酒井法子が銀幕に復帰、お蔵入りの危機から7年越しに公開する映画『空蝉の森』
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1986年にアイドルとして15歳でデビューして以来、歌手から女優へと活動の幅を広げ、長年にわたって人気タレントの座に君臨した酒井法子。90年代初め、中国語圏で日本以上の大人気を獲得したのをきっかけに、20代に入って脱アイドルに成功し、より本格的な芸能活動を展開していった。
93年にドラマ「ひとつ屋根の下」(フジテレビ)に続き、95年には「星の金貨」(日本テレビ)に主演。主題歌の「碧いうさぎ」が大ヒットすると、同年大みそかのNHK紅白歌合戦に初出場を遂げ、女優と歌手の両方でキャリアのピークに上り詰める。
その後、結婚・出産し、子育てと芸能活動を両立させるなど、順調に見えた30代だったが、2009年に覚せい剤使用・所持の疑いで逮捕され、懲役1年6カ月、執行猶予3年の有罪判決を受けた。世間が受けた衝撃の大きさは、裁判の傍聴を希望する人が押し寄せ、抽選の倍率が日本における刑事裁判史上最高の330倍を記録したことでも分かる。
その酒井が12年11月に執行猶予期間を終え、芸能活動を再開後初の映画出演となったのが『空蝉(うつせみ)の森』だ。監督は05年の『心中エレジー』でデビューして以来、『ねこタクシー』(10年)、『くろねこルーシー』(12年)など数々の作品を手掛けてきた亀井亨で、14年には撮影がほぼ完了していた。しかし何の因果か、公開を迎える前に製作会社が倒産し、「お蔵入り」の状態になってしまう。それが今回、さまざまな障壁を乗り越え、およそ7年越しに劇場公開を迎えた。
酒井が演じるのは、3カ月の失踪を経て、再び現れたミステリアスな女性、結子。夜明けに海沿いの国道を裸足で歩いていたところ、警察に保護されて家に帰り着くが、失踪前後の記憶を失っているらしい。結子を迎えた夫・明彦は、妻が無事に帰宅したのを喜ぶかと思いきや、あくる日事情を聴きに来た刑事に「別人だ」と主張する。「お前は誰だ」と問い詰める夫に、「何を言ってるの、結子だよ」と繰り返す妻。夫の頭がおかしくなったのか、それとも瓜二つの女が妻を装って嘘をついているのか…。謎をめぐって、予想外の事実が次々と明らかになり、物語は二転三転しながら展開していく。
終始うつむき、消え入るようなかぼそい声で話す主人公の「陰」が、酒井法子のたたずまいからにじみ出る。精神の平衡をかろうじて保っているようにも見える明彦を斎藤歩が好演する。定年退職目前の老警部(柄本明)と新米刑事の軽妙なやりとりで、事件の手がかりを巧みに明かしていく手法が光る。柄本の怪演は言うに及ばず、その妻で2018年に亡くなった角替和枝や、昭彦の精神カウンセラーを演じる西岡德馬、失踪事件を追うジャーナリスト役の金山一彦ら、脇を固めるベテラン勢も持ち味を存分に発揮している。
暗いトーンの画面と多用されるロングショットが、何が真実なのか分からない謎めいた状況へと観客を効果的に引き込んでいく。そして人物たちの周りで、ざわめき続けるセミの声。緑深い森の奥で何が起きているのか、何が起きたのか、何が起きようとしているのか、冒頭から最後まで、息をのむようにスクリーンを凝視し続けることになるだろう。
作品情報
- 出演:酒井 法子 斎藤 歩 金山 一彦 池田 努 長澤 奈央 角替 和枝
西岡 德馬 柄本 明 - 監督:亀井 亨
- 脚本:亀井 亨 相原 かさね
- 制作協力:株式会社NBI
- 製作:山本 風彬 吉井 盛治
- プロデューサー:太田 裕輝
- アソシエイト・プロデューサー:伊与木敏郎
- 主題歌:「OK」大黒摩季(Being)
- 製作年:2016年
- 製作国:日本
- 上映時間:118分
- 配給・宣伝:NBI
- 協力:アルミード
- 公式サイト:utsuseminomori.com
- 2月5日(金)よりアップリンク渋谷ほかにてロードショー