
究極の復讐劇『ペナルティループ』、若葉竜也と伊勢谷友介が語り合う「この映画が大ヒットしたら逆に怖い」理由とは
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中村倫也主演のディストピア・ミステリー『人数の町』で、斬新な発想と長編デビュー作とは思えぬ完成度の高さで注目を集めた荒木伸二監督が次なる一手として選んだのは、洋の東西を問わず古典的なテーマとも言える「仇討ち」。
だが本作の舞台は、監督が独自に考案した〈ペナルティループ〉という復讐執行の新サービスが施行されている近未来が舞台だ。主人公が意図せず巻き込まれてしまう一般的なタイムループものでもなければ、現実社会における死刑制度の是非を問うような、価値観を振りかざす社会派映画でもない。
「おはようございます。6月6日、月曜日。晴れ…」朝6時に時計から流れてくる音声で目覚める岩森(若葉竜也) ©2023『ペナルティループ』FILM PARTNERS
愛する人を殺された怒りと絶望から、〈ペナルティループ〉というプログラムを利用することを自ら選択した男が、心身共に徒労感を伴う「終わらない仇討ち」を繰り返した末、その胸の内に思いもよらなかった感情が湧き上がる。復讐心に囚われていた主人公が、自らの手で何度も“死刑”を執行するループの果てにたどり着いた境地とは……。
岩森の恋人・唯(山下リオ)はある朝、スーツ姿で出ていくと、溝口(伊勢谷)によって殺され、川に遺棄される ©2023『ペナルティループ』FILM PARTNERS
本音で語り合える同志
劇中では、新システムの“死刑執行人”と“死刑囚”という立場で「がっぷり四つ」に組んだ若葉竜也と伊勢谷友介。年齢は13歳ほど離れているが、大衆演劇の一座に生まれ、幼少期から舞台に立っていた若葉と、モデルを経て、俳優や監督として活動を開始した伊勢谷とは、芸歴の長さはそれほど変わらない。
「伊勢谷さんは、小学6年生のまま大人になったような人です」とはばからず断言する若葉に、うつむいてニヤリと微笑む伊勢谷。初共演ながらも、密度の濃い現場で距離を縮めたことがうかがえる。取材の場でも、本音とも冗談ともつかない軽妙なやりとりが交わされていった。
伊勢谷 僕にとって彼は初めて目にするタイプの俳優さんでした。とても強いシンパシーを感じたというか。俳優同士、「自分の芝居のゾーンは犯させない」というのが一般的だと思うんですよね。でも、若林くんの場合は……。
若葉 いやいや……。間違ってますよ、伊勢谷さん。僕の名前、若林じゃないから!
伊勢谷 あ、若葉くんか。
若葉 これ、いつものことなんです。この人、ちょっと記憶力に問題があるんです。
伊勢谷 ああ、かもね(笑)。で、何の話だっけ? あ、そうだ。若葉くんの場合は、「伊勢谷さん、僕、ここちょっとよくわからないんですけど、どうしたらいいですかね?」って、自分の役や芝居について、共演者である僕に平気で訊いてくるんですよ。
岩森は「毎朝」、仕事先の工場で、唯を殺めた溝口(伊勢谷)に接近する ©2023『ペナルティループ』FILM PARTNERS
伊勢谷 僕は、若葉くんが撮影前から荒木監督と長い時間をかけて、岩森という男の人物像をじっくり練り上げてきた変遷を横で見ていたので、「えっ? ここにきて、いまさら俺に訊く?」って内心とまどいながらも、「こんな感じじゃないかな?」って返したら、「なるほど! ちょっとやってみます」って。変なプライドみたいなものが一切ないところがすごく新鮮で。役では10回も殺されるのに、彼のことが好きになったというか。同志のように思えた共演者は、若葉くんが初めてでした。
岩森は様々な手段で溝口に何度も復讐を遂げる ©2023『ペナルティループ』FILM PARTNERS
若葉 僕は、自分一人の脳だけじゃなくて、いろんな人の脳で考えた方が絶対に面白くなると思っているので、俳優だけではなく、現場のアシスタントに意見を求めたりすることもあるんです。でも伊勢谷さんがそれを自然に受け入れてくれたことは、嬉しかったですね。「人に聞かないで自分で考えろ」って言われたりすることもあるので
伊勢谷 え、誰に(笑)?
若葉 いや、それは言えない(笑)。もちろん自分なりにあれこれ考えた上で、もっといいアイデアがないかなって探し求めているんです。せっかくクリエイティブな仕事なのに、現場でそういうやりとりをしなかったら何の意味があるんだろうって。だからこそ、現場が終わったら、共演者にプライベートでお誘いすることはほとんどないんです。でもなぜか今回、伊勢谷さんに対しては珍しく自分から声を掛けました。「スケボー教えてください」って(笑)。
伊勢谷 僕は役者同士が芝居論を戦わせる、みたいなことに興味がないので、若葉くんとスケートボードやサーフィンという共通言語を持てたことは嬉しかったな。とはいえ、最初のうちはちょっと疑っていましたけどね。なんか下心があるのかもって。
若葉 いや、プライベートで駆け引きみたいなことは一切しないです。役の上で焚(た)きつけることはありますよ。テストからずっと同じ芝居を繰り返しているだけで、このままじゃ面白くならないなと感じたときに、わざと自分から芝居を変えてみたりすることはありますけど。
―現場とプライベートで接し方は違うけど、どちらも嘘(うそ)がないってことですね。
伊勢谷 日本人の付き合いって、本音はひた隠しにして、嘘や建前でいい感じに取り繕うことが多いじゃないですか。それって、モノづくりの現場やビジネスに関しても言えることで。「本当はそれが作りたいわけじゃないんだけど、そっちの方が金になるから」って、それが正義になるのが資本主義なわけですよね。だけど、僕としてはそこに抵抗したいという気持ちがあるんです。この映画は「小さな嘘が徐々に積み重なって、さらに大きな嘘が生まれる」タイプのものとは正反対で、それこそ登場人物たちの一挙手一投足が、すべて「実」へとつながっていく。そんなところが僕は好きなんです。
「社会不適合」のレッテルを貼る世の中に疑問を持つ人へ
若葉 でも困ったことに、伊勢谷さんが好きなものは、売れないらしいんですよ。
伊勢谷 ははは。でも、確かにそうなんですよ……。
若葉 でも、大丈夫です。僕が今回はその辺をちゃんとやるので。任せてください!
伊勢谷 頼もしい!
―『市子』で取材した際、若葉さんは、「大ヒットしてほしい気持ちはもちろんありますが、“最上竜也”としては、この映画を本当に必要としているたった一人に届けばいい」と話されていたのがとても印象に残っているのですが、今回この作品についてはいかがですか?
若葉 僕は、普段映画を観ない人たちにこそ、作品の情報を届けたい。そもそも、こういうちょっとエッジの効いた作品って、映画が好きで日頃からよく観ている人たちなら、自分で情報をキャッチして観に来てくれる。でも、そうでない人こそ、このような得体の知れない作品と出会ったら、「一体何を見せられたんだ?」って感じると思います。見たことがないものに触れる経験は、誰にとっても刺激的なはずです。
伊勢谷 <ペナルティループ>って、罪を犯した人に対して執行される復讐プログラムじゃないですか。それって、いまの僕自身にもなんとなくシンクロする部分があるんですよね。「見たことがない世界だから面白い」というのはもちろんあるんだけど、自分の置かれた状況とシンクロするものを映画に見つけたときって、心の中での弾け方が全く違うんですよ。そういう意味で考えると、僕としては『ジョーカー』の主人公に「社会不適合者である」というレッテルを貼るだけで終わらせるような社会に疑問を持つ人に、この映画が届いたらいいなと思っているんです。
伊勢谷 僕はこれまでの人生で、「人と感覚が合わないな」って思うことばかりでした。何を正義として何を悪とするか、それぞれ価値観が違うのは当然としても、「自分はこの社会から隔絶させられている」と感じている人はきっと少なくないはずです。ジョーカーにちょっとでもシンクロする人たちがこの映画を観に行ったときに、「ああ、面白かった。さあ何かうまいものでも食べに行こう!」っていうのとは、真逆の気分になるような、そんな映画になっていたらいいなと思います。
若葉 先日あるライターさんが、「タイトルの“ペナルティ”という言葉は、伊勢谷さん演じる溝口じゃなくて、むしろ僕が演じた岩森の方にかかっているんじゃないか」とおっしゃっていて……。その解釈を聞いて、僕もハッとしました。
『ドライブ・マイ・カー』で知られる韓国人俳優のジン・デヨンが、タイムループの謎を握るキーパーソンを演じる ©2023『ペナルティループ』FILM PARTNERS
伊勢谷 この映画に登場する人たちは結局、誰一人として救われていないんですよ。「ここからあなたは何を感じ取りますか?」と問われて考えるのがきっと大事なんだと思う。僕としてはこれをアンチテーゼとして、岩森とは別の生き方を探すことを勧めます。<ベナルティループ>に賛同する人たちが爆発的に増えてこの映画が売れたら、日本はマジでヤバいよ(笑)。
若葉 確かに。こんなヤバいシステムが支持されて、この映画が大ヒットしたとしたら、この国はもう終わりです。
撮影=花井 智子
取材・文=渡邊 玲子
作品情報
- 監督・脚本:荒木 伸二
- 出演:若葉 竜也 / 伊勢谷 友介 山下 リオ ジン・デヨン / 松浦 祐也 うらじぬの 澁谷 麻美 川村 紗也 夙川 アトム
- 配給:キノフィルムズ
- 製作国:日本
- 製作年:2024年
- 上映時間:99分
- 公式サイト:https://penalty-loop.jp/
- 新宿武蔵野館、池袋シネマ・ロサほか全国公開中