映画「翔んで埼玉」:「爆笑、泣いて、… 」、地域差への感度・郷土愛測る一助に
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作品情報
- 原題=翔んで埼玉
- キャスト=二階堂ふみ GACKT 伊勢谷友介 京本政樹
- 監督=武内英樹
- 原作=魔夜峰央「このマンガがすごい!comics 翔んで埼玉」(宝島社)
- 脚本=徳永友一
- 音楽=Face 2 fAKE
- 主題歌=はなわ「埼玉県のうた」(ビクターエンタテインメント)
- 公開日=2019年2月22日
- 上映時間=107分。
- 公式サイト=http://www.tondesaitama.com/
作品紹介
大ヒット作「テルマエ・ロマエ」シリーズで国際的な評価を受けた武内英樹監督が贈る「壮大な茶番劇」(予告編から)。そもそも作品の公式サイトから「埼玉の皆さま、映画化してゴメンなさい。この物語はフィクションであり、実在の人物・団体、とくに『地名』とは関係ありません」と遊びまくっている。
「埼玉県民は通行手形がないと…」
「埼玉県民は通行手形がないと東京に出入りすらできず強制送還されてしまう…」
荒唐無稽なナレーションで映画はスタートする。冒頭しばらく、「県民として見ていられないくらいのひどさで埼玉を痛めつけている」(上田清司・埼玉県知事のブログ)ほど、県民にとっては不愉快な場面が続く。県を代表するあるモノが都内に“潜入”した埼玉出身者をあぶりだす踏み絵として使われるほどの非人道的な弾圧だが、公開直前の2月上旬には何と知事の“公認”も得た。2月22日の初日には地元「埼玉新聞」が特別号、協賛企業が「埼玉県民が愛する“高級野菜の種”」を上映館で配布するなど現地は歓迎一色となっている。
物語は県民の憧れの地「東京」の超名門高校に転入してきた隠れ埼玉のイケメン帰国男子(GACKT)と彼に引かれる純東京育ちのお嬢様風エリート男子(二階堂ふみ)のBL(ボーイズラブ)ストーリーを軸に展開する。ハチャメチャな少女ギャグ漫画「パタリロ」の作者魔夜峰央(まや・みねお)原作だけに、主演2人のキャラクター設定はもちろん、衣装にも現実世界とは思えない宝塚歌劇団的なデフォルメがふんだんに施され、その舞台は「埼玉解放戦線」やその対抗組織「千葉」「高みの見物・神奈川」「秘境・群馬」へと奇想天外に広がっていく。
「埼玉いじめ」から“知事公認”に進化、関東全域巻き込む
30年前に描かれた原作コミックは「埼玉が東京に虐げられる」というモノトーンだった。武内英樹監督はそこに千葉、神奈川、群馬らを加え、関東圏全域を巻き込んだ「壮大かつ大真面目に郷土愛へ向き合う、エンターテインメント超大作」にスケールアップしたという。おしゃれな街(横浜、鎌倉)や湘南エリアを擁し一目置かれる神奈川は「別格」として、東京から「グンタマ-チバラキ」(群馬・埼玉-千葉・茨城)と一くくりにされる他の関東4県に異論のあるはずもない。逆に関東以外の地域は自分たちが参加していないことに一抹の寂しさを感じるかもしれない。
主役2人だけではなく、出身地の影を引きずりながら演じるキャラの濃い出演者たちがそれぞれに楽しそうに見える。中でも、常に“あわび”と“さざえ”という女性同志2人を従えて行動する千葉解放戦線のリーダー役Xの“快演”は見ものだ。Xの出身地はどこか、GACKTと二階堂ふみは。出演者の実際の出身地を推測しながら見るのも一つの楽しみ方だ。
現実世界では、首都圏は都を核に人口4000万人超という世界有数の巨大メトロポリス(中心都市)だ。隣接県から都内への通勤・通学者も多く、1都5県が一体化したようにみえるが、一皮むけば底流には「翔んで埼玉」に描かれたこれだけの地域差と複雑な住民感情が横たわっている。
武内監督は「爆笑してなぜか泣いていて、劇場を出る時には、自分の出身地を誇りに思うような、そんな作品になると確信している!」と語る。この作品は地域差に対する感度や郷土愛を測るリトマス試験紙となるかもしれない。
<文中敬称略>
文/ 編集部 三木孝治郎
バナー写真:六本木の劇場で公開された映画「翔んで埼玉」のポスター