『タロウのバカ』主演のYOSHI、新時代アンチヒーローの予感
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映画『タロウのバカ』は、戸籍がなく、学校に一度も通ったことがない少年が主人公。日本で戸籍がなければ名前は通称に過ぎない。かつては「名無し」といえば「権兵衛」だったが、現代なら「タロウ」と呼ぶほうがしっくりくる...。そんな少年が高校生の仲間2人と根無し草のように明日なき日々を生きる物語だ。
戦後の復興から高度経済成長を経て、安定と成熟の時代に入って久しいはずの日本社会にも、無戸籍状態の人々がいる。子どもを出産した母親が何らかの理由で出生届を出さなかった場合、その子どもは無戸籍者になる。その数は、法務省が把握している数字で700人超(2017年11月発表)、それどころか水面下に1万人以上いるという専門家の推計もある。
だから、この物語の設定がリアリティーを欠くことはない。しかし、どこかにはいるが、どこにでもいるわけではない、そんなタロウ役にふさわしい少年が現代日本に見つかるだろうか。自身のオリジナル脚本を映像化するにあたって、大森立嗣監督の最初の不安はそこにあったはずだ。何人もの若い俳優に会っても納得しなかった監督が、あるとき目を付けたのが演技未経験のYOSHIだ。撮影当時は15歳だった。
「学校は…僕も嫌いなんですよね。同級生とは話が合わなくて、あんまりなじめなかった。僕は本能のままに動くタイプなんで、やっても意味が感じられないものは、嫌いだなって思っちゃう。それで気がついたら大人たちとつるむようになってた。服に興味があったんで、ファッションを通じて知り合ったんです」
年上の友人たちの影響で、インスタグラムを始め、ファッション系のパーティーに足を運ぶようになったYOSHI。現在の活動につながる決定的な出来事は2016年、13歳のときに訪れた。東京に進出したストリートファッションブランド「オフ・ホワイト」のオープニングパーティーに出かけ、同ブランドの人気アイテム「インダストリアルベルト」を首に巻いて登場したところ、デザインした本人であるヴァージル・アブローに気に入られたのだった。いまやルイ・ヴィトンのメンズ部門アート・ディレクターを務めるほど、ファッション界に強大な影響力を持つヴァージルとの2ショットは、インスタグラムを通じてたちまち世界を駆け巡り、数百万人の目に触れた。
「この子、誰?って感じでインタビューを受けたり、写真を撮られたりして、気が付いたらポコッとファッション業界に入ってたんです。当時はただファッションが好きな男の子、みたいな感じで取り上げられてた。単なる注目の的で、別にモデルでもない、何も定まっていない存在だったんですね。自分でも、誰でもないと思ってましたし。この先どうなるかなんてまったく分からなかった。でも、ここが僕の居場所だなって感じられたし、有名になりたいなって思ったんです」
その後は、有名ブランドの撮影やショーの仕事を数々こなすモデルとしてだけでなく、アートやファッションデザインにも活動を広げていく。2019年に入ると、初のアルバムをリリースして音楽活動を開始、ジャケットのアートワークも自身で手掛けた。
—去年から今年にかけて、映画や音楽といろいろ本格的に動き出しましたね。
「音楽は、友達のミュージックビデオの撮影現場に行って、DJブースの横で歌っていたら、歌うまいじゃんとプロデューサーから声をかけられて、話が進んじゃった。全部タイミングなんですよ。なんか僕の人生って奇跡が多くて」
—映画の撮影はどうでしたか?
「俳優として初めての体験だったので、1カット目に入るまではちょっと緊張しました。この1発目ができなかったら、この先1カ月、僕はどうなっちゃうんだろうみたいな思いがあって。で、やってみた結果、なんだ全然平気じゃん、となって。共演者とか、撮影スタッフとか3、40人がいるわけじゃないですか。それが1つになるんですよ。そう感じられてから自分でも楽になれました。あとはスムーズにできて、ビュンビュン突き進んでいけました(笑)」
自分を尊敬する意志
—怖くなることってないんですか?
「心配性な一面はあるんですけど(笑)、常にポジティブに考えるんで、怖いと思うことはないです。人見知りとか一切ないんで、そこが強みなのかもしれないですね。監督との関係も、僕は年とか気にしない。今こうやって敬語を使って話してますけど、そういう表面的なリスペクトじゃなくて、内側から、心と心で通じ合いたいんですよ」
—どんな相手にも態度を変えないでいられる?
「普通、偉い人に会ったりしたら、(上品な声に変えて)『初めまして~』とかなるじゃないですか。そういうのダサいと思っちゃうんですよ。僕は『あ、どうも』っていつもと変わらない。政治家でも誰でも、単純に仲よくなって、話してみたいなって思うだけです。どういうことを考えているんだろうって。そんな風に分かり合えたら素敵なことじゃないですか。人が出会うっていいことだし。とにかくコミュニケーション能力だけは『神』です(笑)。自分の中で一番自信があるところかな」
—世の中には自信を持てない人も多いと思いますが...。
「単純に自分のことが好きだし、自信はありますよ。自信というのは、別にナルシストなわけじゃなくて、自分を尊敬するっていう意志ですよね。だから尊敬する人は、って聞かれてもマイケル・ジャクソンとか言わない。僕は自分のことを一番尊敬して、自分はどういう人なんだろうって探るのが好きなんです」
—自分のことはどこまで分かっていますか?
「それはまだ分かんないです。絶対に分からないだろうし、分からなくていいんです。最終地点に着いちゃったらつまんなくないですか?それを永久的に追い求めていくのが僕なのかなって」
—いろいろと活動していますが、本当にやりたいことは?
「映画とか、音楽とか、アートの個展とか、いろいろありますけど、それを通して自分という人を知ってもらう、すべて自己表現だと思っています。つまり単純に僕が表現者であるということであって、自分の中にある何かを表現したいだけなんです。それが何かは分からないけど、とにかく今までになかったことをしたい。いろいろなことをすべて100パーセントで進めて、どれもできたらカッコいいじゃないですか。『こんな人いるの?』って言われるような、新しい型を創り出したいんです」
一番盛り上がれるのは仕事
—新しい型について…、具体的にイメージはありますか?
「自由な、新しい型を作るって、自分の中でも一番難しいんですけど…。例えば、ビートルズのような存在。常に新しいことをして、誰よりも一歩先に行ってた。階級社会の英国で、身分なんて関係なくバッキンガム宮殿に行けて、勲章をもらって、女王のことを『可愛いおばちゃん』て言っちゃうみたいな。どんな場所でもありのままの自分でいられる。そういうところもいいし」
—デヴィッド・ボウイとかシド・ヴィシャス(セックス・ピストルズ)からもインスパイアされたとか?
「昔の人が好きなんですよ。僕にはヴィンテージの心があるのかも。今の若者にはない考え方とか、カルチャーが好き。深みが違うなって思うんですよね。今の時代の人たちは、物事を簡単に見て、簡単に解釈してしまう。突き詰めることを知らない。仕事だったらここまでやるけど、趣味だからここまでしかやらないとか、それってつまんないじゃないですか。僕は何でも全力を出してやっているので」
—映画の中のタロウはテンションが上がって突き抜けてしまうタイプでしたが、自分自身はどうですか?
「似てる部分があるんですよね。でもタロウはすごく孤独で、心のどこかに闇を抱えてる。僕にあんまり闇はないけど(笑)、ちょっと狂っているところ…、エネルギッシュで感覚的に生きているところは似てますね。僕は仕事をしているときが何よりも盛り上がる瞬間なんです。今みたいに、インタビューを受けてるときとか。自分の仕事にプライドを持ってやってるんで。自分を表現できるときが一番楽しいですね」
—映画が公開されて、ますます注目されそうですけど、これから先はどうしたいですか?
「何か新しいものを発信していきたい。人生というのは1枚のアートであって、そのキャンバスに何を描けるかだと思っています。もっと有名になって、この世に名前を残したい。お金も稼ぎたい。単純に、男のロマンが詰まったものが好きなんです。同世代の人たちってあんまりそういうのに興味がないみたい。今の世の中、夢がなくてつまんないなって思います。そういうのをYOSHIという存在で盛り上げていきたいんですよ!」
インタビュー撮影=花井 智子
聞き手・文=松本 卓也(ニッポンドットコム多言語部)
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映画『タロウのバカ』
監督・脚本・編集:大森 立嗣
出演:YOSHI、菅田 将暉、仲野 太賀、奥野 瑛太、植田 紗々、國村 隼
9月6日(金)より、テアトル新宿ほか全国ロードショー