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玉山鉄二「セオリーを疑い、新たな自分と表現を探り続ける」:映画『今はちょっと、ついてないだけ』に主演

Cinema

『今はちょっと、ついてないだけ』は、『四十九日のレシピ』などで知られる作家・伊吹有喜の同名小説を柴山健次監督が映画化。秘境を旅する人気カメラマンとして脚光を浴びながらも、ある出来事をきっかけに表舞台を去った立花浩樹が主人公の物語だ。立花を演じた玉山鉄二に、失敗が許されない今の世の中について、思うことを語ってもらった。

玉山 鉄二 TAMAYAMA Tetsuji

1980年生まれ。京都府出身。1999年ドラマ「ナオミ」で俳優デビュー。2005年『逆境ナイン』で映画初主演。主な出演作に、映画『手紙』(06)、『カフーを待ちわびて』(09)、『ハゲタカ』(09)、『ノルウェイの森』(10)、『星守る犬』(11)、『ルパン三世』、『亜人』(14)、NHK大河ドラマ「八重の桜」(13)、NHK連続テレビ小説「マッサン」(14)、「西郷どん」(18)、WOWOWドラマ「トップリーグ」(19)、Netflixドラマ「全裸監督」(19)、「全裸監督シーズン2」(21)など。

19歳でファッション誌のモデルとしてデビュー。その後、ドラマ出演をきっかけに俳優へと軸足を移してから既に20年以上にわたり、正統的なヒーローからクセの強い役柄まで幅広くこなせる実力派俳優として、確固たる地位を築いている玉山鉄二。

企業買収をテーマにした『ハゲタカ』では、中国系ファンドの“赤いハゲタカ”こと劉一華役で日本アカデミー賞優秀助演男優賞に輝き、2014年NHK連続テレビ小説『マッサン』では、本格的な国産ウイスキー造りに奮闘する主人公・亀山政春を熱演。近年はさらにWOWOWドラマ「トップリーグ」での政治記者役から、Netflix「全裸監督」シリーズにおけるAV制作会社の社長まで、二枚目も三枚目も自在に演じ切る振り幅の大きさに注目が集まっている。

3年前、「トップリーグ」の取材では、政治記者の役を演じたばかりだったからなのか、玉山から記者の仕事について逆取材をされた経験があり、知的好奇心の強さに驚かされた。

経験を積み重ねて見えてきたもの

― 玉山さんはモデル出身ですが、インタビュー撮影のように、役ではなく「玉山鉄二」として写真を撮られている瞬間には、どんなことを意識されているんですか?

玉山 特に何も考えていないですね。昔は「こうすればカッコよくなるかな」みたいなことも考えていたとは思うんですけど、最近は表面的なカッコよさや美よりもむしろ……と考えるようになって。でもそうなってから、「トライしてみたいな、トライしてもいいかな」と思える役の幅がすごく広がりました。「こうじゃなきゃいけない」みたいな“心の檻”が年々少しずつなくなっていったような気がします。

― 心境の変化があったということですね?

玉山 「カッコよかった」、「イケメンだった」と言われることが少し苦痛というか。年齢とともにそこに対してあまり響かなくなってしまった自分がいて。逆に言えば、そうじゃないところで評価してほしいと思う図々しい自分がいたりもするんですけどね(笑)。

かつての人気カメラマン・立花を演じる ©2022映画『今はちょっと、ついてないだけ』製作委員会
かつての人気カメラマン・立花を演じる ©2022映画『今はちょっと、ついてないだけ』製作委員会

― だからこそ普段からあまり構えず、フラットな状態でいることを心がけていると。

玉山 そうですね。あとは、何に対しても周りからの影響をあまり受けない人でありたい、と思うようになってきました。もちろん、出会った人や読んだ本から、無意識のうちに影響されている部分はあると思うんですけどね。

― もともと影響されやすいという自覚があるからとか?

玉山 いや、時代だと思います。ここまでSNSが普及していて、あまりにも情報が多すぎるから。それによって自分の哲学とか理念が崩れるのが、怖いんだと思います。今の時代って、ちゃんと自分を持っていないと、崩れるのがすごく早いじゃないですか。

暮らし始めたシェアハウスでは、不器用な仲間たちとの出会いがあった ©2022映画『今はちょっと、ついてないだけ』製作委員会
暮らし始めたシェアハウスでは、不器用な仲間たちとの出会いがあった ©2022映画『今はちょっと、ついてないだけ』製作委員会

― 玉山さんは以前、「心に痛みを抱えたり、理不尽な立場に置かれたりしている人物を演じて、いろんな人の人生を疑似体験したことで、人の気持ちが分かるようになった」とお話しされていました。今も役とともに成長している感覚がありますか?

玉山 そうですね。役によっては、「ああ、こういう自分もいるんだ!」って気付かされるケースもあったりします。人って、自分のことを誰より分かっているようで、意外と分かっていなかったりするものじゃないですか。

― はい。ほとんどの人が、分かったつもりになっているだけなのかもしれません。

玉山 40歳を超えた自分でもそう感じるってことは、きっとまだまだ見つけきれていない要素もたくさんあるんでしょうね。知らなかった自分と出会ってショックを受けることもあれば、うれしく感じることもある。この映画にも通じることですが、今はセカンドチャンスを与えられることが少ないし、ある年齢を過ぎてから新たな境地に足を踏み入れるのが怖いと感じてしまう人も多い。それはもちろん自分の問題でもあるけれど、みんながそう考えて尻込みしてしまう背景には、社会情勢やその時代のモラルとも、大いに関係があるんじゃないかと思うんです。

生きづらい世の中で大事にすべきこと

『今はちょっと、ついてないだけ』で玉山が演じる立花浩樹は、かつて秘境を撮るカメラマンとしてテレビのドキュメンタリー番組に出演し、一世を風靡(ふうび)した。だが、現実には自分の意志とは裏腹にすべてお膳立てされた虚構の世界で生きていたに過ぎず、どこか空しさもあった。その後、あるトラブルに巻き込まれて表舞台を去り、地道に日々を送る中、「もうカメラを手にすることもない」と諦めかけていた。

暮らし始めたシェアハウスでは、失職した元テレビマンの宮川(音尾琢真)や求職中の美容部員・瀬戸(深川麻衣)、復活を望む芸人の会田(団長安田/安田大サーカス)と出会う。自身と同じく不器用な仲間との交流を通じて、立花は等身大の自分のままで、人生の新たな一歩を踏み出していく――。

©2022映画『今はちょっと、ついてないだけ』製作委員会
©2022映画『今はちょっと、ついてないだけ』製作委員会

― 立花はシェアハウスの仲間と交流しながら、ずっと心の奥底に閉じ込めてきた感情と向き合い、自分の能力や才能を活かせる道を探っていきます。玉山さんの目には、今の世の中はどんなふうに映っていますか?

玉山 今は、一度人生につまずいた人だけでなく、誰にとっても生きづらい世の中になってしまっていますね。若い人も、社会から保守的な大人になるように刷り込まれてしまって。「ビジネスでイノベーションを起こしたい」とか「クリエイティブなことにチャレンジしていきたい」と考える人が生まれにくくなっていますよね。

©2022映画『今はちょっと、ついてないだけ』製作委員会
©2022映画『今はちょっと、ついてないだけ』製作委員会

― 素直に自分を出せない雰囲気ですよね。

玉山 率直に自分の意見を述べただけでも、もしそれが少数派の意見だったら、すぐに異分子扱いされてしまう。周りの空気に負けて、踏み絵を踏まされるような自分になったら悲しいと思います。だから僕はSNSをやっていないんです。

― 確かに、SNSの普及で、情報に流されやすい世の中になっていますね。

玉山 何事も自分で調べてみて、幅広い知識を身につけなければと思って。僕はニュースも大手のメディアに限らず、海外のサイトも見たりして、多角的に情報を集めるようにしています。ネット上にゴシップがあふれているのもどうかと思いますね。新しい情報に飛びついて満足したいのも分かるけど、時間がたっても本当に価値がある情報なのか、よく考えてみたらいいんじゃないかな。

― 玉山さんのように人に流されない信念を持つのは大事ですね。以前、「あまり人に依存しない」とおっしゃっていました。

玉山 依存もしないし、むやみに人を信用しないところはありますね。情報に対しても視点を変えてみる。何事もちょっと斜めに見てみるというか。1回しかない人生だから、人に影響されて無駄にしたくない。最終的なジャッジは、ちゃんと自分でしたいんですよ。

©2022映画『今はちょっと、ついてないだけ』製作委員会
©2022映画『今はちょっと、ついてないだけ』製作委員会

― この映画の企画が立ち上がったのは、コロナ禍の前だったそうですが、今だからこそ多くの人の心に響きそうですね。

玉山 ここ最近の、人の過ちを許さない風潮って、自分で自分の首をしめているようにしか見えないんですよ。子どもたちが大きくなって、世の中このままでいいのかと。子どもの時はピュアで、ひたむきに日々を過ごしていたのに社会に出たら……って思うと歯がゆい。今の世の中、ピュアな人が馬鹿にされることの方が多いじゃないですか。共演した団長さん(団長安田)、僕大好きなんですよ。絶対に人のことを悪く言わないし、ずるさもなく、話していてすごく新鮮で。でも世間では“天然”扱いされてしまうんです。僕はピュアな人たちが生きづらい世の中のままではイヤだなと。

― 苦しんでいる方々も、「今はちょっと、ついてないだけ」と肩の力が抜けるといいのですが……。

玉山 いや、何かに対して違和感を持つことは大事です。アクリル板だって、コンプライアンスやハラスメントの対策だって、「やってます」という演出になっていては意味がない。問題が起きたときの布石を打っておくためじゃなくて、本質的に考えないと。

― 何事も右へならえで受け入れてはいけないということですね。

玉山 そう! じゃないと、クリエイティブなんか生まれないと思う。セオリー通りに表現する方が、流れ作業みたいなもので、楽じゃないですか。でも大切なのは、いかにそこにあらがって、「ほかにもっとよい表現があるんじゃないか?」って探すこと。だから僕はいつだってセオリーを疑いながらこの仕事に臨んでいます。そうやって悩んで悩んで出てきたものがクリエイティブだと、僕は思っているので。

インタビュー撮影=花井 智子
スタイリスト=袴田 能生(juice) ヘアメイク=城間 健(VOW-VOW)
取材・文=渡邊 玲子

©2022映画『今はちょっと、ついてないだけ』製作委員会
©2022映画『今はちょっと、ついてないだけ』製作委員会

作品情報

  • 監督・脚本・編集:柴山 健次
  • 原作:伊吹 有喜「今はちょっと、ついてないだけ」(光文社文庫 刊)
  • 出演:玉山 鉄二 音尾 琢真 深川 麻衣 団長安田(安田大サーカス)/高橋 和也 他 
  • 配給:ギャガ
  • 製作国:日本
  • 製作年:2022年
  • 上映時間:128分
  • 公式サイト:https://gaga.ne.jp/ima-tsui/
  • 4月8日(金)新宿ピカデリー他 全国順次ロードショー

予告編

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