たした苦労人だ。

バーナード 私が映画を作る上で、一つとても大事にしていることがあります。それは、作品に奉仕すること。王様は監督でも俳優たちでもなく、作品です。幸いにして、フランスの撮影現場では、そういう哲学が浸透しています。すべての技術者が作品のために仕事をする。そして自分たちがしている仕事を愛している。映画界にはこういうジョークがあるんです。『神と監督の違い?——監督は自分を神だと思うが、神は自分を監督だと思わない』。現実では、そんな監督には誰もついてきません(笑)。

ベンシェトリ ルドヴィクは役者に対して、常に穏やかに、的確に、上手に話してくれるんです。今回の撮影は素晴らしい経験になりました。この作品と出会えたことで、役者という仕事の面白さに目覚めることができました。プライベートで映画を観るときも、つい現場の目線で考えてしまうようになったんです。

©Récifilms – TF1 Droits Audiovisuels – Everest Films – France 2 Cinema – Nexus Factory – Umedia 2018
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映画作りの面白さを教えてくれた師として、監督を心から信頼しているようすのジュール・ベンシェトリ。口下手でシャイな息子をサポートするかのように、率先して話題を提供するルドヴィク・バーナード監督。そんな二人を見ているうち、映画の中の、ピアノに激しい情熱を燃やすマチューと、その並外れた才能を信じて彼をプロへと導く音楽教授の姿と重なるような気がした。

取材・文・撮影=渡邊 玲子

©Récifilms – TF1 Droits Audiovisuels – Everest Films – France 2 Cinema – Nexus Factory – Umedia 2018
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作品情報

  • 監督・脚本;ルドヴィク・バーナード
  • 出演:ジュール・ベンシェトリ、ランベール・ウィルソン、クリスティン・スコット・トーマス
  • 配給:東京テアトル
  • 製作年:2018年
  • 製作国:フランス・ベルギー
  • 上映時間:106分
  • 公式サイト:paris-piano.jp
  • 9/27(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー

予告編

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