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塚地武雅「芝居もコントも“愛されるように”演じたい」 映画『梅切らぬバカ』に自閉症の息子役で出演

Cinema エンタメ

加賀まりこの54年ぶりの映画主演作『梅切らぬバカ』は、大きな梅の木がある古民家で、自閉症を抱える中年の息子と暮らす、老いた母の愛を描いた人間ドラマ。地域の偏見や不和など厳しい現実も取り入れながら、息子の自立を案ずる母の姿が丁寧に映し出されている。「忠(ちゅう)さん」と呼ばれる自閉症の息子・山田忠男を演じた塚地武雅に、芝居と笑いの共通点や、役作りの極意について語ってもらった。

塚地 武雅 TSUKAJI Muga

1971年、大阪府出身。1996年、鈴木拓とともにドランクドラゴンを結成。2000年、2001年にNHK「爆笑オンエアバトル」のチャンピオン大会に進出し全国区に。その後、俳優としても活躍。自身第2作目の映画出演となった『間宮兄弟』(06)では佐々木蔵之介とのダブル主演に抜擢。その演技力が高く評価され、日本アカデミー賞新人俳優賞をはじめ数々の賞を受賞。近年の主な出演作に『の・ようなもの のようなもの』(16)、『高台家の人々』(16)、『屍人荘の殺人』(19)、『嘘八百 京町ロワイヤル』(20)、『樹海村』(21)など。

カメラマンが「今度は“忠さん”でお願いします!」と声をかけた途端、塚地の表情がスッと一瞬で切り替わった。「これが“役者・塚地武雅”か!」とゾクッとした。そう伝えると「いやいや、どうしたもんかなあと思いながら……」と、知られざる葛藤をのぞかせた。

「お芝居している時はいいんですが、今回はキャラクターの特徴というより自閉症の方々の特徴であったりするものだから。ここで安易にやっていいのかなあという迷いもあって……」

庭にある梅の木の下で母(加賀まりこ)に散髪をしてもらう忠さん(塚地武雅) ©2021「梅切らぬバカ」フィルムプロジェクト
庭にある梅の木の下で母(加賀まりこ)に散髪をしてもらう忠さん(塚地武雅) ©2021「梅切らぬバカ」フィルムプロジェクト

役作りは人間観察から

幼い頃から「モノマネが得意だった」という塚地。何気ない会話の途中にたまたま取り入れた学校の先生のモノマネが、クラスメイトや同級生らの間でみるみるうちに評判となり、気づけば学校中の人気者に。「高2の時は先生全員のモノマネができましたから!」と笑う。

「人を笑わせる快感に取り憑かれたみたいなところがありますね。先生の口ぐせを真似したらクラスのみんなが笑ってくれて。『なんやコレ? あー、これがウケるってことなんや!』みたいな感覚を味わって。そのうち他のクラスの子らも休み時間に『塚地って誰?』と押しかけて来るように。『〇〇先生のマネやって!』という注文に応えてやると、みんなが笑って教室に帰っていく……みたいな感じでしたから。子どもながらに笑わすってことはなんとなく尊いもんやと思っていて。“笑わせる”って、世の中で一番欲深い職業やと思いますね」

お笑い芸人でありながら、数々のドラマや映画にも出演する名バイプレーヤーとしても知られる塚地。役作りは「観察することから始まる」といい、「コントだろうが、バラエティーだろうが、基本は変わらない」と話す。塚地にとって人間観察はもはや習慣で、「なんなら、いまもそういう目で見てますからねえ」とほくそ笑む。それこそコントでは、子どもになりきって演じることもあれば、おじいちゃんになったり、コギャルになったり、果ては“イカ大王”まで何でもござれ。似るか、似ないかの極意は「ふとした時の仕草や細かい癖に注目すること。ああ、わかる~!となるのは、意外と細かいことやから」。

「それこそ『この職業の人は、右重心なのか、左重心なのか』みたいなことから始まって。『立っているときは、手をどうするやろ?』とか、逐一観察してみたり……。話すスピードなんかに注目するのも好きですね。まあ、普段あんまり意識することはないですが、キャラクター作りということでは、お芝居の役作りにもつながってるかもしれません。面白いなあ、可愛らしいなって思うところに注目しながら、その人の特徴を掴んでいく感じですかね」

仕事に集中する忠さん ©2021「梅切らぬバカ」フィルムプロジェクト
仕事に集中する忠さん ©2021「梅切らぬバカ」フィルムプロジェクト

ウケることに得も言われぬ心地よさを感じていた子ども時代と、芸人としてウケることを生業としながら、さらに技術を磨いている現在。その二つの違いについて訊ねると、「それはやっぱり、笑わせなければ……という重圧を背負っているか、いないか」だという。

「学生の時は別にウケなくても構わないですけど、仕事の場合はウケないと、さすがに給料泥棒になっちゃいますから(笑)。現場でウケたらヨッシャー!って思いながら帰れるし、ウケなかったら凹んで帰ってお酒を飲んで、憂さを晴らすことになるでしょうし(笑)。でも逆に言うと芸人は笑わせることだけを考えていればいいから、ある意味ラクな仕事であるとも言える。だから全然売れなくても辞められない若手芸人が、大勢いるんやと思います」

難しい役に挑む覚悟

お笑い芸人であることから、これまでは役の番手にかかわらず「コメディリリーフ的な役回りを求められることが多かった」と話す塚地。だが、冒頭にも記した通り、本作の中で求められたのは笑わせるのとはむしろ対極にあるともいえる、自閉症の男性としてのリアルな芝居だった。忠さんを演じる上では「正直葛藤もあった」と複雑な心境を明かす。

「難しいテーマですし、自分はお笑い芸人だからともすればふざけていると見られやすい。バラエティーに出ている僕を見たことがある人は、“モテないオタク”というパーソナリティも知っていると考えると、それが映画的にマイナスにならないかという不安もありました。イメージがまだついていない新人の芸人さんがやった方がいいのではないかって。でも、この作品にかける監督の思いを聞いて、それを払拭することにこそやりがいを覚えて、取り組むことにしたんです」

役作りにあたっては、日頃から研ぎ澄ませてきた観察眼を、最大限発揮することになった。スクリーンに映し出されているのは塚地武雅ではなく、まさに“自閉症の忠さん”そのもの。「自閉症のドキュメンタリーをたくさん観た上で、グループホームを訪問して」体得した。

「自閉症の方々と向かい合わせに座って同じ時間を共有し、特徴的なしぐさや言動をじっと観察してみたり、施設の担当者やご家族にお話を伺ったり……。もちろん自閉症といっても十人十色だし、必ずこうだという決まりもなければ、その人の症状の度合いによっても違う。実際に自分の目で見たり感じたりしたことの中から、『忠さんっぽいな』というのを寄せ集めて、キャラクターに投影した感じですね」

加賀まりこが息子想いの母親を好演 ©2021「梅切らぬバカ」フィルムプロジェクト
加賀まりこが息子想いの母親を好演 ©2021「梅切らぬバカ」フィルムプロジェクト

にじみ出る人の良さの秘密

実生活でも自閉症の家族がいる女優の加賀まりこが、占い師として生計を立てながら、忠さんの世話をさりげなく焼く、愛情深い母を自然体で演じる。塚地は加賀の印象について、「言わずと知れた大女優。お会いするまでは怖かった」と明かす。

「バラエティー番組でも歯に衣着せぬ発言をされる方だから、僕のことなんか認めていないどころか、『なんなの?』と思っているかもしれないと……(笑)。でも脚本(ホン)読みの時から圧倒されっぱなしでした。台本の読み込み方も違えば、自分なりの考えもしっかりお持ちで、『このお母さんはこんなこと言わない、こう言うと思う』と。すべてが納得できることやったんで、僕は何もかも加賀さんにお任せしただけ。朝起きて、歯磨きに行って、ヒゲを剃って、部屋に戻って、テーブルに座って、ご飯を食べる……というルーティーンを繰り返し、僕が食べこぼしたものを加賀さんが拭い取ってくれる。僕はただ頼りになる母に身を委ねれば息子になれました」

母に爪を切ってもらう不安顔の忠さん ©2021「梅切らぬバカ」フィルムプロジェクト
母に爪を切ってもらう不安顔の忠さん ©2021「梅切らぬバカ」フィルムプロジェクト

日夜、笑いを取ることを考え続けるという塚地だが、笑いの要素を一切封印したシリアスな芝居をしているときにも、“ウケた”のと似た快感を味わうことがあるという。だからこそ「笑いを取りにいくのと同じ熱量を持って芝居にも取り組めている」と。

「バラエティー番組とかコントにおいて“ウケる”っていうのは、お客さんやスタッフの笑い声の大きさで測るケースが多いと思います。でもシリアスな芝居をしているときでも、たまに自分で『めちゃくちゃハマった!』と思える瞬間があるんですよ。言葉ではうまく表現できないんですけど、それが“ウケる”という感覚にすごくよく似ている。やればやるほどもっとそれが欲しくなるから、僕はお芝居もやっているのかもしれません」

隣に引っ越してきた家族とも「梅の木」の枝でトラブルに……。だが、次第に交流が生まれる ©2021「梅切らぬバカ」フィルムプロジェクト
隣に引っ越してきた家族とも「梅の木」の枝でトラブルに……。だが、次第に交流が生まれる ©2021「梅切らぬバカ」フィルムプロジェクト

コントやトークで誰かをネタにするときは、笑いを取るために話を多少デフォルメすることもある。だが、お笑い芸人としての塚地武雅のポリシーは「可愛らしく見えるようにしてあげること」だという。

「ネタにされた方の人から喜んでもらえるように、というのが僕のモットーかな。でも学生時代は本人がイヤがる癖まで平気で真似していたから、今思うと先生方からは嫌われていたかもしれないけど(笑)。今回のような役どころは、いつか来るだろうなとは思っていたんです。このタイミングで挑戦できたことは、これからの自分にとって、きっとプラスになると思います。僕が忠さんを演じることで、とっつきにくいだけじゃなく、みんなが名前で呼びたくなるほど可愛らしく見えるところまで、ちゃんと持っていってあげたかった。映画を観た人が僕のことを『忠さん!』と呼んでくれるまでになったらうれしいですね」

インタビュー撮影=花井 智子
取材・文=渡邊 玲子

©2021「梅切らぬバカ」フィルムプロジェクト
©2021「梅切らぬバカ」フィルムプロジェクト

作品情報

  • 監督・脚本:和島 香太郎
  • 出演:加賀 まりこ 塚地 武雅/渡辺 いっけい 森口 瑤子 斎藤 汰鷹/林家 正蔵 高島 礼子
  • 音楽:石川 ハルミツ
  • 配給:ハピネットファントム・スタジオ
  • 製作国:日本
  • 製作年:2021年
  • 上映時間:77分
  • 公式サイト:https://happinet-phantom.com/umekiranubaka/
  • 11月12日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国ロードショー

予告編

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