ニッポンドットコムおすすめ映画

映画『ザ・クリエイター/創造者』:ギャレス・エドワーズ監督が語る「日本」、AI戦争、創作の冒険

Cinema

日本からの影響を公言する世界の映画監督は少なくない。ハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』を手がけた俊英、ギャレス・エドワーズもその一人だ。最新作『ザ・クリエイター/創造者』は、近未来のアジアを舞台に、人類とAI(人工知能)の戦争を描くSF映画。親日家で知られる監督が、日本から受けたインスピレーションや名優・渡辺謙との仕事、そしてハリウッドの常識を覆す大胆な映画づくりの秘密を明かした。

ギャレス・エドワーズ Gareth EDWARDS

1975年、イギリス生まれ。子どもの頃に『スター・ウォーズ』を観て、映画の道を志す。UCA芸術大学で映像学を学び、1996年に卒業。撮影・脚本・視覚効果も手がけた『モンスターズ/地球外生命体』(2010)で長編映画の監督デビュー。『GODZILLA ゴジラ』(14)、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(16)に続き、『ザ・クリエイター/創造者』が長編4作目となる。

映画製作は冒険だ。大きなリスクを抱え、人々の期待を背負い、まだ誰も知らない作品に向かって全力で漕ぎ出す──あらゆる作り手にとって、それはまさしく「冒険」と呼ぶに値するものにちがいない。しかし、ギャレス・エドワーズほどの冒険家は、映画界広しと言えどそうはいないだろう。

『ザ・クリエイター/創造者』は、『GODZILLA ゴジラ』(2014)と『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(17)という超大作を連続して手がけたギャレス・エドワーズによる4本目の長編映画。目指したのは、既存のシリーズやブランドに頼るのではなく、自らのイマジネーションを爆発させたオリジナルの大作SF映画だった。

映画『ザ・クリエイター』。主人公は元特殊部隊のジョシュア(ジョン・デヴィッド・ワシントン)© 2023 20th Century Studios
映画『ザ・クリエイター』。主人公は元特殊部隊のジョシュア(ジョン・デヴィッド・ワシントン)© 2023 20th Century Studios

人間対AIの戦争が10年にわたって続いている近未来。AIを完全規制した西洋諸国に対し、「ニューアジア」と呼ばれる東洋諸国ではAI開発が継続され、いまや人間とロボットが共存していた。しかし、それゆえにアメリカとニューアジアは戦争状態に突入している。

元米軍特殊部隊のジョシュアは、かつての潜入捜査先であるニューアジアでの任務を命じられた。人類を脅かす兵器を生み出す「創造者(クリエイター)」を暗殺せよ、というのだ。現地で死亡したと思われていた妻・マヤが生きている可能性を知らされたジョシュアは、部隊とともに現地へ向かう。しかしその先にいたのは、未曾有のテクノロジーを秘めた超進化型AIの少女・アルフィーだった。

少女アルフィー役は、今回が俳優デビューとなった新人マデリン・ユナ・ヴォイルズ © 2023 20th Century Studios
少女アルフィー役は、今回が俳優デビューとなった新人マデリン・ユナ・ヴォイルズ © 2023 20th Century Studios

ギャレス・エドワーズ監督と日本

洗練された都市空間、緑豊かな自然、そこに並び立つ人間とロボットたち。「ニューアジア」のコンセプトが生まれたきっかけはベトナムの風景だったが、その唯一無二の世界観には日本の都市や文化が大きな影響をもたらした。エドワーズは、自身のSF観と日本には深い関係があることを認めている。

「僕が大好きなSFや『スター・ウォーズ』の世界では、古代のような過去と、遠い未来が融合していながら、その中間にある現代のものが存在しません。そんなSFの世界に、この現実世界で最も近い場所が日本なのです。東京に来ると、まるで『ブレードランナー』(82)に登場する未来都市に立っているような気分になる。けれども街を歩いていると、お寺が建っていて数千年前の神秘性も感じられる」

ニューアジアのビジュアルは、エドワーズによる「SF的風景」の再解釈だ © 2023 20th Century Studios
ニューアジアのビジュアルは、エドワーズによる「SF的風景」の再解釈だ © 2023 20th Century Studios

本作のため、『ブレードランナー』や大友克洋の『AKIRA』などを参考にしたエドワーズ。そもそも『ブレードランナー』も日本文化にインスパイアされた作品だったが、『ザ・クリエイター/創造者』では、ネオン輝くニューアジアの都市をつくりあげるため、東京・渋谷や新宿にてロケ撮影が行われた。

劇中には、自身も手がけたゴジラ映画へのオマージュのような演出もあれば、日本のコミックやアニメーションを思わせる場面もしばしば登場する。日本語も全編に使用され、AIのハルン役を演じた渡辺謙は日本語と英語の台詞(せりふ)を操った。『GODZILLA ゴジラ』以来の再タッグとなった渡辺に、エドワーズは「僕が一緒に2回仕事をした唯一の俳優」と信頼を寄せる。

「今回、謙は別の映画で忙しいと思っていたのですが、コロナ禍で僕たちの撮影が遅れたために出演してもらえることになったんです。実際、彼はハルン役にぴったりで、『真っ先にオファーしなかったなんて、本当に愚かなことをした』と思いました。彼は、たとえ台詞がなくとも感情や思考を表現できる。謙の姿をカメラやモニター越しに見るたび、まるで古典映画を観ているように感じました」

渡辺謙演じるハルンは、裏切り者である主人公のジョシュアを追う © 2023 20th Century Studios
渡辺謙演じるハルンは、裏切り者である主人公のジョシュアを追う © 2023 20th Century Studios

「世界最高の予算があるインディペンデント映画」

「大手映画会社にオリジナルのSF大作を提案するのはとても困難なことで、ほとんど不可能とさえ言える」。エドワーズ自身がそう語るように、『ザ・クリエイター/創造者』の実現には高いハードルがあった。ヒットの見込みがある作品が優先されがちな昨今のハリウッドで、本作のような映画は最もスタジオに受け入れられにくいのである。

解決策は、スタジオの想定よりも遥かに低予算で映画を仕上げることだった。自然の風景とSF的ルックが共存した本作映像は、製作費2~3億ドルが費やされていてもおかしくないほどの贅沢さ。しかし、エドワーズはこの映画を破格の8000万ドルで完成させている。

手がかりとなったのは、エドワーズの長編デビュー作『モンスターズ/地球外生命体』(10)だ。当時のエドワーズは、あらかじめ映像のイメージを決めてから撮影に臨むのではなく、先に少人数のスタッフとアメリカ各地でロケ撮影を行い、あとから自身の手でCGを合成することで映画を完成させたのである。エドワーズがVFXの世界でキャリアを始めたからこそできた芸当で、製作費はわずか50万ドルだった。

『ザ・クリエイター/創造者』でも、エドワーズは同じ方法を採用した。ビジュアル面の開発を行わないまま、最初にタイやインドネシア、チベット、日本などの8カ国を最小限のクルーと飛び回り、特別なセットを一切建てず、自然の中でロケ撮影を敢行。映像を編集したものに対し、美術やロボット、衣裳などをデザインしてCGで描き加えたのだ。とある取材の中で、エドワーズは「壁に描かれた的を弓矢で狙えば外れることもある。しかし、先に矢を放ち、当たったところに的を描けば、自分の狙い通りになる」と語っていた。

自らのルーツであるインディペンデント精神と、ハリウッドの超大作を手がけたことで得られた視野と知見の融合。「作り手の気持ちとしてはどちらに軸足が乗っていたのか?」と尋ねると、エドワーズは「今回の作品をチープな大作映画だと考えるのではなく、世界最高の予算があるインディペンデント映画として捉えていた」と答えた。

「初めて監督した『モンスターズ』は予算の少ない映画でしたが、非常にクリエイティブな経験ができました。つまり、予算がなくても自由を得られる場合はある。逆に、数億ドルの大作映画だと大きな制約が発生することもあります。そこで今回は、両者の間にある理想的なバランスを探りたいと思いました。『モンスターズ』のようにクルーが少人数でも、予算が数千万ドルあればなんでも実現できる。とても面白く、創造的なプロセスになります」

撮影に導入されたのは、2種類の日本製機材だ。小型かつ軽量で機動性の高いSONY FX3と、“世界最軽量のアナモフィックレンズ”と呼ばれるKOWAの70年代ビンテージレンズの組み合わせで、エドワーズは「大好きな70~80年代映画に近い雰囲気を作り出せた」と話す。また機材が軽量だったため、一同はドキュメンタリーのようにフットワークの軽い撮影を各国で実現できた。

撮影監督は『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』のグレイグ・フレイザーと、新鋭オーレン・ソファーの2人体制 © 2023 20th Century Studios
撮影監督は『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』のグレイグ・フレイザーと、新鋭オーレン・ソファーの2人体制 © 2023 20th Century Studios

「FX3は月明かりの下でも撮影できるほど暗所に強いカメラなので、大きな照明は必要ありません。そこで録音班と同じように、照明班も軽量のライトをポールに固定して手持ちで使用しました。おかげで撮影現場をスムーズに動き回れたし、照明もすぐに直せた。カメラが僕たちに自由を与えてくれたのです」

持ち前のダイナミックな映像感覚によるアクション演出も見どころだが、エドワーズ自身が最も気に入ったのは、撮影手法がそのまま活きた「ドキュメンタリーのようなショット」だ。「カンボジアやヒマラヤの村で老人と子どもたちが遊ぶ様子を撮影し、あとから老人をCGでロボットに差し替えたら、驚くほどリアルな仕上がりになりました。ハリウッドの大作映画でめったに見られない映像を撮れた時は興奮しましたね」

人間対AIの戦争を描く意味

本作の企画をスタートさせた数年前、エドワーズは“人間とAIの未来”というテーマがこれほどタイムリーなものになるとは想像しなかったという。この世界でAIはどのような存在か、どこまで人間に肉薄できるのか、両者の倫理観に違いはあるのか、人間はAIを本当に受け入れられるのか、そして「本物」と「偽物」の違いとは──。この映画は、観る者にあらゆる問いを投げかける。

しかしエドワーズは、本作を人間とAIの関係“だけ”を扱った作品にしようとは考えなかったようだ。「僕が意図したのは、AIを自分とは異なる存在のメタファーとして使うこと」だと言い、人間対AIの戦争を描くことの意味を明らかにした。

「いかなる衝突であれ、片方の視点で見れば、その人は正しく、また敵への攻撃も正しい行為です。しかし、その“敵”の立場からすれば、彼らもまた正しい。それが戦争の問題です。ふだん、僕たちはなかなかひとつの視点でしか物事を見られないけれど、映画やストーリーテリングならば様々な視点を見せることができる。最も興味深いのは、対立している双方がともに正しく、どちらも止まらないがゆえに大惨事が起こりうるという状況です。その時に僕たちは、ドラマとしてそこから目を離せなくなってしまう」

ジョン・デヴィッド・ワシントンほか、俳優陣の熱量あふれる演技が作品に厚みをもたらす © 2023 20th Century Studios
ジョン・デヴィッド・ワシントンほか、俳優陣の熱量あふれる演技が作品に厚みをもたらす © 2023 20th Century Studios

奇しくも『ザ・クリエイター/創造者』は、世界情勢の変化を受けて、政治的にもタイムリーな作品となった。核爆発、アメリカによるアジア侵攻、“存在するはずの大量破壊兵器をめぐる作戦”といったモチーフは、近現代に起こった実際の戦争を想起させもする。

創作にあたり、エドワーズは現実の歴史も参照したのだろうか。そう尋ねると、なにか特定の事件や史実を参照したわけではないと答え、「特別な政治的意図はなく、あくまでも人類すべてについての物語を描いたつもり」だと語ってくれた。

「超大国が遠く離れた地域を抑圧する映画を撮れば、『とてもタイムリーな作品だ』と言われます。きっと5年前や10年前、あるいは100年前にこの映画を撮ったとしても同じことを言われたでしょう。残念ながら、これは人類にとって永遠のテーマなのです。すべての悪を排除しても、そこから逃れることはできません。僕が描きたかったのは、悪人など存在せず、私たちも同じく間違っているのだということ。この問題を真に解決する唯一の方法は、お互いを理解し、団結し、両者の違いよりもむしろ共通点を見出すことです」

インタビュー撮影:花井智子
取材・文:稲垣貴俊

[参考資料]

‘The Creator’ Director Gareth Edwards Believes Big-Budget Franchises Can Adopt His More Affordable Approach

How Gareth Edwards’ Sci-Fi Opus ‘The Creator’ Achieved Blockbuster Scale at a Fraction of the Cost

© 2023 20th Century Studios
© 2023 20th Century Studios

作品情報

  • 監督・脚本:ギャレス・エドワーズ(…『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』『GODZILLA ゴジラ』)
  • 出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン、渡辺 謙、ジェンマ・チャン、アリソン・ジャネイ、マデリン・ユナ・ヴォイルズ
  • 上映時間:133分
  • 公式サイト:www.20thcenturystudios.jp/movies/thecreator/
  • 10月20日(金)全国劇場にて公開

予告編

映画 戦争 テクノロジー ゴジラ AI ハリウッド 映画監督 SF