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映画『風をつかまえた少年』:14歳で風力発電装置を作ったウィリアム・カムクワンバ氏からのメッセージ

Cinema

渡邊 玲子 【Profile】

アフリカの貧しい国の14歳の少年が、廃材で作った風車から電気を起こし、村を干ばつから救った話が世界中から注目を浴びた。物語が映画化され、8月2日(金)より日本で公開されるのを機に、本人のウィリアム・カムクワンバ氏が来日。「恵まれた国」日本の若者にメッセージを送った。

2001年、世界最貧国の1つであるアフリカのマラウイが干ばつに襲われた。当時14歳のウィリアム少年は、一家の収入が途絶えたために学費を払えず、通学を断念せざるを得なくなった。飢饉の脅威が迫る中、何とかして水を得る方法はないかと考えたウィリアム。図書館で出会った1冊の本を頼りに独力で風力発電の仕組みを学ぶと、風車作りに着手した。

材料に使ったのは自転車の部品や車のバッテリー、プラスティックの板など。ほとんどがごみ捨て場から拾ってきた廃材だ。森で伐採したユーカリの木を10数メートルの高さに組み上げた風車で電気を起こし、ポンプで地下水をくみ上げることに成功する。ちなみにマラウイは農村部への電力供給が4%に留まり、電化が著しく遅れた国だ。

映画『風をつかまえた少年』より © 2018 BOY WHO LTD / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE / PARTICIPANT MEDIA, LLC
映画『風をつかまえた少年』より © 2018 BOY WHO LTD / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE / PARTICIPANT MEDIA, LLC

5年後、この奇跡的なエピソードが新聞記事を通じて全国に、さらに国外へと知られることになる。翌年、20歳になったウィリアム・カムクワンバ氏は、「TEDグローバル」(グローバルな問題をテーマに年1回開催される国際講演会)に招待され、世界から注目を集める。2010年には、この経験を本人が語り、ジャーナリストが1冊にまとめた『風をつかまえた少年』が出版、23カ国で翻訳されてベストセラーとなった。2013年には、カムクワンバ氏が米タイム誌の「世界を変える30人」に選出された。

ウィリアム少年を演じたマックスウェル・シンバは撮影当時15歳。演技未経験ながらオーディションで選ばれた。自身も電気工学を学ぶため、奨学金を得てアメリカの大学に進む夢を抱く © 2018 BOY WHO LTD / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE / PARTICIPANT MEDIA, LLC
ウィリアム少年を演じたマックスウェル・シンバは撮影当時15歳。演技未経験ながらオーディションで選ばれた。自身も電気工学を学ぶため、奨学金を得てアメリカの大学に進む夢を抱く © 2018 BOY WHO LTD / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE / PARTICIPANT MEDIA, LLC

原作者が来日、日本の中学生と交流

カムクワンバ氏の物語に強く感銘を受けた1人に英国出身の俳優キウェテル・イジョフォーがいる。構想から10年近くを経て、初監督作品として映画化したのが同名の『風をつかまえた少年』だ。日本で8月2日から全国公開されるのに先駆け、7月上旬にはウィリアム・カムクワンバ氏本人が来日し、各地で開かれたイベントに精力的に参加した。東京・千代田区の麹町中学校で行われた「特別授業」もその1つだ。

左から2番目がキウェテル・イジョフォー。自身の初監督作品で、主人公ウィリアムの父親役を演じている © 2018 BOY WHO LTD / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE / PARTICIPANT MEDIA, LLC
左から2番目がキウェテル・イジョフォー。自身の初監督作品で、主人公ウィリアムの父親役を演じている © 2018 BOY WHO LTD / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE / PARTICIPANT MEDIA, LLC

ところでカムクワンバ氏が、ある年代の日本の若者にとって非常によく知られる存在なのはご存知だろうか。中学3年生向けの英語教科書「NEW CROWN 3」(三省堂)に彼のエピソードが「We Can Change Our World」と題して紹介されているのだ。今回の中学校でも、このレッスンに合わせた英語の「特別授業」と称して行われたが、カムクワンバ氏本人の登場はサプライズ。体育館に集められた100人を超える生徒たちは、教科書に載ったヒーローが突如目の前に現れると、大きな歓声を上げた。

麹町中学校の体育館で特別授業を行うカムクワンバ氏
麹町中学校の体育館で特別授業を行うカムクワンバ氏

特別授業は、生徒たちが英語でカムクワンバ氏に質問をして答えてもらう形式で、通訳の助けを借りながらではあったが、直接コミュニケーションをとろうとする試み。故郷マラウイのことから始まり、風車を作る材料をどうやって手に入れたかなど、生徒たちが思い思いの質問を投げかけると、カムクワンバ氏は時にユーモアを交えながら、一つ一つ誠意を込めて答えていった。

やりたいことに気付けば世界は広がる

そのやり取りをいくつか紹介しよう。

—学費が払えず学校に通えなくなったとき、どんな気持ちになりましたか?

「今後の人生の選択肢が狭まってしまうと感じて、とても悲しかったです。父は農業を営んでいて、私も農業は大好きですが、ほかに選択肢がないからその仕事に就くというのは、どこか違う気がしました。教育を受けることで、自分が本当にやりたいことに気付き、選択肢が広がり、いろいろな可能性の扉が開く。世界中の人たちと文化を共有しながら、もっと前に進めるんじゃないかと思うんです」

質問した生徒へ歩み寄り、一人一人と固い握手を交わすカムクワンバ氏の姿が印象的だった
質問した生徒へ歩み寄り、一人一人と固い握手を交わすカムクワンバ氏の姿が印象的だった

—尊敬している人は誰ですか?

「飛行機を発明したライト兄弟です。あの時代に『鳥のように空を飛ぶマシーンを作る』と口にしたら、周りの人たちから「正気じゃない」と言われたでしょう。でも彼らは諦めずに、本当に飛行機を作り上げました。私がこうしてマラウイから東京やアメリカへ短時間で行き来することができるのも、彼らのおかげなんです」

—一度も見たことがなかった風車を、なぜ自分で作れると思ったのでしょう?

「詳しい経緯はぜひとも映画を見ていただきたいのですが(笑)、図書館で風車の写真が表紙になった『エネルギーの利用』という本を手にしたとき、世界のどこかにこれを作った人が存在するなら、自分にも絶対作れるはずだ、と思いました」

映画『風をつかまえた少年』より。1冊の本との出会いが人生を変えた © 2018 BOY WHO LTD / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE / PARTICIPANT MEDIA, LLC
映画『風をつかまえた少年』より。1冊の本との出会いが人生を変えた © 2018 BOY WHO LTD / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE / PARTICIPANT MEDIA, LLC

—風車を作ったことで、人生はどのように変わりましたか?

「まずは電気を起こせるようになって、ランプの燃料やラジオの電池を買わずに済むようになりました。それからTEDグローバルに招待されて初めて国外に行き、大勢の前で話をしました。そこから、多くの方々の力添えを得て、学業を再開することができたのです。その間、世界中のさまざまな人々に自分の経験を伝える機会に恵まれました。アメリカの大学では、妻となる女性と出会うこともできました。本当に人生が大きく変わったのです!」

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渡邊 玲子WATANABE Reiko経歴・執筆一覧を見る

映画配給会社、新聞社、WEB編集部勤務を経て、フリーランスの編集・ライターとして活動中。国内外で活躍するクリエイターや起業家のインタビュー記事を中心に、WEB、雑誌、パンフレットなどで執筆するほか、書家として、映画タイトルや商品ロゴの筆文字デザインを手掛けている。イベントMC、ラジオ出演なども。

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