
映画『パリの家族たち』:「母」をテーマに展開する独創的な人間ドラマ
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よくフランスの女性は性格がキツいと言われる。この映画にも、自分の主張を相手に激しく突きつけるシーンが何度も出てくるが、これは映画的に誇張されているのではなく、日常よく見かける光景だ。自分も標的になった経験がある人なら、その記憶がよみがえって、思わず背筋がゾクッとしてしまうだろうし、フランス人になじみのない日本人であれば、あまりの強烈さに仰天するかもしれない。
『パリの家族たち』を見て、まずそんな反応をしても不思議はないのだが、その後で彼女たちが何に怒り、何を嘆いているのか、考えさせられることになる。自ら脚本を手掛けたマンシオン=シャール監督は、女性であるがゆえに、安易に女性や母性の賛美に陥ることなく、もっと複雑な深層を洞察しているのだ。
監督はインタビューで、母親が「その地位によって、巨大な権力を持っている」ことをテーマの一つに据えたと語る。確かにこの物語には、優しいだけの素朴な母親像は出てこない。子育てに一生懸命になっても、ならなくても、子供の心に傷を残し得る、恐ろしい潜在性から目を背けていないのだ。
10人ほどの女性たちが織りなす群像劇の中心には、幼い頃に母親に冷たくされて育った三姉妹と、赤ん坊を育てる女性大統領がいる。三姉妹は、養子を迎えようか悩む小児科医、2人の子を持つシングルマザーのジャーナリスト、教え子と肉体関係を続けて結婚を拒否する大学教授、と三者三様の大人になり、認知症が進む母親の扱いに頭を痛めている。女性大統領は、子供を出産した後、国を動かす厳しい責任とマタニティブルーの間に挟まれ押し潰されそうになる。いわゆる主婦は背景にしか登場してこないのが興味深い。
原題の『La Fête des mères』は母の日を指すが、この日を巡る人々の複雑な感情を描くという発想が面白い。その複雑さを安直に解明しようとせず、理解し難いままにしておく描き方が、この映画に陰影と奥行きを与えている。さまざまな女性たちを単純に戯画化してしまうことなく、ドラマティックであると同時に極めてリアルに描いた監督の力量とセンスに感服するほかない。
文=松本 卓也(ニッポンドットコム多言語部)
© WILLOW FILMS – UGC IMAGES – ORANGE STUDIO – FRANCE 2 CINÉMA
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作品情報
- 監督・脚本・製作:マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール
- 撮影:ミリアム・ヴィノクール
- 出演:オドレイ・フルーロ、クロチルド・クロ、オリビア・コート、パスカル・アルビロ、ジャンヌ・ローザ
- 配給:シンカ
- 宣伝:太秦、スウィートプレス
- 製作年:2018年
- 製作国:フランス
- 上映時間:103分
- 公式サイト:http://synca.jp/paris/
- Twitter:https://twitter.com/ParisKazoku
- Facebook:https://www.facebook.com/ParisKazoku
- 5月25日(土)、シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開