前田敦子「アイドルを卒業してから分かったこと」:映画『もっと超越した所へ。』に主演
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「頭で考えちゃダメ」
劇団・月刊「根本宗子」の主宰者として全作品の作・演出を手掛ける劇作家・根本宗子が、2015年に発表した『もっと超越した所へ。』。自らアレンジを加えて書き上げた脚本が、前田敦子、アイドルグループ「Sexy Zone」の菊池風磨、千葉雄大ら豪華キャストで映画化された。
“クズ男”を引き寄せてしまう女性4人のままならぬ恋愛模様を、ドラマ「忘却のサチコ」(18)や星野源のMVなどで知られる山岸聖太監督が、予想を裏切る大胆な構成と映像テクニックで痛快に描き出す。
4組のカップルのうち、“クズ男”の一人がバンドマン志望の怜人(菊池風磨)。ある日突然、女性の部屋に転がり込んで、家賃や生活費も払わないくせに、恩着せがましいことを平然と口にする。そんな伶人と付き合い始めたものの、元カノに毎月お金を振り込ませていたことを知ってブチ切れるのが前田演じる衣装デザイナーの真知子だ。
「根本さんが生み出す作品の世界観が好きなので、台本を読んでいて理解できなかったところは一つもなかったですね。『根本さんはきっとこんな気持ちだったんだろうな』と想像しながら演じていました。怒りをぶつけ合うとか泣きわめくような場面は、理屈よりも感覚的なやりとりになりますから、頭で考えちゃダメだと思ったんです。相手から受け取ったものにどう反応してどう返すか。仕事に集中しているときや、友だちと一緒にいるときは理性が働いていても、恋人とケンカすると思いもよらない自分と出くわす、そんな瞬間が誰しもあると思うんです」
「開き直りがすごいです」
前田がこれまで演じてきた役柄を振り返ってみると、一筋縄ではいかない、癖のあるキャラクターが多いと感じる。彼女自身が率先してそんな役柄を選んできたからなのか。それとも、そういうオファーが自然と集まってくるのか。
「映画や舞台のお仕事に関しては、タイミングが合えばほとんどすべてお引き受けしています。嘘の世界を描いてはいるんですが、作っている人たち自体には嘘がないというか……。正直な人たちが集まって、正直に作っているような感じがして、私はすごく好きなんです。作品そのものというより、映画や舞台に関わる人たちの人間性が好きなんだと思います」
2015年には、170本もの映画を紹介したエッセイ『前田敦子の映画手帖』(朝日新聞出版)を出版。「名画座をハシゴして、1日5本くらい映画を観ていたこともあった」というほどの映画好きだ。「映画館の暗闇で音を立てないようにと、ある意外なものを食べていた」という有名なエピソードの真相についても尋ねてみた。
「新橋の高架下にあった映画館(新橋文化劇場)で、お刺身を食べたことはあります(笑)。飲食物の持ち込みOKで、おじちゃんたちはお酒飲みながら映画を観ていたので、『じゃあ、別にお刺身を食べながら観てもよくない?』って。私、お刺身にはおしょうゆをかけないので。映画も観たいけど、お刺身も食べたい。本当に貪欲ですよね(笑)。『変わってるね』と言われることも多いんですけど、『自分の人生ですからね』という開き直りがすごいです、私(笑)」
「人気は流れていくもの」
女優としての活躍がすっかりおなじみになった前田だが、「私のことは嫌いでも、AKB48のことは嫌いにならないでください」という名セリフを放ったアイドル時代の姿はいまも忘れがたい。当時について「自分に人気があると思ったことは一度もなかったですし、常に冷静でした」と振り返る。
「人気なんて常に流れていくものだし、その先どうなるかなんて誰にも分からないじゃないですか。なぜ自分がそんなに興味を持ってもらえるのかよく分からないまま、時が怒涛のように流れ、終わっていく……。でもいざ流れが終わっても、それが恋しいとは思わないんです。あの流れにしがみつきたい気持ちがあったら、(アイドルを)辞めてないですよね」
「いま思えば、アイドル時代は自分のことで精一杯だったのかもしれないです。周りの人たちのことを考える時間も作れなかった。人としっかりコミュニケーションが取れるような環境に身を置けたのが、私の場合はAKB48を卒業した21歳以降だったんです。そこからようやくちゃんとした“人間としての感情”みたいなものを、プライベートを通じてたくさん経験するようにもなって……。映画の中の真知子じゃないですけど、『私はどんなことをされると傷つくのか』とか、そういうこともいろんな感情を知って初めて分かるようになった。いまは周りの人たちとコミュニケーションを図れるのが楽しい。仕事という共通項で日々こうして新しい人たちと出会えるのも面白いです」
「普通に生きています」
現在は子育てをしながら、仕事の流れをすべて把握するなど、これまで以上に経験値が上がっている前田。取材当日も早朝からドラマの撮影を行い、取材後には舞台の稽古も控えていたはずだ。にもかかわらず、疲れた様子はみじんも見せず、全身にパワーがみなぎっているかのようだった。そんな「エネルギーの源」を尋ねると、「何なんでしょうね~(笑)。自分でも不思議です。でも、もともと落ち着きがないんですよ、私」と、屈託のない笑顔をのぞかせる。
「いまいろんなお仕事をやらせてもらっているのですが、自分にはそれぐらいがちょうどいいというか。家でぼーっとしているよりも忙しくしている方が、自分の気持ちがはるかに楽なんです。以前は『待つのも仕事だよ』と言われていたんですが、ただ来るのを待っているだけでは物足りない。せっかくなら自分からどんどん楽しいことに乗っかっていけるような環境にしたかった。だから独立したんだと思います」
「決して無理せず、自分らしく“普通に”生きること」がモットーでもあるという。
「この世界で18年仕事をしてきて、やってみたら意外と自分らしい居場所って作れるものなんだなあと実感しています。だからもしもやってみたいと思うことがあったら、まずは何事も自分で経験してみるのが一番。そこからどうやって続けるかが、むしろ大事なんじゃないかなと。誰でも最初はうまくいかないのなんて、当たり前ですから」
とはいえ、一度つまずくと、続かなくなるのが世の常だ。そんなときの秘策とは?
「いかに賢く休むかじゃないでしょうか。一度『やめます』と言ってしまうと、もうそこで全てが終わってしまうから、周りにやめるとは宣言せずにユルっと続ければいいと思うんです。『いまは子育てをしているから、もうちょっとプライベートに重きを置こう』みたいな感じで、その時々のライフスタイルに合った仕事のぺ―スを探りながら、自分らしく生きていけたらと思っています。人前に立つ仕事ではありますが、基本的には他の職業の人たちと変わらず、私も普通に生きています。稽古場には電車で通っていますし、ママチャリをこいで子どもの送り迎えもしているので(笑)」
インタビュー撮影=花井 智子
取材・文=渡邊 玲子
作品情報
- 監督:山岸 聖太
- 脚本:根本 宗子
- 原作:月刊「根本宗子」第10号『もっと超越した所へ。』
- 出演:前田 敦子 菊池 風磨 伊藤 万理華 オカモト レイジ 黒川 芽以 三浦 貴大 趣里 千葉 雄大
- 主題歌:aiko「果てしない二人」(ポニーキャニオン)
- 配給:ハピネットファントム・スタジオ
- 製作国:日本
- 製作年:2022年
- 上映時間:119分
- 公式サイト:https://happinet-phantom.com/mottochouetsu/
- TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開中