小沢仁志「アクションが映画の基本。俺は吹き替えなしでやる」 還暦記念のガチンコ集大成『BAD CITY』に主演
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ほぼアウトロー専門に俳優生活40年
還暦を迎えてなお意気軒高、スタントマンによる吹き替えなしで体当たりのアクションに挑む映画スターといえばトム・クルーズ。だがもう1人、日本にもいる! トムより2週間早くこの世に生まれた小沢仁志だ。
トムが『アウトサイダー』や『卒業白書』で注目され始めた1983年、人気テレビドラマ『太陽にほえろ!』に端役でデビューしていた小沢。その後、『スクール☆ウォーズ』や『ビー・バップ・ハイスクール』の不良役で存在感を示すと、以来40年にわたって途切れることなく映画やテレビに出演してきた。それもほぼアウトローの役ばかりと言っていい。
「若い頃は不良学生役。そこからヤクザになったり、ギャングになったり、全然更生してない(笑)。そっちの方が楽しいよ。ホームドラマで『お母さん、おかわり』なんてやってたら、ストレスたまるんじゃねえの? イライラして、飲みに行っちゃあケンカしてたかもしれない。でも実際は、現場でケンカばっかやってるから満たされてる。日常生活がおとなしいもん、逆に。連ドラなんて飽きてすぐ太る。だからよく2話で殺してくれって言うんだ(笑)」
しかしテレビや一般映画に、そこまでアウトローの出番があるわけではない。主戦場はやはりVシネマ。代表作の1つ、「日本統一」シリーズだけで50作を超えた。出演作はもはや数えられないが、すべての映像作品を合わせて「500本以上」という。
掟破りのガチンコ勝負
その中で、今でも思い入れが強い作品は95年に自らプロデューサーも兼ねた主演映画『SCORE』(公開は96年、室賀厚監督)だ。あれから四半世紀以上が経ち、それに匹敵する「でっかい花火」をドーンと打ち上げたいという思いが湧いてきた。
「ああいう奇跡を生む力がまだ自分に残っているか、自分の体が最後まで乗り切れるかどうか、試してみたかった。だってもう今つまんねえじゃん、この世界。コンプライアンスだ、セキュリティーだ、あれもダメ、これもダメ…、映画作るのに、いちいちうるせえって」
こうして「コンプライアンスなんていらねえ」という精神から、小沢の発案で生まれたのが今回の『BAD CITY』。自ら脚本を書き、製作総指揮を務めた。
物語の舞台は、人々が貧困にあえぎ、暴力がはびこる開港市。この“犯罪都市”を縄張りとする暴力団、桜田組の組長と家族、組員が韓国マフィアによって惨殺された。検察の平山検事長(加藤雅也)は、事件の裏に五条財閥の会長、五条亘(リリー・フランキー)が絡んでいると推測する。五条は市の裏社会を牛耳る大物で、別の事件で起訴されたが無罪を勝ち取り、市長選への出馬を表明していた。
平山は公安0課の小泉(壇蜜)を呼び出し、強行犯担当の刑事たちで非公式の特捜班を組織するよう命じる。班長に指名されたのが虎田(小沢仁志)。ある事件の容疑で拘置所に勾留中の元警部だが、超法規的に仮釈放してまで捜査を任せたのにはわけがあった。果たして悪の構図を暴き、五条を刑務所送りにできるのか?
韓国マフィア勢には、女ボスをかたせ梨乃が演じるほか、山口祥行、本宮泰風ら、「日本統一」シリーズでおなじみのVシネマのスターたちが居並び、アクションスターのTAK∴こと坂口拓が全身凶器の刺客に扮する。小沢らが総勢100人超の敵と繰り広げる大乱闘は、今となっては珍しいCGなし、スタントなしの「ガチンコアクション」だ。
「普通なら事務所がこんなのダメって言うよ。『うちの役者、ケガしたらどうすんだ、吹き替え使え』って。でもそれじゃこういう映画にはならない。本人が長回しでずっとボッコボコにやってる(芝居をしている)から、観客が息をのむ場面になる。あれが吹き替えだと、カットを細かく割って、編集でつなげていかなきゃならないから」
監督は異例のロングランヒットとなった『ベイビーわるきゅーれ』(2021)でアクション監督を務めた園村健介。もちろん本作でもアクション監督を兼ねている。
「あいつらの世代になって、アクションというものが圧倒的に変わった。“アクション監督”って言葉ができて以降だね。昔は“殺陣(たて)師”。殺陣をつけるだけで、カット割りは監督とカメラマンがやっていた。アクション監督はカット割りまで決めるからね。見せ方が違うし、稽古のやり方から全然違う。今回初めて体験して、めっちゃ面白かったもん。いい大人が新しいおもちゃをもらったみたいに、目をギラギラさせてさ。そういう新しいやり方を吸収して、それが稽古でいったん体にしみついたら、あとは現場に行って、ひたすらブチ殺すだけだよ(笑)」
骨折くらいで病院に行けるか!
血と汗の男臭い世界に、新米刑事・野原恵役の坂ノ上茜が新鮮な風を吹き込んでいる。彼女のアクションもノースタント。稽古中に負傷しながら、ハードなシーンをやり切った。
「この映画はスタッフとキャスト、全員の思いが一緒になって、みんなが最後まで付いてきてくれたからできた。誰かがガンガンやってると、負けてらんねえって火がついて、みんなに広がっていくんだよ。坂ノ上だって、そういう修羅場をくぐって、殴られて、蹴飛ばされて、血まみれになって、どんどんイイ顔になってくるじゃん。それが新米刑事の成長していく姿にそのまま表れるんだ」
小沢も負けじと、ただ殴る蹴るだけでない、総合格闘技並みに手数豊富なファイトを見せる。ただし、今回の撮影に向けて改めて鍛えたのは、ベーシックな「殴る筋肉」。人型のサンドバッグを買い込んで、1年にわたってひたすら殴る動きを身に付けた。
「これ大事だから、ホント。格闘家が目の前にいたら分かるよ、殴りそうな雰囲気してるよ。俺らは殴りそうに見えるかもしれないけど、本当に殴ってはいないから、何もしなかったら、そういうリアリティは出せない。俺なんか、事件になっちゃいけないから、何十年もちゃんと人を殴らずにいるもん(笑)。準備して正解だったなって。出来上がりでボッコボコ殴ってる後ろ姿を見たら、やってる感満々じゃん(笑)。拳も固くなって、パンチが強くなったもんだから、ラストシーンでパチーンとやったときに、自分の力で手が折れた。みんなから馬鹿かって言われたよ(笑)」
「現場が止まる」から、骨折くらいでは病院には行かないそうだ。正確には数えるのをやめたが、これまでに骨折したのは50カ所を超える。
「たぶんあと10カ所はやってるはずなんだ。あれがちょうど60本目の骨折だったら、還暦記念にぴったしだったんだけどな」
アクションの師はチャップリン
高校時代はプロ野球を志すほどの豪腕で鳴らしたが、「ケツバットをしてきた先輩をボッコボコにして」退部。授業をサボって池袋や新宿で映画を観て過ごした。
「小学3年生くらいの時に初めて観たのが、チャップリンの『黄金狂時代』(25)。役者を志したきっかけってよく訊かれるじゃない? あんまりこれっていうのはないんだけど、チャップリンが心の中にずっといる。チャップリンだってノースタントじゃん。『チャーリー』(93)でロバート・ダウニー・Jrがチャップリンの役をやってるけど、転ぶシーンで2回骨折してんだよ。それくらいチャップリンってすごかった」
「あの人は体を張って人を笑わせる。だから俺も体を張って人を感動させたいんだ。チャップリンの映画、泣けるところもあるし、ドラマチックだけど、要はアクションだもん。昔、大林宣彦監督にその話をしたら、『その通り。アクションが映画の基本だよ』って言ってもらえたの、すげえうれしかったからずっと覚えてる。ただ俺は、アクションをやりたいから映画を撮ってるんじゃなくて、観る人を感動させたい。だから予算があって、スタントマンが使えても、俺は吹き替えなしでやる」
撮影でフィリピンの悪名高きスモーキーマウンテンに泊まり込んだエピソードなど、仰天の武勇伝には事欠かない。
「ああいうヒリヒリした感じが好き。日本は生ぬるい、退屈だよ。だから自分でやらないと。今回、俺が自分で脚本を書いて、カネ集めて、演じてるけど、誰か別の人が企画したとして、還暦迎えた俺にこの役やらせると思う? ないよね。無理だよ、ケガされたらどうしようってなるよ。…ってことはさあ、これから先ずっと自分で作んのかよって。ちょうどこの撮影終わってそんなこと思ってたときに、永ちゃん(矢沢永吉)のコンサートをWOWOWで観たの。一回り上の72歳、全国ツアー31公演。キレッキレですげえなあと思ったけど、ちょっと待てよ、永ちゃんもセルフプロデュース、プレーヤーでカネも自分。だから72歳で31公演もやれるんだよね。そうか、やっぱりやんなきゃいけねえんだなって」
還暦を越えてもガチンコアクションで行く、という宣言が聞けたと思ったのだが、最後の最後に意外なセリフが待っていた。
「今回で俺の役者人生も一くくりできて、また新たなスタートになるけど、あと10年あるかないかだから、ここからは人生楽しむよ。俺、考古学者になりたいの。まじめに勉強してんの、結構。役者一筋は40年間、60まで頑張ったじゃん。海外行くときにさ、職業欄に“プロフェッサー”って書くのが夢(笑)。 “アクター”はもういいよ。入国の係官にどんな映画か訊かれてさ、『ヤクザムービー』って答えると、こちらへどうぞって別室だぞ、おい(笑)。全身調べられてさ、ムービーって言ってんじゃん! めんどくせえな!」
インタビュー撮影=花井 智子
取材・文=松本 卓也(ニッポンドットコム)
作品情報
- 出演:小沢 仁志
坂ノ上 茜 勝矢 三元 雅芸
中野 英雄 小沢 和義 永倉 大輔
山口 祥行 本宮 泰風 波岡 一喜 TAK∴
壇 蜜 加藤 雅也 かたせ 梨乃 リリー・フランキー - 製作総指揮・脚本:OZAWA
- 監督・アクション監督:園村 健介
- 主題歌:クレイジーケンバンド「こわもて」(doublejoy international/UNIVERSAL SIGMA)
- 制作プロダクション:ソリッドフィーチャー
- 配給・宣伝:渋谷プロダクション
- 製作年:2022年
- 製作国:日本
- 上映時間:117分
- 公式サイト:www.badcity2022.com
- 1月20日(金)より新宿ピカデリー他にて公開